こじらせ邪神と紅の星玉師

沖田弥子

文字の大きさ
23 / 35
第四章

罪の告白 1

しおりを挟む
 パナとティルバルールは疲れて休んでいるのだろう。先ほどまで聞こえていた話し声は止んでいる。いざとなればふたりは飛んで帰れるので安心だ。
 サリーの布を歯で千切り、掌に巻きつける。これで、もうしばらく持つだろう。
 痛みを堪えながら、つるはしを振り続ける。腕の感覚がなくなってきた頃、切っ先に手応えがあった。
 やっと見つかった。
 丁寧に星玉の原石を掘り出す。かなり地盤は硬く、それに反して原石は脆かった。傷つけてしまわないように、ルウリは手で掘り起こした。
 尖りに引っかかり、爪が割れる。爪先に鋭い痛みが走った。
 もう少し。もう少しだ。

「やったわ……」

 ついに発見した星玉。
 けれどそれは、星玉と呼ぶにはあまりにも質の悪いものだった。クラックがいくつも入り、石自体に濁りがある。磨いている途中で割れてしまうと、結局屑星玉として再利用するしかなくなる。
 とても審査会で出せるような代物ではない。ようやく見つけたのに……。
 ルウリは落胆して肩を落とした。眦に涙が滲む。
 諦めようよ、どうしてそこまでするの? 自分だけ出場すればいいよ、指輪の星玉を使えば合格できるよ、緑色だもの……。
 もうひとりの自分が心の中で囁く。
 激しく首を振る。必死に抵抗した。
 だめ、諦めたくない。指輪の星玉は使えない。あれは、人前で披露するためのものじゃないの。私が星玉師になった理由。この星玉を解放したい。そのために、星玉師になった。
 血の滲んだ原石を取り落とす。
 気がついてしまった。
 私が星玉師になったのは、今こうして星玉を発掘しているのは、星玉のためじゃない。ラークのためでもない。
 自分の罪をあがなうためなんだ……。
 ぼろぼろと零れた涙が原石を濡らしていく。
 握りしめた掌に、鈍痛が広がった。
 カタン……と物音がして、顔を上げる。
 滲む視界のむこう、痛ましさを浮かべたラークが梯子の傍に立っていた。

「……やめるか? もう充分だろう」

 来てくれたんだ。
 嬉しくて、また胸が痛む。笑顔を浮かべたルウリは、ふるりと首を振った。

「やめないわ……。私、諦めたら、星玉師でいられなくなっちゃう」

 笑うと、またほろりと涙がこぼれ落ちた。
 傍にやって来たラークは、血だらけのルウリの手に目を注いだ。

「こんなになるまで、おまえは……。とりあえず水を飲め。食べ物も持ってきた。鳥たちは上でもう寝てるぞ」

 ラークに促されて休憩をとることにする。岩場の隅に腰を下ろして、皮袋から取り出された水筒を受け取った。口に含み、ごくりごくりと喉を鳴らす。知らず喉は乾いていたらしい。冷たいものが流れる感触が心地良い。
 一息つくと、昂ぶっていた感情は落ち着いた。

「ありがとう……。怒ったと、思ってた」

 帰れと言われたのに勝手に星玉を採掘しているなんて。
 また謝らなければいけない案件が出来てしまったのに、食料を持って様子を見に来てくれるなんて思わなかった。
 水筒を取られて代わりにパンを手渡される。ルウリがもそもそと咀嚼する傍らで、残った水筒の水をラークは飲み干した。

「怒ってなんかいない。だが俺は、そうだな、憤っているな」

 同じことだと思う。
 目で訴えるルウリはパンを頬張っているので言葉にできない。察したようにラークは言葉を続けた。

「おまえはどうしてそこまでする。どうして傷ついてまで星玉にこだわる。……その指輪と関係があるのか」

 するりと、革紐にラークの指先が掛けられる。服の中から取り出された指輪は、薄闇の中で深い緑の煌めきを放つ。
 星玉に含まれた内包物は深緑の狭間に沈んでいる。ちいさすぎてルーペを使わないと見えないのだが、彼は気づいただろうか。長い髪の毛、閉じた瞼、微笑を湛えた唇に。

「このなかに入ってる人……私の、お母さんなの……」

 告白する声が戦慄いた。
 はじめて、口にした秘密。
 あの日の記憶が、まざまざと脳裏に蘇る。それは、つい数瞬前の出来事のよう。

「子どもの頃、この星玉を裏庭で見つけて、お母さんに見せたの。そしたら、お母さん、消えちゃったの……。星玉に、呑まれてた」

 ルーペを覗いたときの衝撃は今でも忘れない。
 母は、眠るように星玉の中に、とてもちいさくなって内包されていた。

「私が頑張るのは、お母さんを解放したいからで、星玉のためでもラークのためでもない。自分の罪を許されたいっていう、勝手な想いで星玉師をしているの……最低だよね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

孤独なもふもふ姫、溺愛される。

遊虎りん
恋愛
☆☆7月26日完結しました! ここは、人間と半獣が住んでいる星。いくつかある城の1つの半獣の王と王妃の間に生まれた姫は、半獣ではない。顔が『人』ではなく『獣』の顔をした獣人の姿である。半獣の王は姫を城から離れた塔に隠した。孤独な姫ははたして、幸せになれるのだろうか。。。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine
恋愛
辺境の地・ディトマスの第6要塞の制服管理課で、一人の働く女の子がいた。 彼女の名前はドルマ。仕事はこの要塞で働く騎士達の制服の繕い物だ。 ドルマは対人恐怖症で誰とも話をしない。だがドルマが繕った制服を纏うと、ほんの少しだけ戦闘の時に運が良くなると騎士達の間で評判なのだ。 辺境の防衛責任者として、毎年多くの犠牲者に胸を痛めていた辺境伯の息子・マティアスは、第6要塞にはその年一人も犠牲者が出ていない事に着目して、覆面調査を始める。 小さな手仕事が紡ぐ、静かな恋物語。

処理中です...