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第四章 古城の幽霊城主と乙女怪盗
深夜、地下室へ 3
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遠くを見るような左だけの瞳は、ヒカリゴケのように青白く輝いていた。
「そっか……。メイの父上のお墓なんだね。母上は……?」
メイは力なく首を振る。母も亡くなったか、行方が知れないのだろう。
城にひとりきり残されて寂しくないわけがない。侯爵は幽霊のような風体だから、悩みを相談したり甘えられるような間柄ではなさそうだ。
「私もね、両親がいないんだ」
明るく告げると、それまで墓石を眺めていたメイは首を傾けて、始めて横に立つノエルを見た。無表情のメイに、ノエルはにこりと微笑む。
「寂しいときあるよね。私は部屋にひとりになると、よく自分を責めてたなぁ。特に母上が亡くなったのは私が産まれたからだから、産まれてこなきゃよかったって後悔しながら泣いてた」
それが引きこもり伯爵のはじまりなのだった。今思えば懐かしくすらある。
メイは何も喋らなかったが、じっとノエルの話に耳を傾けているようだった。
「でもね、私が哀しんでばかりいたら父上と母上も天国でがっかりしちゃうよね。それがわかったから、すぐに哀しむのやめるってわけにいかないんだけどね。だから、何か目標を作ればいいんだよ。やるべきことがあって忙しいと、哀しい気持ちが薄くなるから」
ノエルの場合は、失った『天空の星』を取り戻すという目標を掲げた。フランソワの提案により乙女怪盗をはじめたことが、哀しみから脱却した切欠だったといえる。
「メイにも何かあるかな? 夢とか、目標とか」
「……ある。果たさなきゃならないこと、あるにゃん……」
「ホント? なになに?」
再び墓石に目をむけたメイは、ぼそりと呟いた。
「宝石を……取り戻すにゃん」
一拍置いて、ノエルは目を瞠る。
「……えっ?」
今、自分の考えが言葉になったのかと思った。
まさかメイは偽の乙女怪盗かという疑いが噴出していたが、こうもあっさり肯定されてしまうなんて。
けれどノエルは、ふと気がつく。
「取り戻す」ということは、ノエルと同じように元々は手元にあったことを表す。つまり、メイもしくはメイの父上は『天空の星』の本来の所有者なのだろうか。侯爵は確か、代々ラ・ファイエット侯爵家で受け継いできた宝石だと主張していた気がするのだが。
「あの宝石の本当の持主は、メイなの?」
「本当のことなんて、何もないにゃん」
「でも、宝石を取り戻すんでしょ? どうして予告状を出したの? そんなことしなくても侯爵に話せば、きっとわかってもらえるよ」
「予告状……」
そのとき、明かりが明滅した。
ふと振り向けば、後ろで静かにふたりを見守っていたアランの持つ角灯が、点滅を繰り返している。
「油が切れそうだ。そろそろ戻るぞ」
角灯がなければ、階段は暗闇になってしまう。アランの先導で、ノエルとメイは墓場を後にした。長い螺旋階段を上り、地下を出る。
城の一階のほうが、より闇が濃い気がする。窓からは月明かりも射さない。
「うん? まだ若干残っていたようだな」
油は完全に切れたわけではないようで、点滅していた角灯は元の明かりを取り戻した。
「あれ? メイは?」
いつの間にかメイの姿がない。階段を上っているときは確かにいたはずだ。
狭い廊下を抜け、アランは大階段にむけて角灯を翳した。
「あそこに……」
人影がある。
メイに呼びかけようとして、ノエルは喉を引き攣らせた。
「ぎひいいいいいいいいい……」
「君たち、こんな夜更けに何をしているんだね……」
落ち着いた声音で、ラ・ファイエット侯爵は語りかけてきた。
暗闇の中に浮かび上がる白の包帯が、まるで首だけのように見えている。ノエルは卒倒しそうになり、かろうじてアランの上着の裾を掴んで踏み止まった。
「今晩は、侯爵。実は、水を捜して地下にお邪魔しました」
アランはごく冷静に答え、腰に提げた皮袋を示した。包帯に隠れているのでどこを見ているのかわからないが、侯爵は大階段の踊り場から微動だにせずノエルたちを見下ろしている。
「そうか。あまり勝手に動き回らないでくれたまえ……」
「申し訳ありません。すぐに宝石の警備を致します」
「そのようなことは必要ないだろう……」
「そうはいきません。先ほどのお話ですが、もう一度お聞き入れください」
くるりと背を向けた侯爵は大階段をゆっくりと上っていく。
