魔法使いは旅に出る!

のん

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私のクラスメイト!

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キーンコーンと鳴り響く懐かしいチャイムの音が鳴りおわるのと同時に、私は教室へと滑り込んだ。
「ぜーはーぜーはー………セーフ…!!」
息を切らし、肩を大きく揺らしながらそう呟く。
まだ、ちょっと焦った気持ちが残るけど、チャイムの音を聞くのはいつぶりだろうと、嬉しい気持ちがどっと押し寄せてくる。
久しぶり、学校!ようこそ、私!!
そう大声で叫びたいほど晴がましい~!

そんな余韻に浸っている中、何か、周りの目がおかしい………いや、そのおかしい目が私に向いていることに気がついた。
しかし、そう気づいた頃にはもう遅かった。大きな影が、私の目の前にあることに気がついた。
すると次に頭上から、
「アーカーネーさあーーん…………」
と、皆の視線を代表するように、大きな低い声が、突然と鳴り響いた。
うげえ…この声、私知ってる…ある意味懐かしいかも……。
「聞こえているんですか!!?市川アカネさん!!?」
そうそう…こう耳をつんざくような甲高い声ね…。覚えてますよ…。
そして、その声に応答しようとしたその時に、その声の持ち主が私の顔をギョロリと覗き込んできた。
「げっ…!!せ、先生………」
そう、その声の持ち主は何を隠そう、海野学園2年3組の担任、松田先生だったのだ。
いきなりのことで焦ったのか、余計な言葉まで足してしまった………。うう、これはまずい…。
すると、松田先生の細い目が更に細くなり、私をじっと見つめる。
ひぇ…相変わらず怖いです、先生。
「お、お久しぶりですね…せん、先生…」
今すぐその恐ろしい目をやめてほしい私は、今すぐここから逃げ出したい気持ちを押さえつけ、自分から話題を投下してみた。
しかしその私の勇気も、いつものようにあっけなく、先生に打ち破られた。
「お久しぶりですねえアカネさん…
新学期そうそう遅刻するとは…一学期と変わらないようで安心しましたよ。ねえ?」
「ひっ………」
恐怖で思わず出てしまった言葉に自分で驚き、急いで口を抑えつける。
まさか自分から墓穴を掘るとは……
「あは…はは…は…」
チラッとクラスメイトの方を見ると、(いつものあれか)とでも思っているのか、呆れた目で読書をし始めている子もいる。
いや、大体の子がそうなんだけど…

その時、教室の奥から、ガタッと椅子を引く音が聞こえた。
「あのっ…!」
次に、弱々しい…けれど力強い声。
私はこの声を誰よりも知っている。

ぱあっとした顔で声のした方向を見ると、見えたのは後ろの席からひょこんと顔をのぞかせる、一人の女の子。

「かりん…!!」

私は小さくそう呟く。突然椅子から立ち上がったその女の子は、私のだーいすき!な親友の「條宮華凛(ジョウミヤカリン)」だったのだ。

かりんは、私の大切で、自慢の親友なんだ。
綺麗でふわふわした髪のショートカット。そしてそこからのぞく、白い肌の可愛い顔。長いまつげにぱっちり二重の目。その目は少し垂れていて、かりんの温厚な性格を表しているよう。
想像しただけで分かったでしょ?本当に容姿端麗なの!!しかもおまけに成績優秀!!
それでもってみんなに優しくて…こりゃ好きにならない男子がいないわけだわ…って納得するほどの完璧な子なの。
でもかりんはちょっと内気な性格で…
でも、そんなかりんが今は…

「せっ先生…!」
普段はこんな場で発言しないかりんの行動に驚いたのか、先生も、クラスメイトもみんな眉をひそめる。
「華凛さん?どうしましたか?」

「あの、遅刻といっても1分だけですし、今日のところはアカネちゃんの遅刻を免除してもいいんじゃないでしょうか…??」

か、かりん…!!!?!
かりんから発せられた予想外の言葉に、私は涙が出そうになった。
かりんんん……!!
どこまでかりんはいい子なの………うう…涙が…。

クラスメイトも、かりんを神様でも見るかのような、キラキラした瞳で見ていた。
そりゃそうだよなあ…これが普通の反応だよ…。

一方、先生は目をぱちくりさせて、かりんの発言にとっても驚いていた。先生…気持ちはとってもわかります。
先生はしばらく目のぱちくりを繰り返した後、ふぅ…と深いため息をついた。

