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前編
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私は何年かぶりに鏡を見て驚いた。顔は風船の様に膨らみあがり、髪は散らかり、全身が脂肪に包まれていた。こんな見た目をしているが、かつて私は勇者だった。人々から魔物を救い、感謝もされ、希望の者と呼ばれたこともあった。だが今じゃ、食うしか能がない巨漢のおっさんだ。
私は大きな体を揺らしながら、階段をギシギシと鳴らして登る。階段登るだけで一苦労だ。なんとか自分の部屋に戻り、ベッドに寄りかかりひと休み。テーブルには母が用意してくれた三時のおやつ。私はおやつに手を伸ばし、それを頬張った。
すると外から気合の入った声が聞こえてくる。私の実家は道場で、親父は、元王国鐵騎士団団長も務めていたほどの実力者だ。それもあってか、田舎道場でありながら地方からの入門者があとが耐えない。
私も幼い頃は親父に憧れた。ただ強さを求めて毎日剣を振った。バカみたいに。それでも周囲の同年代や歳上に勝てることに喜び、また剣を振っていた。
幼少期の頃を思い出していたら、外から親父と生徒たちの会話が聞こえてくる。どうやら生徒が私に会いたがっている。みんなの理想はクールでかっこいい勇者を想像しているが、現実は、ため息を漏らすほど理想とは程遠いものになっている。
そんな息子の気持ちを察してくれたのか、親父は機転を利かせてくれて、「息子は朝早く出かけた」と嘘をついてくれた。
……なんだろうな。今の会話を聞いちゃうと、なぜか残りのおやつが食べれなくなった。
○○○○○
しかし夕ご飯の時間になれば、お腹が空いてくる。私は一階に降りて両親と食事をする。会話か。私はほぼほぼ空気みたいな存在だ、居ないと同じ。両親は呆れているわけじゃない、私に気を遣ってくれている。その優しさを38になる私は甘え続けている。変わる意思はあるが、体はそれを拒絶する。仲間とか、友情とか、馴れ合いとか、嫌いじゃない。むしろ好きだ。だけど過去の記憶が私を解放させてくれない。縛り続けるんだ、今もなお呪いのように心を蝕む。寝ている私を叩き起こして、楽しんでいる。本当にムカつくやつだ、記憶ってやつわ。
今日も悪夢を見た。これで6日連続だ。数ヶ月に何回か連続して悪夢を見ることがたまにある。この悪夢が怖いのは、いつ終わるのかということだ。明日かもしれないし、一週間かもしれない。一度目を覚ましてしまうと、後は朝までまっしぐら。ボーッとしている間に、ほら、道場の生徒たちが道場に来てしまった。賑やかな道場の雰囲気を感じながら、私は朝食を済ませて、少しだけ仮眠を取ろうとしたが、どうやら今日はアレみたいだ。そう、数ヶ月に何度が訪れる、道場破りの様だ。
親父の道場は、来るもの拒まず去るもの追わず。決してどんな相手だろうと、親父が相手をする。例えそれが女性でもあってもだ。
道場破りの際は、練習を中断させて、生徒たちは隅っこに座る。親父の戦いを焼き付けるために、生徒たちの目はギラギラしていることだろう。彼女は木刀を手渡されて、感触を確かめるようにし、ひと振り、二降りと木刀を振る。まるで空を切るほど力強いものだ。
それに対して親父は素手で戦う気だ。相手からすれば甘く見られている事になる。だからこそ余計な力が木刀に伝わり、普段の実力の半分くらいしか出せずに負けることがほとんどだ。しかし今回の道場破りは他の奴らとは違く、とても冷静だった。
なかなか踏み込まない彼女に、生徒たちの内心は、(どうせ負けるんだから早く戦えよ)と思っている人は何人かいるだろう。五分以上続いた膠着状態ーーようやく彼女は活路を見い出したのか動き出す。彼女は際どいところをついてくるが、親父は難なく避けていく。そして相手の隙あらば、親父は攻めに転ずる動きを見せーー相手の反応を見る。それに気付いた彼女は一気に下がった。
(あのまま詰めていたら、やられていた)
親父の悪い癖が出たみたいだ。親父あえて隙を見捨て、相手の出方を見るのを楽しんでいる。今親父は、頗る喜んでいるだろう。大抵の人は隙を見せるばここぞとばかり攻めてくるが、彼女のその判断力に、親父は気に入った。こうなると親父は試したがる。そして親父は、上席の壁に飾ってある自らの木刀を握りしめた。その瞬間道場内がざわついた。親父が木刀を握るということは、認めたということだ。ずつに数年ぶりの親父の木刀姿に、張り詰めた空気が道場内を駆け巡る。
(ただの木刀を握りしめただけなのに空気が重い)
親父と対面している彼女が尋常じゃない圧を感じているのに、見学している生徒達が親父の圧に気を失っていく。
「さあ、始めようか。そして私をガッカリさせないでくれよ」
彼女から見る親父の姿は何に見えるだろう。鬼か、悪魔か、それ以上のものが見えているかもしれない。呼吸を整えた親父が木刀を構えると、誰かがそつと父親の手に手を重ねた。
「お父さん、もう勝負はつきましたよ」
