ヘブンズトリップ

doiemon

文字の大きさ
5 / 25

出会った意外な人物

しおりを挟む
 たった二日だけでも、病院で過ごすというのが、こんなにも退屈なものだとは予想できなかった。ここ数年、ケガや病気に縁がなかった自分には病院という場所は日常とはかけ離れている。
 普段、テレビはあまり見ない。けど、この絶望的な退屈をしのぐためにはテレビは必要だろうと考えた。それに自分のスマートフォンは傷が多いので映像を見るのに優れていない。
 ナースステーションを過ぎた隣の病棟へ通じる通路脇に設置されてているテレビカード販売機にお金を入れて、反対側の自動販売機側のある休憩スペースに視線を向ける。
 そこには新聞を読む中年男性の他に、自分と同じ年くらいの青年が一人座っていた。青年はノートパソコンを開いて、猫背になりながら熱心に画面を凝視している。吐き出されたテレビカードを雑に取り、炭酸飲料も買い、青年の斜め向かい側に座った。
 チラッとこちらを見たような気がしたが、あっちから話しかけてくる様子はなさそうだ。髪は耳よりも長く、黒ぶちのメガネをかけている。ちょっとオタクっぽい。
 「何か用?」
 この状況で俺の存在に気づかないふりはできないし、沈黙に耐えられなかったのか、向こうから声をかけてきた。でも、声色はなんだか挑発的だった。
 「あっ、いや、お前、高校生?」
  学校ではあまり出さない社交的な性格が役に立った。
 「うん、そうだけど・・・」
彼の隣の椅子に置かれた学生カバンは見覚えがあった。紺色に白いラインが二本入っただけのパッとしないデザイン。自分と同じ高校だ。 
 「もしかして白根高?」
 「うん、そうだけど」
 「何年?」
 「三年六組」
 同じ学年なのに、俺はこいつの存在を知らない。階が違うからか? 三年生だけ三組から六組までは違う階に教室がある。古い校舎のままでクラスが増えたのが原因だ。でも、学年集会などでもこいつの顔は見たことないと思った。それに三年六組は進学クラスで、とりあえず偏差値の高いやつだということはわかる。
 「君は何組だっけ?」
 俺のことは知っているような素振りだ。もう少し質問を続けてみよう。
 「お前、こんなとこで何やってんだ? 学校サボったのか?」
 だいたいそんなとこだろうと考えていたことを聞いてみた。
 「・・・・ああ、まあ、そんなとこだね。たいしたことないケガで理由をつけて休んでいるような感じだよね」
 痛いところを突いてくる。図星ではある。
 どうやらお互い学校に行くことを拒んでいることがわかった。詮索をしてその原因を突き止めてもケンカを吹っかけるようなものだと思い止めておいた。
 自己紹介をしてもらい、彼の名前が寺田文彦だということがわかったところで質問を繰り返した。
 「なあ、さっきからパソコンで何やってんだ?」
 キーボードでも文字を打っているのではなく、スクロールキーを動かしてる。
 「これ見てみ」
 彼はカバンからある雑誌を取り出して俺に向けた。それはあまり高校生に馴染みのない雑誌だった。
 俺は雑誌を手に取りパラパラとめくる。意外とページ数があり、ずっしりとした重みがある。気持ち悪いリアルな昆虫やドクロが表紙に描かれているので、本屋で月刊誌のコーナーでイヤでも目につく。でも、実際に買ってるやつは見たことはない。
 怪奇現象や超常現象、希少生物や未確認生物をテーマにした月刊雑誌だった。
 「なんだよ、これ?」
 俺は顔をしかめながら言った。
 「実は最近、運転免許取ったんだ」
 「えっ?」
 史彦は全然ちがう話をしてきた。なんだよこいつ・・・。
 「でも、免許取ったのはいいけど、車もないからどこにも行けないんだとね・・・」
 「・・・」
 俺は聞いてはいたが、特に反応は示さなかった。
 「このページ見て」
 急に俺が持っていた手から雑誌を奪い取り、あるページを開いて見せてきた。見開き2ページ分に暗めいたピンボケ写真が貼りめぐらされていた。
 下の見出しには「〇〇山の上空に魔女を目撃! 地元では有名なあの○○山!」
 なんだこれ? 山の上空を写したわかりにくい黒い点にマーキングされている飛行物。
 これが魔女ってか。こんなの小学生だって信じない。そもそも魔女って日本にいるのか?
 とにかく信憑性のない記事だ。
 「これ、どこだかわかる?」
 「知らねえよ」
 こんな場所、検討もつかなかった。どうしてコイツはこんな気味の悪い記事に興味を持ったのだろう。不敵な笑みを浮かべてた史彦は何か企んでいる顔をしていた。
 「これ亜蘭山だよ」
 「えっ?」
 すぐに疑った。F県の亜蘭山といったらそこそこ有名な場所で、小学校の遠足でも訪れたことがある。同級生でも存在を知っているやつは多い。けど、ただ山の上空を切り取っただけの写真では亜蘭山だということはわからなかった。周囲にも何も写っていない。
 「似たような画像をネットで探してみたんだけど、ほぼ間違いないと思う」
 クルッと俺に向けたパソコンの画面には検索サイトで乱雑に検出された風景写真のような画像がいくつも並んでいた。一目見て、雑誌の写真と類似しているものがあるかどうかは、はっきり言って俺にはわからなかった。
 「自分で運転してここに行こうと思ってさ、一緒に来ない?」
 「いやだよ、何で俺がついて行かなきゃいけないんだよ。」
 俺は大きな声を出して断った。
 「いいじゃん、どうせヒマなんでしょ」
 「そもそも、車あんのかよ?」
 高校生が自分の車なんて持っているわけがないと思って言ってやった。それに俺は明日には病院を出る。親にも医者にもそう言われている。
 「車はじいちゃんのを借りるよ」
 軽々しく、言い放った。言い方が鼻につく。なんだか冷めた。
 「お前、学校サボってんだろ。ちゃんと行かねえと大学行けなくなるぞ」
 「そっちこそ、たいしことないケガで学校休んでんじゃん」
 史彦は誘いを断った俺にふてくされた態度で言い放った。
 「なんだと・・・」
 「それとも本当に魔女が怖いのかよ」
 怒りまかせの挑発には乗らず、相手にせず、椅子から立ち上がり、その場を去ろうとした史彦はさらに容赦ない言葉を投げてきた。
 「また、学校に戻るのかよ? あんなつまんないところに?」
 確信を突かれたような言葉に思わず足を止めて振り返ってしまった。俺が言い返す前にさっきの女性の看護師が怒鳴る声が聞こえてきた。
 「あんたたち、うるさいわよ!」
 その看護師の言葉で俺たちは数秒間凍りついて、何も言わなかった。
 俺は口を曲げたまま、ガタンっと乱暴に音を立てて、また椅子に座った。
 「行こうぜ。亜蘭山に。魔女を確かめに行こうぜ・・・」
 決意の言葉を史彦に伝えた。俺はぐっと自分の顔を史彦に近づけて言った。
 なぜ気が変わったのかはよく覚えていない。言い訳くさいけど看護師の女の人に怒鳴られて調子を狂わされたのかな。でもたぶん、本当は次の日に退院して学校に行くことを避けたかったんだと思う。それから逃れたくて史彦の誘いに乗ったんだと思う。
 「よし、決まりだね」
 史彦はニヤリと笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...