こじらせ邪神と紅の星玉師

沖田弥子

文字の大きさ
24 / 35
第四章

罪の告白 2

しおりを挟む
 ラークの反応が怖くて、彼の目を見られなかった。わずかな衣擦れの音に、びくりと身を竦ませる。

「俺と似ているな」
「……え」
「俺も似たような体験をした。祭壇にあった空の台座を見ただろう。あそこには邪の剣が収められていた」
「紛失したという剣ね」
「俺の目の前で、忽然と消えたんだ。星玉に呑まれた」
「その呑んだ星玉って、まさか……」
「そうだ。緑色の星玉だ」

 奇妙な偶然だった。ルウリはヴィクラムから聞いた緑星玉の凝縮について語った。ラクシュミが緑色の星玉であること、合格するには緑星玉の解放が必須であろうことも。

「……なるほど。ラクシュミも緑とはな。ヴィクラムは中身が何かは教えてくれなかったのか」
「いいえ。解放すると起こる奇蹟と関係あるのかしら」

 ラークは奇蹟という言葉を嘲笑うかのように口端を吊り上げた。

「さあな。解放してみればわかるさ」
「ラークはどうしてラクシュミを解放したいの?」

 邪の剣を呑んだ星玉と繋がりがあるのだろうか。もしかしたらラクシュミこそが、その星玉なのか。
 遠くを見るような目つきで、ラークは壁の岩盤を見つめていた。

「おまえと同じだ。自分の罪を、自分で許すため……。俺は、善い神になりたかったんだ」
「え……。善神に?」
「邪の剣で邪を祓えば、善神になれる。あの日、俺は剣を台座から外した。己の邪を祓うために。その結果がこれだ。紛失した剣を解放するために奔走して、邪気をばらまき周りに疎まれる。星玉師になったのも、別に善いことをしようなんて理想を掲げたわけじゃない。自分が犯した失態を拭うためさ……最低だろ?」

 少し前のルウリの台詞を真似て、ラークは皮肉な笑みを浮かべた。
 即座に首を振る。

「最低なんかじゃない。ラークは誰よりも努力しているわ。それが最低だなんてあるわけない」

 工房にあった沢山の星玉と、この鉱山の産出量を見ればわかる。懸命になれるのも、情熱があってこそなのだ。きっかけは仕方のない理由だったとしても、情熱がなければ続かない。
 ルウリも、そうだった。
 母を解放するため。けれど、星玉と対話することが好きだ。解放したときの星玉の、ほっとしたような息継ぎ。依頼者のにこやかな笑顔。それらすべてが、原動力になる。

「それなら、俺も言わせてもらう。おまえは最低なんかじゃない、ルウリ」

 初めて名前を呼ばれて、ルウリの眸が驚きに見開かれる。
 ラークは苦笑とはにかんだ笑みを攪拌させたような顔つきをしたかと思えば、それを見られまいとするように顔を背けた。やっと聞き取れるような声音で、ぼそぼそと続ける。

「俺は、合格するためにおまえが俺を利用したいのだと勘繰っていた。だが違う。俺が邪神だと知ってなお、おまえはこんな僻地まで来て、傷ついても星玉を掘り出そうとしている。ジャイメールのような鉱山で掘ったほうが、はるかに効率が良いのにだ。俺は……おまえに感謝したい。感謝される者が最低なはずないからな」

 照れたように俯きながら告げられて、ルウリの胸にいとしさが溢れた。
 ラークに、感謝してもらえるなんて、嬉しい。
 今、もっとも言いたいことをルウリは率直に口に出した。

「一緒に頑張ろう。私たち、いつか必ず解放できるよ」

 邪の剣を解放するとき、できれば立ち会いたい。そして、母を解放するときにもラークに傍にいてほしかった。出発点と終着点は同じところにあるふたりなのだから、きっと励まし合いながら歩んでいける。
 ラークは眩しいものを見るように片眼を眇めた。静かに頷く。

「ああ、いつか、解放できる。一緒に掘ってみるか。ここよりむこうの穴のほうが質の良いのが出るはずだ」

 荷物を持って梯子を登る。お腹と心が満たされたので、先ほどひとりで掘っていたときの疲労感は吹き飛んでいた。

「わあ……すごい星」

 外に出ると、満天の星空が出迎える。空を仰げば、幾千もの星たちが運河となって連なっていた。見つめていると吸い込まれてしまいそうな神秘的な光景に息を呑む。
 角灯で小屋を翳すと、パナとティルバルールは羽を寄せ合って軒先で眠っていた。一安心してラークの後を付いていく。
 案内された堀場は比較的新しく掘り進めたところのようで、梯子を掛けずとも済む程度に浅い。ルウリが持っていたつるはしを奪うように取り、ラークは振りだした。

「質が良いといっても俺の勘だがな。ここはどこを掘っても出ないも同然だ」
「ラークって、前向きな後ろ向きね」

 風はやんでいた。夜空には星が瞬いている。
 ルウリはラークの隣で、錐を握り少しずつ岩場を削った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

孤独なもふもふ姫、溺愛される。

遊虎りん
恋愛
☆☆7月26日完結しました! ここは、人間と半獣が住んでいる星。いくつかある城の1つの半獣の王と王妃の間に生まれた姫は、半獣ではない。顔が『人』ではなく『獣』の顔をした獣人の姿である。半獣の王は姫を城から離れた塔に隠した。孤独な姫ははたして、幸せになれるのだろうか。。。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine
恋愛
辺境の地・ディトマスの第6要塞の制服管理課で、一人の働く女の子がいた。 彼女の名前はドルマ。仕事はこの要塞で働く騎士達の制服の繕い物だ。 ドルマは対人恐怖症で誰とも話をしない。だがドルマが繕った制服を纏うと、ほんの少しだけ戦闘の時に運が良くなると騎士達の間で評判なのだ。 辺境の防衛責任者として、毎年多くの犠牲者に胸を痛めていた辺境伯の息子・マティアスは、第6要塞にはその年一人も犠牲者が出ていない事に着目して、覆面調査を始める。 小さな手仕事が紡ぐ、静かな恋物語。

処理中です...