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氷上のアイスダンス 2
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陽の光を浴びた天然のアイスリンクは、氷の粒を煌めかせている。
「ひゃあああ! レ、レオニート!」
結羽は氷上で無様に手をばたつかせた。
昨日訪れた湖にスケート靴で降り立った結羽とレオニートだが、転ばないよう支えが必要なのは結羽のほうであった。
事前の会話では、レオニートを結羽が支えなければならないと解釈したのだが、いざ氷上を滑り出してみるとレオニートは鮮やかなスケーティングでリンクを舞っている。
こなれたチェンジエッジはまるでプロのスケーターのようで、華麗な身のこなしは白鳥を思わせた。
一方、結羽の足許は覚束ない。
よろけるさまは、さながら生まれたての子鹿だ。
施設のアイスリンクと違って手すりがないので、掴まるものがなにもない。
転びそうになって上体をぐらつかせる結羽の手前で、シュッと綺麗なインエッジで止まったレオニートは苦笑を浮かべながら結羽の身体を支えた。
「大丈夫か。これでは手を繫いでいないと転んでしまうな」
想像とは逆であったが、結局手は繫がれてしまう。
レオニートに手を引かれて氷の上を滑り出してみたものの、刃一枚で立っているわけなので、身体が不安定に揺れてしまうのはどうしようもない。
「ぐらついてしまいます。僕が転んだらレオニートまで巻き込んでしまいますから、手を離してください」
「怖いか? では、こうすればいい」
すっと身を寄せてきたレオニートに、腰を抱かれる。
密着したふたりの身体。レオニートは右腕で結羽を抱えるようにしながら、互いの左手を握り合った。
力強い腕で支えられているためか、安定感が生まれる。
「これはキリアンポジションという、アイスダンスのホールドだ。さあ、結羽。背筋を伸ばして、顎を引いてごらん」
言われたとおりにしてみれば、姿勢が正されたせいか、今までよりも足に力を込めることができた。
顔を上げれば、そこには煌めく氷上の世界。
白樺と雪に囲まれた白銀の湖が、きらきらと宝石のように眩く輝いている。
耳に届くのは、氷を削るふたりのエッジの音だけ。
それから時折白樺に降り積もった雪の落ちる、ぱさりという心地良い響き。
この世界は、なんて綺麗なんだ。
目に映っていたはずなのに、レオニートに導いてもらうまで気づけなかった。
「すごい……きれい……! レオニート、僕たちは、アイスリンクの宝石に溶け込んでいます!」
まるで自分たちが、煌めく氷のひとつになったような一体感。
レオニートは、しっかりと手を握り、腰を支えてくれる。彼が傍にいてくれるから、勇気を出して足を前へ繰り出せた。
結羽の表情は太陽の光と、氷の煌めきを受けて輝いた。
「そうだ。私たちは、リンクに輝く一対の宝玉なのだ」
一対の宝玉。
その言葉は深く結羽の心に染み入り、緩やかに溶け込んだ。
レオニートと初めてスケートを滑ったのに、遙か昔からこうしていたかのような不思議な懐かしさが脳裏を巡る。
それはレモン味のかき氷のように甘酸っぱくて、心の深いところから泉のごとく湧き上がってくるものだった。
見上げればすぐ傍には、優しく眇められた紺碧の瞳。
深い色をしたレオニートの双眸に見つめられて、結羽の胸に、その想いはすとんと落ちた。
好き。
僕は、レオニートが好きだ。
彼に対する想いは皇帝としての敬愛だとか、男としての尊敬だとか、そういった気持ちではなかった。
レオニートを、ひとりの男の人として愛したい。
胸の裡で甘く疼く恋心は一度自覚してしまえば、あとからあとから指先に滲むまで湧いてくる。
――けれど。
「結羽は筋が良い。もうエッジの使い方を心得たようだな」
「レオニートのリードが上手だからですよ」
