こじらせ邪神と紅の星玉師

沖田弥子

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第一章

ラーク

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 両の掌に指輪を乗せて、高く掲げる。見下げる男はしばらく黙していたが、指輪を取り、代わりに小鳥の星玉をルウリの掌に置いた。
 パナが首筋で唸っている。嘆き悲しんでいるようだ。

「そんなに哀しまないで、パナ。いつか戻ってくるわ。星玉とのめぐりあいは、そういうものだもの。さあ、工房に行こう」

 早くこの子を解放してあげなければ。
 馬車でのピアスとは違い、生物の場合は慎重に解放しなければならない。急いでエルナ村に戻ろうと踵を返すと、何故か後ろから男が付いてきた。不思議に思って立ち止まると、男も同じく止まる。

「あの……何か? クシャトリヤさま」
「べつに。方向が同じだけだ」

 小首を傾げて再び路地を行く。街の門付近では寄り合い馬車が待機している。出立時刻を確認すると、日暮れだと告げられた。まだ大分先だ。一本早い便は、もう出てしまったらしい。
 仕方ないので素材屋へ寄り、当初の目的だった屑星玉を購入する。麻袋ふたつ分なので大荷物だ。両手に麻袋を抱えたルウリは門へと戻ってきた。小鳥の星玉を覗くと、くちばしが微かに震えていた。

「日暮れ過ぎで間に合うかしら……」
「だって、しょうがないよ。馬車を借りるお金ないもん」

 不満そうなパナの羽を、よしよしと撫でてやる。
 貸切の馬車もあるのだが、料金は乗り合いよりずっと高額だ。後払いでも了承してくれるか頼んでみようと、ルウリは貸切馬車の待機所へ足をむけた。
 馬車通りを横切ろうとしたとき、目の前を一台の幌馬車が通り過ぎた。
 幌馬車は、ルウリの傍らでぴたりと停まる。
 ここで荷物でも載せるのだろうかと何となく見ていたら、御者台から純白のローブが降りてきた。

「あ」

 先ほど会ったクシャトリヤの男だった。真っ直ぐにこちらへ歩み寄ってくる。何か面白くないことでもあったのか、左目だけ見える金の眸で睨まれた。

「なぜ無視する」
「え?」

 両手に持った麻袋を取られた。男に顎で促される。
 ルウリが呆然と立ち尽くしていると、幌馬車の荷台に麻袋を置いた男は、眉根を寄せながら戻ってきた。

「さっさと乗れ。担いで乗せられたいか」
「あ、はい」

 恫喝に近いものがあるが、どうやら馬車に乗せてくれるらしい。御者台に乗り込んだルウリは、手綱を取る男と横並びになる。
 出発した馬車は門を潜り、街道へと踏み出した。陽は大分西へ傾いている。

「あの、この馬車は貴方のなんですか?」
「そうだ」
「私を乗せてくれるんですか?」
「愚問だな。もう乗ってるだろ」
「そうですね……」
「言え」
「はい?」
「目的地だ」
「……エルナ村までお願いします」

 街道の岐路をエルナ村へ向けた男の仏頂面を、ちらりと見遣る。クシャトリヤともなれば黄金の馬車に乗っているものだが、何故目立たない幌馬車なのだろうか。まさか趣味で貸切馬車を運行する趣味でもあるのだろうか。

「あのう……クシャトリヤさま。この貸切馬車はおいくらでしょうか?」

 じろりと睨まれて首を竦める。パナは先ほどからサリーの中に隠れて出てこない。

「俺はクシャトリヤじゃない。それにこれは貸切馬車じゃないぞ。そんなこといちいち説明させるな」
「はあ……失礼しました」

 説明させるも何も、まずは言葉にしてくれないと伝わらないのだが。
 そこで、はっと気づいたルウリは慌てて自己紹介をした。

「私はルウリといいます。エルナ村で星玉師をしています」

 丁寧な挨拶は、深い溜息で迎えられる。

「そんなことは知っている。重ねて言う必要はない」
「あ……そうですか」

 沈黙が流れる。車輪がガタガタと轍を踏むたびに、ルウリの体は御者台から跳ね上がった。
 何だかぎこちなくて、会話が続かない。この青年は、お喋りが嫌いらしい。
 けれど、もっとも大事なことを訊かなくては。

「あの、貴方のお名前は?」
「……ラーク」

 ぼそりと呟かれたひとことに、サリーの布から顔を出したパナが反応する。
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