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第五章
ヴィクラムの本性
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パナは無事に伝えてくれたのだ。
ほっとして表情を緩ませると、ヴィクラムはルウリにだけわかるように軽く頷いた。
「ご覧なさい。ラクシュミの姿を」
指差され、改めてラクシュミに目を注ぐ。禍々しいほどに深い緑色の輝きを放っている。内包物があるようだが、光が屈折するためか、ゆらゆらと漂っていてよく見えない。
「何かしら……。中に何かあるのはわかりますけど、見えないですね」
「そう、何が内包されているのかも判別できません。過去、幾多の星玉師が解放を試みました。けれどすべて無駄だった。そして我々は気づいたのです。これは解放するための星玉ではなく、封印するための星玉であると」
振り返ると、邪悪な笑みを浮かべたカマルは掌を掲げた。入室してきた召使いが、ルウリの傍に金で縁取られたテーブルを置く。テーブルには、黄金で設えられた壺。それに、羅紗に乗せられた沢山の星玉の欠片。ルウリがいつも使用している屑星玉とは比べものにならないほど上質のものだ。
「まさか、これ……」
「さあ、封印せよ」
居丈高にカマルは命じた。
解放ではなく封印するというのだろうか。
でも、どうやって。
ルウリは封印する素質を持っているのかもしれないが、試したことなどないのだ。
「私にそんな能力ありません。それに、やってみたこともないのです」
「試してみればよい。ラクシュミはいくらでも呑めるだろう」
何を――?
問う前に、カマルは再び掌を掲げる。それまで緞帳が巡らされていた正面が、急に明るくなった。
眩しさに目を閉じたルウリが瞼を開くと、引かれた緞帳の先の中庭には、縄で縛られた沢山の人々が絶望の色を浮かべて平伏していた。
「な……」
見覚えがある。彼らは、昨日審査会に参加していた星玉師たちだ。
「星玉師なら馴染むだろう。おまえの母親も、星玉師だったそうだな。ラクシュミに呑ませるには最適な素材だ」
カマルの指に嵌められた緑星玉が目の奥を焼く。
許せない。
ルウリの胸で熱いものが弾ける。
こんなこと、許されるはずがない。
星玉は、邪魔者を消すために存在するんじゃない。
内包物を含んだ星玉が、どんなに苦しんでいるか知っている。
「できません! 皆さんを解放してください」
そう、解放されたい。誰も、星玉も、苦しみを抱えたくないのだから。
反抗するルウリに、カマルは怒りを含んで椅子から立ち上がる。それを宥めるように、ヴィクラムは慇懃に腰を折った。
「お待ちください、カマルさま。彼女は星玉師ですから、仲間を封印するなどというのは心苦しいでしょう。やる気がなくては封印も上手くいきますまい」
ヴィクラムの進言に、胸を撫で下ろす。彼の言うことなら、きっとカマルも考えを改めてくれるだろう。
「では何を封印するのだ」
「最適な練習台がございます。彼女のやる気を起こす、上等の素材が」
ヴィクラムの目配せにより、召使いが籠を運んできた。
鉄製の籠に入れられたものに、ルウリは驚愕する。
「パナ!」
「わああ、ルウリぃ! たすけてえ」
鉄格子の中でパナは泣き喚く。羽毛が無残に飛び散るばかりで、鉄の籠はびくともしない。
ヴィクラムはどうしてパナを拘束したのだろう。何か考えがあるのだろうか。不安げにヴィクラムの横顔を見遣るが、彼は凜とした態度でカマルに対峙していた。
鳥精霊を見て、カマルは眉根を寄せる。
「ヴィクラムよ、その鳥精霊は友人のようだが? この素材でどうしてやる気が起きるのだ」
「ごもっともです。そもそもラクシュミ計画は、長い年月と人員、費用をかけて研究を重ねて参りました。それは、邪魔者を永久に封印するためでございます」
「そうだ。国中の人を封印すれば、イディアは美しい土地になる」
「カマルさま、逆転の発想をしてみませんか。確かにラクシュミにはイディア全土の人も神も精霊も入りましょう。けれど、誰もいない土地でどうして治政が行えるのです」
「なんだと?」
「邪魔者ひとりが、ラクシュミに入ればよろしいかと」
衛兵がカマルの腕を鷲掴みにした。縄を掛け、体の自由を奪う。突然の暴挙にカマルは動揺を現わした。
「貴様、何をする! ヴィクラム、何のつもりだ」