どうやら止めたのは母らしい。
道場にいる生徒達が親父の圧により気を失った。彼女も同様最後まで気を張っていたが道場の床に倒れ込んでしまった。
親父は強いが、一番強いのは親父の懐に入れる母だろう
私は大きな体を揺らしながら、階段をギシギシと鳴らして登る。階段登るだけで一苦労だ。なんとか自分の部屋に戻り、ベッドに寄りかかりひと休み。テーブルには母が用意してくれた三時のおやつ。私はおやつに手を伸ばし、それを頬張った。
すると外から気合の入った声が聞こえてくる。私の実家は道場で、親父は、元王国鐵騎士団団長も務めていたほどの実力者だ。それもあってか、田舎道場でありながら地方からの入門者があとが耐えない。
私も幼い頃は親父に憧れた。ただ強さを求めて毎日剣を振った。バカみたいに。それでも周囲の同年代や歳上に勝てることに喜び、また剣を振っていた。
幼少期の頃を思い出していたら、外から親父と生徒たちの会話が聞こえてくる。どうやら生徒が私に会いたがっている。みんなの理想はクールでかっこいい勇者を想像しているが、現実は、ため息を漏らすほど理想とは程遠いものになっている。
そんな息子の気持ちを察してくれたのか、親父は機転を利かせてくれて、「息子は朝早く出かけた」と嘘をついてくれた。
……なんだろうな。今の会話を聞いちゃうと、なぜか残りのおやつが食べれなくなった。
○○○○○
しかし夕ご飯の時間になれば、お腹が空いてくる。私は一階に降りて両親と食事をする。会話か。私はほぼほぼ空気みたいな存在だ、居ないと同じ。両親は呆れているわけじゃない、私に気を遣ってくれている。その優しさを38になる私は甘え続けている。変わる意思はあるが、体はそれを拒絶する。仲間とか、友情とか、馴れ合いとか、嫌いじゃない。むしろ好きだ。だけど過去の記憶が私を解放させてくれない。縛り続けるんだ、今もなお呪いのように心を蝕む。寝ている私を叩き起こして、楽しんでいる。本当にムカつくやつだ、記憶ってやつわ。
今日も悪夢を見た。これで6日連続だ。数ヶ月に何回か連続して悪夢を見ることがたまにある。この悪夢が怖いのは、いつ終わるのかということだ。明日かもしれないし、一週間かもしれない。一度目を覚ましてしまうと、後は朝までまっしぐら。ボーッとしている間に、ほら、道場の生徒たちが道場に来てしまった。賑やかな道場の雰囲気を感じながら、私は朝食を済ませて、少しだけ仮眠を取ろうとしたが、どうやら今日はアレみたいだ。そう、数ヶ月に何度が訪れる、道場破りの様だ。
親父の道場は、来るもの拒まず去るもの追わず。決してどんな相手だろうと、親父が相手をする。例えそれが女性でもあってもだ。
道場破りの際は、練習を中断させて、生徒たちは隅っこに座る。親父の戦いを焼き付けるために、生徒たちの目はギラギラしていることだろう。彼女は木刀を手渡されて、感触を確かめるようにし、ひと振り、二降りと木刀を振る。まるで空を切るほど力強いものだ。
それに対して親父は素手で戦う気だ。相手からすれば甘く見られている事になる。だからこそ余計な力が木刀に伝わり、普段の実力の半分くらいしか出せずに負けることがほとんどだ。しかし今回の道場破りは他の奴らとは違く、とても冷静だった。
なかなか踏み込まない彼女に、生徒たちの内心は、(どうせ負けるんだから早く戦えよ)と思っている人は何人かいるだろう。五分以上続いた膠着状態ーーようやく彼女は活路を見い出したのか動き出す。彼女は際どいところをついてくるが、親父は難なく避けていく。そして相手の隙あらば、親父は攻めに転ずる動きを見せーー相手の反応を見る。それに気付いた彼女は一気に下がった。
(あのまま詰めていたら、やられていた)
親父の悪い癖が出たみたいだ。親父あえて隙を見捨て、相手の出方を見るのを楽しんでいる。今親父は、頗る喜んでいるだろう。大抵の人は隙を見せるばここぞとばかり攻めてくるが、彼女のその判断力に、親父は気に入った。こうなると親父は試したがる。そして親父は、上席の壁に飾ってある自らの木刀を握りしめた。その瞬間道場内がざわついた。親父が木刀を握るということは、認めたということだ。ずつに数年ぶりの親父の木刀姿に、張り詰めた空気が道場内を駆け巡る。
(ただの木刀を握りしめただけなのに空気が重い)
親父と対面している彼女が尋常じゃない圧を感じているのに、見学している生徒達が親父の圧に気を失っていく。
「さあ、始めようか。そして私をガッカリさせないでくれよ」
彼女から見る親父の姿は何に見えるだろう。鬼か、悪魔か、それ以上のものが見えているかもしれない。呼吸を整えた親父が木刀を構えると、誰かがそつと父親の手に手を重ねた。
「お父さん、もう勝負はつきましたよ」
どうやら止めたのは母らしい。
道場にいる生徒達が親父の圧により気を失った。彼女も同様最後まで気を張っていたが道場の床に倒れ込んでしまった。
親父は強いが、一番強いのは親父の懐に入れる母だろう
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