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出会った意外な人物
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たった二日だけでも、病院で過ごすというのが、こんなにも退屈なものだとは予想できなかった。ここ数年、ケガや病気に縁がなかった自分には病院という場所は日常とはかけ離れている。
普段、テレビはあまり見ない。けど、この絶望的な退屈をしのぐためにはテレビは必要だろうと考えた。それに自分のスマートフォンは傷が多いので映像を見るのに優れていない。
ナースステーションを過ぎた隣の病棟へ通じる通路脇に設置されてているテレビカード販売機にお金を入れて、反対側の自動販売機側のある休憩スペースに視線を向ける。
そこには新聞を読む中年男性の他に、自分と同じ年くらいの青年が一人座っていた。青年はノートパソコンを開いて、猫背になりながら熱心に画面を凝視している。吐き出されたテレビカードを雑に取り、炭酸飲料も買い、青年の斜め向かい側に座った。
チラッとこちらを見たような気がしたが、あっちから話しかけてくる様子はなさそうだ。髪は耳よりも長く、黒ぶちのメガネをかけている。ちょっとオタクっぽい。
「何か用?」
この状況で俺の存在に気づかないふりはできないし、沈黙に耐えられなかったのか、向こうから声をかけてきた。でも、声色はなんだか挑発的だった。
「あっ、いや、お前、高校生?」
学校ではあまり出さない社交的な性格が役に立った。
「うん、そうだけど・・・」
彼の隣の椅子に置かれた学生カバンは見覚えがあった。紺色に白いラインが二本入っただけのパッとしないデザイン。自分と同じ高校だ。
「もしかして白根高?」
「うん、そうだけど」
「何年?」
「三年六組」
同じ学年なのに、俺はこいつの存在を知らない。階が違うからか? 三年生だけ三組から六組までは違う階に教室がある。古い校舎のままでクラスが増えたのが原因だ。でも、学年集会などでもこいつの顔は見たことないと思った。それに三年六組は進学クラスで、とりあえず偏差値の高いやつだということはわかる。
「君は何組だっけ?」
俺のことは知っているような素振りだ。もう少し質問を続けてみよう。
「お前、こんなとこで何やってんだ? 学校サボったのか?」
だいたいそんなとこだろうと考えていたことを聞いてみた。
「・・・・ああ、まあ、そんなとこだね。たいしたことないケガで理由をつけて休んでいるような感じだよね」
痛いところを突いてくる。図星ではある。
どうやらお互い学校に行くことを拒んでいることがわかった。詮索をしてその原因を突き止めてもケンカを吹っかけるようなものだと思い止めておいた。
自己紹介をしてもらい、彼の名前が寺田文彦だということがわかったところで質問を繰り返した。
「なあ、さっきからパソコンで何やってんだ?」
キーボードでも文字を打っているのではなく、スクロールキーを動かしてる。
「これ見てみ」
彼はカバンからある雑誌を取り出して俺に向けた。それはあまり高校生に馴染みのない雑誌だった。
俺は雑誌を手に取りパラパラとめくる。意外とページ数があり、ずっしりとした重みがある。気持ち悪いリアルな昆虫やドクロが表紙に描かれているので、本屋で月刊誌のコーナーでイヤでも目につく。でも、実際に買ってるやつは見たことはない。
怪奇現象や超常現象、希少生物や未確認生物をテーマにした月刊雑誌だった。
「なんだよ、これ?」
俺は顔をしかめながら言った。
「実は最近、運転免許取ったんだ」
「えっ?」
史彦は全然ちがう話をしてきた。なんだよこいつ・・・。
「でも、免許取ったのはいいけど、車もないからどこにも行けないんだとね・・・」
「・・・」
俺は聞いてはいたが、特に反応は示さなかった。
「このページ見て」
急に俺が持っていた手から雑誌を奪い取り、あるページを開いて見せてきた。見開き2ページ分に暗めいたピンボケ写真が貼りめぐらされていた。
下の見出しには「〇〇山の上空に魔女を目撃! 地元では有名なあの○○山!」
なんだこれ? 山の上空を写したわかりにくい黒い点にマーキングされている飛行物。
これが魔女ってか。こんなの小学生だって信じない。そもそも魔女って日本にいるのか?
