こじらせ邪神と紅の星玉師

沖田弥子

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第五章

バラモンとの面会

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 薔薇の盛りが終わり、茂みとなった庭園を通り過ぎる。重厚な正面玄関の扉を、ふたりの衛兵が両側から開ける。宮殿のホールは煌びやかな光に満ちていた。見上げてみれば、天井に紅い星玉が散りばめられており、それが太陽光を反射させているのだ。
 まるで燃えるような輝き。どこか禍々しささえ感じる。
 長い廊下を渡り、最奥の部屋で衛兵は立ち止まる。部屋の前には執事のような召使いがいて、ルウリを上から下まで検分するように見遣ると、慇懃な所作で叩扉した。

「ルウリ殿をお連れしました」
「入れ」

 扉越しの声はどこか聞き覚えがあるが、果たしてヴィクラムの声だったろうか。
 ルウリが首を捻っていると、金に彩られた豪勢な扉が開かれる。羅紗張りの椅子に腰掛けた人物を見て、ルウリは驚きに立ち竦んだ。

「あなたは……」
「無礼者。膝を折れ」

 静かに命令する少年は、以前審査会で見かけたバラモンだった。
 どうして、バラモンが。
 慌てて膝を折り、胸の前で両手を交差させる。豪華な調度品に囲まれた部屋はバラモンひとりきりで、ヴィクラムの姿はなかった。

「あの、私はヴィクラムさまに呼ばれて来たのですが」
「余に質問するな。ルウリ、おまえはラクシュミの奇蹟を起こしにきた。違うか」

 細い肢体はルウリと変わらないくらいなのに、彼からは有無を言わさぬ力強さが漲っていた。
 無情にも見える感情のない眸。目を合わせれば引き込まれてしまいそうになる。
 ルウリは頭を低く垂れて、バラモンの質問に答えた。

「はい。その通りでございます」
「ラクシュミが緑星玉ということは知っておるな。ヴィクラムが漏らした」
「はい……でも、ヴィクラムさまは私を信頼して教えてくださったのです。決して公表するという意味では」
「黙れ! 聞かれたことだけに答えよ」
「はい……」

 厳しい一喝に身が竦む。何故、バラモンに呼び出されたのか意図が見えない。ヴィクラムはどうしたのだろう。まさかバラモンに罰せられたのだろうか。
 不正を働くつもりではなかったが、ラクシュミの秘密を知っているということは、他の星玉師を出し抜いたと糾弾されても致し方ない。
 どうしよう。もうすぐ審査は始まってしまうのに、ラークを待たせているのに。失格になってしまうのだろうか。
 不安ばかりが押し寄せ、ルウリは身を震わせる。
 バラモンが肘掛けをトン、と指で叩いた。音もなく背後の扉が開く。

「お呼びでしょうか、カマル様」

 指を立てて召使いに合図を送るが、それが何の意味なのか、ルウリにはわからない。カマルは目の前で震えているルウリに、無機質な声音で命令した。

「おまえの持つ緑星玉を、差し出せ」
「え……」

 それは、できない。たとえ、バラモンが相手であっても。
 ルウリは胸元の指輪を握りしめた。

「これは……審査会で使うものではありません」

 カマルは口端を吊り上げて笑った。そんな表情をすると、少年の幼さが消えて邪悪にすら見える。

「あっ……やめて!」

 後ろに控えていた召使いがルウリの腕を捻り上げて、無理やり革紐を引き千切る。
 ぶつりと切れた革紐から零れた指輪を奪い取られた。
 慇懃に捧げられた指輪を、カマルは差し出されたルーペ越しに覗く。

「これは珍しい。人が封印されているな」
「お願い、返してください!」
「おまえの母親か?」

 ルウリは言葉を失う。
 続いてカマルから吐き出された台詞が、ルウリに衝撃をもたらした。

「素晴らしい。やっと見つけたぞ。封印の能力を持つ星玉師を」
「……え?」

 封印の能力?
 星玉師は解放の能力を持つ。星玉に呑まれた内包物を自由にするために。内包物を抱えて苦しむ、星玉を助けるために。
 解き放つ、素晴らしい力。
 それが、星玉師のちから。
 カマルは非情な目でルウリを見下した。

「緑星玉に物を封印できる星玉師がごく稀に存在する。気づかなかったのか? 母親を封印したのは、おまえ自身なのだ」
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