乙女怪盗ジョゼフィーヌ

沖田弥子

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第四章 古城の幽霊城主と乙女怪盗

決闘

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 この宝石の名は『天空の星』ではない。本当の名は――。

「どうやら、話していても埒が明かないようだな。ノエルが乙女怪盗ジョゼフィーヌだと、認めざるを得ない証拠を見せつけてやるしかなさそうだ」

 アランは小型のナイフを取り出した。彼の手が、人形の背を刺して縫い目を解いていく。
 ざくり、ざくり、と切り刻まれる音に、ジョゼフィーヌは震撼する。
 盗まれた百個の宝石が人形の腹から出されてしまえば、もはや言い逃れはできない。
 綿が飛び出した。
 アランの指先が、中を掻き出す。
 ぽろり。
 石が、零れ落ちた。

「見ろ。この宝石を見ても無関係だと言え――」

 摘まんだ石を掲げてみせたアランの表情が凍りつく。
 月明かりに照らされたそれは、黒ずんだ石だった。
 光を跳ね返すこともない、ただの石だ。
 ジョゼフィーヌは冷笑を浮かべた。

「……あら? 素敵な石ねえ。庭石かしら?」

 もちろん、宝石ではない。まさにそこらの庭に敷き詰められているような代物だ。
 驚愕したアランは、バルスバストルが持ってきた人形たちを見回した。

「バルス! 他の人形も開けてみるんだ!」
「はっ、はい。どれどれ……フッフン~」

 同じように狂気人形は解体されたが、どれも石ころしか出てこない。百体の人形の残骸と綿と、石ころに塗れたアランは床を蹴りつけた。

「くそ……。どういうことだ⁉ 宝石の隠し場所はここしかないはずだ‼」
「何のことかしら? それよりも、伯爵の大事な人形を粉々にしちゃって大丈夫? 今から謝る練習でもなさったらいかがかしら」

 遠慮なく勝ち誇った笑い声を、優雅に轟かせる。
 ノエルとフランソワは、旅立つ前日に狂気人形の背を開き、屋敷の庭石と宝石を入れ替えていたのだ。
 周到な準備なくして成功はない。まさに完璧執事の仰るとおり。
 ゆらりと、アランはジョゼフィーヌに向き直った。

「これで証拠が無くなったと思うなよ。俺は貴様が思うほどフェミニストじゃない。この場で乙女怪盗の仮面を剥げば済む話だ」

 彼はやる気だ。
 アランからは気迫が漲っている。
 どうやら、決着をつけるときが来たようだ。
 ジョゼフィーヌは腰に佩いたレイピアの柄に手をかけた。すらりと抜かれた刃が、月光を撥ねる。

「その小さなナイフで私のお相手が務まるかしら。剣を使用しても、よろしくてよ」

 壁に飾られていた装飾用の長剣を、剣先で指し示す。
 アランは柄を握り、壁から外した。

「見くびるなよ。怪我したくなければ、今のうちに剣を捨てろ」
「そちらこそ。私の素顔を見たければ、命を捨てるくらいの覚悟で挑んでくださるかしら」
「上等だ」

 互いに剣を構える。
 アランの瞳の奥を探るように、ジョゼフィーヌは全神経を集中させた。
 一分の隙もない。手強い相手だ。
 瞬きもせず、彼の呼吸までも計る。
 先に動いたのはアランだった。
 一気に踏み込み、薙ぎ払う。
 ひらりと躱して、アランが剣を振り切ったときには背後を取っていた。だが振りかぶろうとした刹那、足払いを仕掛けられて断念し、後ろに跳躍する。
 背中に壁が付く。狭い室内では逃げ場がない。追い詰められてしまえば喉元に剣先を突きつけられてしまうだろう。
 またも深く踏み込んできたアランを横に避けて躱す。さらり、さらりと身を捻らせては切っ先を避け続けた。壁伝いに逃げ続けるジョゼフィーヌに、焦れたアランは先に回り込んだ。

「どうした。逃げてばかりじゃつまらないな」
「そうね。だったら、これはどう?」

 白刃が交わる。
 月光のもと、激しい火花が散る。
 一撃を交わして、また一撃。
 ふたりの視線が交錯する。

「いい腕だな。さすが、乙女怪盗ジョゼフィーヌ」
「お褒めの言葉、ありがとう」

 相手の一挙一投足を見極めて、華麗に、力強く、剣を繰り出す。
 いくつもの斬撃が弧を描いた。
 ジョゼフィーヌが左足に重心を移そうと、わずかに腰を落としたとき。
 ずるりと、足元が滑る。

「う……っ」
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