アランは角灯と皮袋をノエルの掌に預けた。
「俺は侯爵と警備について相談してくる。先に戻って執事殿に水を飲ませてやってくれ」
「そっか……。メイの父上のお墓なんだね。母上は……?」
メイは力なく首を振る。母も亡くなったか、行方が知れないのだろう。
城にひとりきり残されて寂しくないわけがない。侯爵は幽霊のような風体だから、悩みを相談したり甘えられるような間柄ではなさそうだ。
「私もね、両親がいないんだ」
明るく告げると、それまで墓石を眺めていたメイは首を傾けて、始めて横に立つノエルを見た。無表情のメイに、ノエルはにこりと微笑む。
「寂しいときあるよね。私は部屋にひとりになると、よく自分を責めてたなぁ。特に母上が亡くなったのは私が産まれたからだから、産まれてこなきゃよかったって後悔しながら泣いてた」
それが引きこもり伯爵のはじまりなのだった。今思えば懐かしくすらある。
メイは何も喋らなかったが、じっとノエルの話に耳を傾けているようだった。
「でもね、私が哀しんでばかりいたら父上と母上も天国でがっかりしちゃうよね。それがわかったから、すぐに哀しむのやめるってわけにいかないんだけどね。だから、何か目標を作ればいいんだよ。やるべきことがあって忙しいと、哀しい気持ちが薄くなるから」
ノエルの場合は、失った『天空の星』を取り戻すという目標を掲げた。フランソワの提案により乙女怪盗をはじめたことが、哀しみから脱却した切欠だったといえる。
「メイにも何かあるかな? 夢とか、目標とか」
「……ある。果たさなきゃならないこと、あるにゃん……」
「ホント? なになに?」
再び墓石に目をむけたメイは、ぼそりと呟いた。
「宝石を……取り戻すにゃん」
一拍置いて、ノエルは目を瞠る。
「……えっ?」
今、自分の考えが言葉になったのかと思った。
まさかメイは偽の乙女怪盗かという疑いが噴出していたが、こうもあっさり肯定されてしまうなんて。
けれどノエルは、ふと気がつく。
「取り戻す」ということは、ノエルと同じように元々は手元にあったことを表す。つまり、メイもしくはメイの父上は『天空の星』の本来の所有者なのだろうか。侯爵は確か、代々ラ・ファイエット侯爵家で受け継いできた宝石だと主張していた気がするのだが。
「あの宝石の本当の持主は、メイなの?」
「本当のことなんて、何もないにゃん」
「でも、宝石を取り戻すんでしょ? どうして予告状を出したの? そんなことしなくても侯爵に話せば、きっとわかってもらえるよ」
「予告状……」
そのとき、明かりが明滅した。
ふと振り向けば、後ろで静かにふたりを見守っていたアランの持つ角灯が、点滅を繰り返している。
「油が切れそうだ。そろそろ戻るぞ」
角灯がなければ、階段は暗闇になってしまう。アランの先導で、ノエルとメイは墓場を後にした。長い螺旋階段を上り、地下を出る。
城の一階のほうが、より闇が濃い気がする。窓からは月明かりも射さない。
「うん? まだ若干残っていたようだな」
油は完全に切れたわけではないようで、点滅していた角灯は元の明かりを取り戻した。
「あれ? メイは?」
いつの間にかメイの姿がない。階段を上っているときは確かにいたはずだ。
狭い廊下を抜け、アランは大階段にむけて角灯を翳した。
「あそこに……」
人影がある。
メイに呼びかけようとして、ノエルは喉を引き攣らせた。
「ぎひいいいいいいいいい……」
「君たち、こんな夜更けに何をしているんだね……」
落ち着いた声音で、ラ・ファイエット侯爵は語りかけてきた。
暗闇の中に浮かび上がる白の包帯が、まるで首だけのように見えている。ノエルは卒倒しそうになり、かろうじてアランの上着の裾を掴んで踏み止まった。
「今晩は、侯爵。実は、水を捜して地下にお邪魔しました」
アランはごく冷静に答え、腰に提げた皮袋を示した。包帯に隠れているのでどこを見ているのかわからないが、侯爵は大階段の踊り場から微動だにせずノエルたちを見下ろしている。
「そうか。あまり勝手に動き回らないでくれたまえ……」
「申し訳ありません。すぐに宝石の警備を致します」
「そのようなことは必要ないだろう……」
「そうはいきません。先ほどのお話ですが、もう一度お聞き入れください」
くるりと背を向けた侯爵は大階段をゆっくりと上っていく。
アランは角灯と皮袋をノエルの掌に預けた。
「俺は侯爵と警備について相談してくる。先に戻って執事殿に水を飲ませてやってくれ」
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