「…まあ……そうですね…」

「えっ!!じゃあ…!」
私はぱっと輝く瞳で先生の目を見つめる。

「はあ…本当に今回だけですよ。次からはきちんと厳しく見させてもらいますからね。
…あなたの遅刻を免除します。」
その言葉を聞いた途端、私はその場で大きくガッツポーズをした。
「あっ!!!ありがとうございます!!!」
私は嬉しさのあまり、何度もペコペコと頭を下げる。先生は呆れたように何度も何度もため息をつくばかり。うう…次からは気をつけますって。
こうやって先生が遅刻を免除してくれたのも、かりんのおかげなんだよね。
「かりん!!!ほんっとうにありがとう~~~!!」
1番後ろの列のかりんにきちんと届くように、大きな声でかりんに声をかけると、かりんは私に向かって小さくにこっと微笑んで、首を縦に振った。

ああ…かりん様…天使様…神様…。
窓から差し込む太陽の光が、ちょうどかりんの席の周りを照らしている。うっ……本当に神様に見えるよぅ…。

私が思わずかりんにむかって手を合わせていると、先生はまた私に声をかけた。
「さ。アカネさん…席についてください。ホームルームをはじめますよ。」

「はーい!!」
私は、いつものように元気よく返事をして、急いで自分の席へと向かう。
私の席は…確か、華凛の隣の席…だ、よね…?
夏休みに勉強しすぎて、記憶が曖昧になっちゃったよ…。
自分の席だと思われる、かりんの隣の席まで不安げに近づくと、かりんが
「アカネちゃん。ここだよっ」
と小さく手招きをしてくれた。
やぁっぱりここの席だよね!!思い出した思い出した。授業中、左隣のかりんのオーラが眩しすぎて、目がくらみそうになったのを覚えてるもん…。
「えへへ、色々ありがとうね、かりん!」
自分の机に荷物を置き、椅子に座りながらかりんに笑いかけると、
「ううん、私は何もしてないよ!アカネちゃん、ラッキーだったねえ」
と、更に輝かしい笑顔でこちらを見てくる。
「かりん……」
ほんとにかりんはなんていい子なの…。
私が感動で震えていると、反対方向、つまりは右側の席からブフッと笑い声が聞こえた。

「ちょっと……!?」
勢いよくその声の方向を見ると、ああ…と声を漏らしそうなほど、うんざりとした気分になった。
「新学期そうそう遅刻とか…さっ…流石すぎるっ…ぶふっ……」
そう言って私を馬鹿にしているこいつは、「深瀬琉生(フカセルイ)」。
こいつとは幼稚園からの腐れ縁で、まあ要するに幼なじみってやつ。しかも家がすっごい近くて、小さい頃はずっと一緒に遊んでたんだ。
まあその影響で親同士も仲良くなるってわけで…毎日とは言わずも一週間に最低3日、夏休み中にだと何回だっけ…?10回以上は確実…まあ、嫌でも顔を合わせてるってわけ。
なんでこんなやつと毎日毎日顔をあわせないといけないのよお…。

まあこんな私の悩みも、はたからすればすっごい羨ましいものだったりするんだよねえ…。
はぁ…と思わずため息が出そうになる。
この深瀬琉生は、あろうことか…とっってもモテるのだ。
成績優秀なのと、スポーツ万能なのは確かかもしれないよお…?あっあと、認めたくないけどすっごい綺麗な顔立ちなの。
でもね……こいつの性格と来たらああ!
すぐに人を馬鹿にするっ!!すっごい意地悪な性格をしてるやつなの!!

こんなやつの一体どこが…私はそう思ったけど、その疑問は意外にもあっさりと解けた。
そうだ。
皆、聞いて聞いて!!!こいつは私以外の前だと…すっごい猫を被るの!!!見たこともない王子様スマイルでキラキラとした神対応…。見ていてゲンナリするほど、猫を被る…。
いや…私への対応が雑なだけなのかも…!?

