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第五章
拘束
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明かされた真実に、ぐらりと視界が揺れる。立っている場所がわからない。どこか別の空間に放り出されたような虚無が飛来した。
「私に……そんな能力ありません……」
「この緑星玉が何よりの証拠だ。封印をコントロールできれば、おまえはラクシュミを操れる唯一の星玉師になれるのだぞ」
数名の衛兵が入室してきた。
カマルは指輪を、召使いが差し出した台座に乗せる。返してくれる気はないらしい。
「この指輪には一名しか入らないが、ラクシュミの大きさなら国中の人を封印することも可能だ。邪魔者をラクシュミに入れれば快適な国になる。まさに奇蹟の星玉だ」
「そんな……そんな使い方間違ってます!」
思わずルウリは叫んだ。ラクシュミは解放のためにあったんじゃない。バラモンにとって邪魔な人々を封印する目的だったなんて。
そして、その望みを叶える星玉師がルウリだった。
「おまえの意見など聞いておらぬ。ひとまず牢に閉じ込めておけ」
衛兵に肩を掴まれて引きずられる。退室する間際に振り返ると、母の封印された緑星玉は鈍い光を放っていた。
鉄格子の隙間から淡い月光が漏れている。細い光の筋が冷たい牢屋の石畳を照らした。
牢の隅で膝を抱えたルウリの脳裏に、カマルが放った言葉の数々が駆け巡る。
母親を封印したのは、おまえ自身。
わたしが、お母さんを。
どうして、気づかなかったのだろう。
自分の罪だとわかっていたのに。
内包物を呑むのは星玉だから、どこかで、星玉のせいにしたかった。私は、星玉を見せてあげただけ。偶然、お母さんが呑まれてしまっただけ。
そう思い込んで心の均衡を保とうとしていた。
ぜんぶ、崩れていく。
お母さんを解放するため。そのために星玉師になったはずなのに。
もし、母を解放できる時が訪れたとしても、罵倒されるんだろうか。
あなたのせいで、こんな目にあった、と……。
コツコツと響いた靴音に、ぼんやりと顔を上げる。
見張りの兵士がやってきて、牢の小さな扉からトレイに乗せた食事を差し出した。冷えたスープと乾ききったパンに見向きもせず、ルウリは格子に張り付いた。
「あの、私はこれからどうなるんですか?」
兵士は無表情にルウリを見返す。
「知らないよ。あんた次第じゃないか? 逆らえば命はない」
「審査会はどうなったんですか?」
「……大分騒ぎになったようだな」
続けて聞こうとすると、兵士は迷惑そうに手を振って持ち場へ戻ってしまった。
何が起こったのだろう。探していたのが封印の力を持つ星玉師だったということは、従来の解放では合格者が出るはずもない。
ラークはどうしたのだろう。ルウリが戻ってこないから、みんな心配しているかもしれない。
乾いたパンを手にする。食欲はまるでなかった。
これから、バラモンの命令通りに誰かをラクシュミに封印する星玉師として、飼い殺しにされるのだろうか。
そんなこと、できるわけない。でも、逆らえばきっと殺される。
「私……死んじゃうのかな……」
こんなはずじゃなかった。
母を封印してしまったあの時から、ルウリの運命の歯車は狂い始めた。
ちがう。
ラークに、出会ったからだ。
彼と行動を共にした結果、バラモンに指輪のことが知られてしまった。ラークと審査会に出なければ、少なくともこんなことにはならなかったかもしれない。
審査会は不合格になって、またエルナ村に戻り、一介の星玉師として平穏に暮らせた。
邪神の災いが、降りかかった。
何度も言われたのに。
災いに近づくなと。不幸になると。
撥ねのけられると思った。不幸なんて、心持ち次第だと思っていた。
「ラークに、出会わなければよかった……」
零れ落ちた涙が、顎を伝い、パンを握りしめた手の甲を濡らしていく。
ちがう、ちがう。
ラークのせいじゃない。
わたしが、弱いから。
誰かのせいにしなければ。わたしは悪くない。そんな弱い心が、この結果を招いた。
ぜんぶ、わたしが悪い。
