こじらせ邪神と紅の星玉師

沖田弥子

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第四章

はじめての贈り物

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 ひとつしかないつるはしはラークが使っているので仕方ないと思ったが、錐のほうが掌の負担が少ない。ラークはあえてつるはしを奪ったのだと気づく。

「俺は相当こじらせてるからな。邪神のくせに善神になりたい。そのくせ良く思われたいわけじゃない。なのに疎まれたくない。だから自分を変えたい。突き進む矛盾ってやつだ」
「こじらせ邪神ってわけね」
「風邪をこじらせたみたいだな。似たようなものか」

 どこか笑いを含んだ声音に、つるはしと錐の尖った音が順番に重なる。
 そうしてしばらくの間、道具が奏でる小気味よい音が岩場に木霊していた。

「あ……流れ星……」

 ふと、空の彼方に弧を描く帚星が目に入る。いつも見る流れ星はすぐ消えてしまうのに、それは長い尾を引いていた。
 カツン、と切っ先に手応えがあった。
 はっとして手元に目を遣る。
 星玉の、原石だ。急いで角灯を引き寄せて確認する。とても小さいが、煌めく鉱石は紛れもない星玉の欠片だった。

「ラーク、見て、あったよ……!」

 身を屈めたラークは間近で覗き込み、慎重に周りを削り取る。小指の爪ほどの鉱石が現れた。

「これは……緑色の星玉だ。見ろ、この部分」

 透明な鉱石の一部分は濃い緑で染まっていた。原石の段階では最終的な形態はわからないが、研磨すれば緑色の星玉が出来上がりそうだった。
 ただ、ちいさすぎる。
 原石で爪先くらいしかないのだ。緑色の箇所は目視できるという程度のサイズだった。

「これ、研磨したらなくなっちゃうわね……」
「だろうな」

 全く期待していないかのようなラークのあっさりとした態度に打ちひしがれる。萎れるルウリの乱れた髪から、簪が滑り落ちた。ぽとりと落ちたそれを、ラークは拾い上げる。

「だから、こんなものだ。審査会に使う石は、気長に掘るさ」
「一緒に出てくれるの?」
「ああ、一緒というのも、悪くない」

 ラークは手にした錐で、簪に付いていた黒ずんだ星玉を弾いた。代わりに、たった今掘り出した緑星玉の原石を付ける。金具のかぎ爪で挟むと完成した。

「やるよ」

 何気ない素振りで、ラークは簪を差し出した。
 磨いていない原石の星玉は、星明かりに輝く。
 ルウリの目には、それがどんな高価な宝石よりも美しく映った。 

「ありがとう……。大事にするね」

 ぎゅっと、簪を胸の前で握りしめる。
 ラークと共に探し当てた星玉。
 はじめての贈り物。
 大切な宝物だ。
 ルウリの綻んだ笑顔を、ラークはじっと見つめていた。視線に気づき顔を上げると、ふいと逸らされる。

「そんなに嬉しいのか」

 再び、つるはしの硬質な音が岩場に響いた。ラークは淡々と作業を進める。

「うん、とっても」
「……そうか」

 彼と少しずつ交わす何気ない会話のひとつひとつが、心に染みていくのは何故だろう。
 ルウリは簪を髪に挿すと、錐を握る。

「あまり無理するな。といっても朝にならないと神殿に降りられないがな。休みながら掘れ」
「うん、もう少しだけ」
「手は痛くないか」
「平気。ラークは疲れない?」
「俺はいい」

 誰かとこんな風に相手を気遣いながら発掘するなんて初めてのことで新鮮だった。それがラークで良かったと思う。彼の不器用な優しさは、居心地が良くて心が和む。

「ここからは朝焼けも美しいんだ。……見よう、一緒に」
「うん」

 その後、星玉は出なかったけれど、神々しい朝焼けを皆で鑑賞した。神殿へと戻った一同は、マドゥが作った朝食を平らげるとベッドに突っ伏したのだった。



 さらさらと、星玉の欠片が工房を乱舞する。
 ラークが研磨した星玉を翳すと、五条の光の筋が煌めいた。

「これがもっとも上等だな」

 銀製の台座に立たせる。静かな輝きは、透明から紅色、そして緑色に変化した。傍らで手伝っていたルウリは椅子から身を乗り出して眺める。

「珍しい星玉ね。光を当てると色が変わるわ」
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