ま、まあ猫をかぶっているんじゃ、そりゃあオモテになるわけですねーっ!!うーっ!

小さい頃のるいはこんなのじゃなかったのになあ…。
小さい頃は、私が何かるいのことを褒めたりすると、るいは顔を真っ赤にして、いっつも右手で自分の右耳を触るのが印象的だった。
それが何を思っての行動なのかは今も分からないけど、昔はほんとにかわいかったな…。
昔はこんなにひねくれた奴じゃなかった…はずなんだけどねえ…。
…でもこんな可愛い頃のるいをしっているのも、幼馴染の特権ってわけね~。こういう時には、この立場って結構良かったりするのかも。

そんなことを思いながら、
「ふんっ!!」
とるいを睨むと、るいはにやっと笑い、いつもの調子で、
「さっすが遅刻魔のアカネ」
と私の方を指さして言った。

私が反論しようとすると、その言葉をるいが遮る。
「お前、またかりんのおかげで助けられたよなあ」
「うぐっ…」
これは確かに反論できない……くそおっ…
そう思っていると、まさかの左側から声が聞こえてきた。
「そんなことないんだよっ、るいくん。
今日はアカネちゃんが遅刻しないようにほんとに頑張ったから!ね?アカネちゃん!」
やっぱりその優しい声はかりんだった。ちょうど私たちの会話が聞こえてきていたみたいだ。
「かりんはすっごい優しいんだな」
るいはかりんにいつもの王子様スマイルでそう言う。
「そ、そんなことっ…」
途端にかりんは顔を真っ赤にして自分の髪をさらっと触る。
かりんが自分の髪を触るのは、照れた時の癖らしい。前にかりんから教えてもらったのを覚えていた。
そしてかりんが顔を真っ赤にしたのは……
…………あ、ここだけの話だよ?ぜーったい誰にも言っちゃダメなんだからね!!
……ごほんごほん…。実は…

かりんはね…るいのことが好きなんだって。

私は好きとかイマイチ分からないから、かりんの話を聞いていてもピンとこないんだけど…。
でも。

「でも、るいは勉強も運動もできるしかっこいいよね。」
「…は、え…?」

るいが何故か、私の方を見て、まぬけな声をあげる。
どうしたのさ、そのあほ面…そう思って、私は自分の発言を思い返す。
…???ん?
まって、まって、まって…!!
るいは運動もできるし~ってやつ、もしかして声に出てた!?!?!
う、うそ……心の中だと思ってたのに…

恐る恐る、またるいの方を見るとるいは、
「っ…!はっ…!?な、な、なん…、だ、よ…」
と真っ赤な顔でひどく動揺していた。

そ、そりゃそうか。いつもは暴言ばっか言っている私がいきなりるいを褒めるなんて、気持ち悪いこと言い出した…って顔面真っ赤になって引くよね?!
へへ、ごめんって…。

「そ、そういうこと、俺以外の他のやつに!
絶対、絶対言うなよ!」
まだ真っ赤な顔のるいは、右手で自分の右耳を触りながら、そう私に言った。
(あ、小さい頃の癖。まだ残ってるんだ)
ふとそう思いながら、るいの声に

「これ以上色んな人を不快にさせるなってこと…??」
と、私が反応すると、るいは、
「不快に、なんてなってない…」
とまだ戻らない真っ赤な顔でぼそっと呟いた。

「無理しないでいいって、顔真っ赤だよ!?ごめん、私がいきなり気持ち悪いこと言った から…熱…?かな?」
私はその戻らない真っ赤な顔に、何か罪悪感を感じて、謝りながらるいのおでこやほっぺを触る。

「おまえってやつはっっ…!!!」
るいは更に顔が赤くなり、またいつもの癖で自分の右耳を右手で触っていた。

そして、その一部始終を見て聞いていた前の席の男子から、私につけられたあだ名は、何故だか理不尽なことに[天然キラー]だった。

「この新学期…なんなの~もう…!!」
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