そうして結論に行き着くと、絶望感が押し寄せた。
ふと視線を巡らせて、自害できるものはないかと探している自分に気がつく。
「私に……そんな能力ありません……」
「この緑星玉が何よりの証拠だ。封印をコントロールできれば、おまえはラクシュミを操れる唯一の星玉師になれるのだぞ」
数名の衛兵が入室してきた。
カマルは指輪を、召使いが差し出した台座に乗せる。返してくれる気はないらしい。
「この指輪には一名しか入らないが、ラクシュミの大きさなら国中の人を封印することも可能だ。邪魔者をラクシュミに入れれば快適な国になる。まさに奇蹟の星玉だ」
「そんな……そんな使い方間違ってます!」
思わずルウリは叫んだ。ラクシュミは解放のためにあったんじゃない。バラモンにとって邪魔な人々を封印する目的だったなんて。
そして、その望みを叶える星玉師がルウリだった。
「おまえの意見など聞いておらぬ。ひとまず牢に閉じ込めておけ」
衛兵に肩を掴まれて引きずられる。退室する間際に振り返ると、母の封印された緑星玉は鈍い光を放っていた。
鉄格子の隙間から淡い月光が漏れている。細い光の筋が冷たい牢屋の石畳を照らした。
牢の隅で膝を抱えたルウリの脳裏に、カマルが放った言葉の数々が駆け巡る。
母親を封印したのは、おまえ自身。
わたしが、お母さんを。
どうして、気づかなかったのだろう。
自分の罪だとわかっていたのに。
内包物を呑むのは星玉だから、どこかで、星玉のせいにしたかった。私は、星玉を見せてあげただけ。偶然、お母さんが呑まれてしまっただけ。
そう思い込んで心の均衡を保とうとしていた。
ぜんぶ、崩れていく。
お母さんを解放するため。そのために星玉師になったはずなのに。
もし、母を解放できる時が訪れたとしても、罵倒されるんだろうか。
あなたのせいで、こんな目にあった、と……。
コツコツと響いた靴音に、ぼんやりと顔を上げる。
見張りの兵士がやってきて、牢の小さな扉からトレイに乗せた食事を差し出した。冷えたスープと乾ききったパンに見向きもせず、ルウリは格子に張り付いた。
「あの、私はこれからどうなるんですか?」
兵士は無表情にルウリを見返す。
「知らないよ。あんた次第じゃないか? 逆らえば命はない」
「審査会はどうなったんですか?」
「……大分騒ぎになったようだな」
続けて聞こうとすると、兵士は迷惑そうに手を振って持ち場へ戻ってしまった。
何が起こったのだろう。探していたのが封印の力を持つ星玉師だったということは、従来の解放では合格者が出るはずもない。
ラークはどうしたのだろう。ルウリが戻ってこないから、みんな心配しているかもしれない。
乾いたパンを手にする。食欲はまるでなかった。
これから、バラモンの命令通りに誰かをラクシュミに封印する星玉師として、飼い殺しにされるのだろうか。
そんなこと、できるわけない。でも、逆らえばきっと殺される。
「私……死んじゃうのかな……」
こんなはずじゃなかった。
母を封印してしまったあの時から、ルウリの運命の歯車は狂い始めた。
ちがう。
ラークに、出会ったからだ。
彼と行動を共にした結果、バラモンに指輪のことが知られてしまった。ラークと審査会に出なければ、少なくともこんなことにはならなかったかもしれない。
審査会は不合格になって、またエルナ村に戻り、一介の星玉師として平穏に暮らせた。
邪神の災いが、降りかかった。
何度も言われたのに。
災いに近づくなと。不幸になると。
撥ねのけられると思った。不幸なんて、心持ち次第だと思っていた。
「ラークに、出会わなければよかった……」
零れ落ちた涙が、顎を伝い、パンを握りしめた手の甲を濡らしていく。
ちがう、ちがう。
ラークのせいじゃない。
わたしが、弱いから。
誰かのせいにしなければ。わたしは悪くない。そんな弱い心が、この結果を招いた。
ぜんぶ、わたしが悪い。
そうして結論に行き着くと、絶望感が押し寄せた。
ふと視線を巡らせて、自害できるものはないかと探している自分に気がつく。
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