この想いは、封印しなくてはならない。
レオニートには、妃になる人がいるのだ。
「ひゃあああ! レ、レオニート!」
結羽は氷上で無様に手をばたつかせた。
昨日訪れた湖にスケート靴で降り立った結羽とレオニートだが、転ばないよう支えが必要なのは結羽のほうであった。
事前の会話では、レオニートを結羽が支えなければならないと解釈したのだが、いざ氷上を滑り出してみるとレオニートは鮮やかなスケーティングでリンクを舞っている。
こなれたチェンジエッジはまるでプロのスケーターのようで、華麗な身のこなしは白鳥を思わせた。
一方、結羽の足許は覚束ない。
よろけるさまは、さながら生まれたての子鹿だ。
施設のアイスリンクと違って手すりがないので、掴まるものがなにもない。
転びそうになって上体をぐらつかせる結羽の手前で、シュッと綺麗なインエッジで止まったレオニートは苦笑を浮かべながら結羽の身体を支えた。
「大丈夫か。これでは手を繫いでいないと転んでしまうな」
想像とは逆であったが、結局手は繫がれてしまう。
レオニートに手を引かれて氷の上を滑り出してみたものの、刃一枚で立っているわけなので、身体が不安定に揺れてしまうのはどうしようもない。
「ぐらついてしまいます。僕が転んだらレオニートまで巻き込んでしまいますから、手を離してください」
「怖いか? では、こうすればいい」
すっと身を寄せてきたレオニートに、腰を抱かれる。
密着したふたりの身体。レオニートは右腕で結羽を抱えるようにしながら、互いの左手を握り合った。
力強い腕で支えられているためか、安定感が生まれる。
「これはキリアンポジションという、アイスダンスのホールドだ。さあ、結羽。背筋を伸ばして、顎を引いてごらん」
言われたとおりにしてみれば、姿勢が正されたせいか、今までよりも足に力を込めることができた。
顔を上げれば、そこには煌めく氷上の世界。
白樺と雪に囲まれた白銀の湖が、きらきらと宝石のように眩く輝いている。
耳に届くのは、氷を削るふたりのエッジの音だけ。
それから時折白樺に降り積もった雪の落ちる、ぱさりという心地良い響き。
この世界は、なんて綺麗なんだ。
目に映っていたはずなのに、レオニートに導いてもらうまで気づけなかった。
「すごい……きれい……! レオニート、僕たちは、アイスリンクの宝石に溶け込んでいます!」
まるで自分たちが、煌めく氷のひとつになったような一体感。
レオニートは、しっかりと手を握り、腰を支えてくれる。彼が傍にいてくれるから、勇気を出して足を前へ繰り出せた。
結羽の表情は太陽の光と、氷の煌めきを受けて輝いた。
「そうだ。私たちは、リンクに輝く一対の宝玉なのだ」
一対の宝玉。
その言葉は深く結羽の心に染み入り、緩やかに溶け込んだ。
レオニートと初めてスケートを滑ったのに、遙か昔からこうしていたかのような不思議な懐かしさが脳裏を巡る。
それはレモン味のかき氷のように甘酸っぱくて、心の深いところから泉のごとく湧き上がってくるものだった。
見上げればすぐ傍には、優しく眇められた紺碧の瞳。
深い色をしたレオニートの双眸に見つめられて、結羽の胸に、その想いはすとんと落ちた。
好き。
僕は、レオニートが好きだ。
彼に対する想いは皇帝としての敬愛だとか、男としての尊敬だとか、そういった気持ちではなかった。
レオニートを、ひとりの男の人として愛したい。
胸の裡で甘く疼く恋心は一度自覚してしまえば、あとからあとから指先に滲むまで湧いてくる。
――けれど。
「結羽は筋が良い。もうエッジの使い方を心得たようだな」
「レオニートのリードが上手だからですよ」
この想いは、封印しなくてはならない。
レオニートには、妃になる人がいるのだ。
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