「お話ししたとおりです。無能なバラモンがラクシュミに封印されれば、イディアはより豊かになりましょう。お寂しいならお付きの者も封印させますから、ご安心を」
ほっとして表情を緩ませると、ヴィクラムはルウリにだけわかるように軽く頷いた。
「ご覧なさい。ラクシュミの姿を」
指差され、改めてラクシュミに目を注ぐ。禍々しいほどに深い緑色の輝きを放っている。内包物があるようだが、光が屈折するためか、ゆらゆらと漂っていてよく見えない。
「何かしら……。中に何かあるのはわかりますけど、見えないですね」
「そう、何が内包されているのかも判別できません。過去、幾多の星玉師が解放を試みました。けれどすべて無駄だった。そして我々は気づいたのです。これは解放するための星玉ではなく、封印するための星玉であると」
振り返ると、邪悪な笑みを浮かべたカマルは掌を掲げた。入室してきた召使いが、ルウリの傍に金で縁取られたテーブルを置く。テーブルには、黄金で設えられた壺。それに、羅紗に乗せられた沢山の星玉の欠片。ルウリがいつも使用している屑星玉とは比べものにならないほど上質のものだ。
「まさか、これ……」
「さあ、封印せよ」
居丈高にカマルは命じた。
解放ではなく封印するというのだろうか。
でも、どうやって。
ルウリは封印する素質を持っているのかもしれないが、試したことなどないのだ。
「私にそんな能力ありません。それに、やってみたこともないのです」
「試してみればよい。ラクシュミはいくらでも呑めるだろう」
何を――?
問う前に、カマルは再び掌を掲げる。それまで緞帳が巡らされていた正面が、急に明るくなった。
眩しさに目を閉じたルウリが瞼を開くと、引かれた緞帳の先の中庭には、縄で縛られた沢山の人々が絶望の色を浮かべて平伏していた。
「な……」
見覚えがある。彼らは、昨日審査会に参加していた星玉師たちだ。
「星玉師なら馴染むだろう。おまえの母親も、星玉師だったそうだな。ラクシュミに呑ませるには最適な素材だ」
カマルの指に嵌められた緑星玉が目の奥を焼く。
許せない。
ルウリの胸で熱いものが弾ける。
こんなこと、許されるはずがない。
星玉は、邪魔者を消すために存在するんじゃない。
内包物を含んだ星玉が、どんなに苦しんでいるか知っている。
「できません! 皆さんを解放してください」
そう、解放されたい。誰も、星玉も、苦しみを抱えたくないのだから。
反抗するルウリに、カマルは怒りを含んで椅子から立ち上がる。それを宥めるように、ヴィクラムは慇懃に腰を折った。
「お待ちください、カマルさま。彼女は星玉師ですから、仲間を封印するなどというのは心苦しいでしょう。やる気がなくては封印も上手くいきますまい」
ヴィクラムの進言に、胸を撫で下ろす。彼の言うことなら、きっとカマルも考えを改めてくれるだろう。
「では何を封印するのだ」
「最適な練習台がございます。彼女のやる気を起こす、上等の素材が」
ヴィクラムの目配せにより、召使いが籠を運んできた。
鉄製の籠に入れられたものに、ルウリは驚愕する。
「パナ!」
「わああ、ルウリぃ! たすけてえ」
鉄格子の中でパナは泣き喚く。羽毛が無残に飛び散るばかりで、鉄の籠はびくともしない。
ヴィクラムはどうしてパナを拘束したのだろう。何か考えがあるのだろうか。不安げにヴィクラムの横顔を見遣るが、彼は凜とした態度でカマルに対峙していた。
鳥精霊を見て、カマルは眉根を寄せる。
「ヴィクラムよ、その鳥精霊は友人のようだが? この素材でどうしてやる気が起きるのだ」
「ごもっともです。そもそもラクシュミ計画は、長い年月と人員、費用をかけて研究を重ねて参りました。それは、邪魔者を永久に封印するためでございます」
「そうだ。国中の人を封印すれば、イディアは美しい土地になる」
「カマルさま、逆転の発想をしてみませんか。確かにラクシュミにはイディア全土の人も神も精霊も入りましょう。けれど、誰もいない土地でどうして治政が行えるのです」
「なんだと?」
「邪魔者ひとりが、ラクシュミに入ればよろしいかと」
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「貴様、何をする! ヴィクラム、何のつもりだ」
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