とにかく信憑性のない記事だ。
「これ、どこだかわかる?」
「知らねえよ」
こんな場所、検討もつかなかった。どうしてコイツはこんな気味の悪い記事に興味を持ったのだろう。不敵な笑みを浮かべてた史彦は何か企んでいる顔をしていた。
「これ亜蘭山だよ」
「えっ?」
すぐに疑った。F県の亜蘭山といったらそこそこ有名な場所で、小学校の遠足でも訪れたことがある。同級生でも存在を知っているやつは多い。けど、ただ山の上空を切り取っただけの写真では亜蘭山だということはわからなかった。周囲にも何も写っていない。
「似たような画像をネットで探してみたんだけど、ほぼ間違いないと思う」
クルッと俺に向けたパソコンの画面には検索サイトで乱雑に検出された風景写真のような画像がいくつも並んでいた。一目見て、雑誌の写真と類似しているものがあるかどうかは、はっきり言って俺にはわからなかった。
「自分で運転してここに行こうと思ってさ、一緒に来ない?」
「いやだよ、何で俺がついて行かなきゃいけないんだよ。」
俺は大きな声を出して断った。
「いいじゃん、どうせヒマなんでしょ」
「そもそも、車あんのかよ?」
高校生が自分の車なんて持っているわけがないと思って言ってやった。それに俺は明日には病院を出る。親にも医者にもそう言われている。
「車はじいちゃんのを借りるよ」
軽々しく、言い放った。言い方が鼻につく。なんだか冷めた。
「お前、学校サボってんだろ。ちゃんと行かねえと大学行けなくなるぞ」
「そっちこそ、たいしことないケガで学校休んでんじゃん」
史彦は誘いを断った俺にふてくされた態度で言い放った。
「なんだと・・・」
「それとも本当に魔女が怖いのかよ」
怒りまかせの挑発には乗らず、相手にせず、椅子から立ち上がり、その場を去ろうとした史彦はさらに容赦ない言葉を投げてきた。
「また、学校に戻るのかよ? あんなつまんないところに?」
確信を突かれたような言葉に思わず足を止めて振り返ってしまった。俺が言い返す前にさっきの女性の看護師が怒鳴る声が聞こえてきた。
「あんたたち、うるさいわよ!」
その看護師の言葉で俺たちは数秒間凍りついて、何も言わなかった。
俺は口を曲げたまま、ガタンっと乱暴に音を立てて、また椅子に座った。
「行こうぜ。亜蘭山に。魔女を確かめに行こうぜ・・・」
決意の言葉を史彦に伝えた。俺はぐっと自分の顔を史彦に近づけて言った。
なぜ気が変わったのかはよく覚えていない。言い訳くさいけど看護師の女の人に怒鳴られて調子を狂わされたのかな。でもたぶん、本当は次の日に退院して学校に行くことを避けたかったんだと思う。それから逃れたくて史彦の誘いに乗ったんだと思う。
「よし、決まりだね」
史彦はニヤリと笑みを浮かべた。
普段、テレビはあまり見ない。けど、この絶望的な退屈をしのぐためにはテレビは必要だろうと考えた。それに自分のスマートフォンは傷が多いので映像を見るのに優れていない。
ナースステーションを過ぎた隣の病棟へ通じる通路脇に設置されてているテレビカード販売機にお金を入れて、反対側の自動販売機側のある休憩スペースに視線を向ける。
そこには新聞を読む中年男性の他に、自分と同じ年くらいの青年が一人座っていた。青年はノートパソコンを開いて、猫背になりながら熱心に画面を凝視している。吐き出されたテレビカードを雑に取り、炭酸飲料も買い、青年の斜め向かい側に座った。
チラッとこちらを見たような気がしたが、あっちから話しかけてくる様子はなさそうだ。髪は耳よりも長く、黒ぶちのメガネをかけている。ちょっとオタクっぽい。
「何か用?」
この状況で俺の存在に気づかないふりはできないし、沈黙に耐えられなかったのか、向こうから声をかけてきた。でも、声色はなんだか挑発的だった。
「あっ、いや、お前、高校生?」
学校ではあまり出さない社交的な性格が役に立った。
「うん、そうだけど・・・」
彼の隣の椅子に置かれた学生カバンは見覚えがあった。紺色に白いラインが二本入っただけのパッとしないデザイン。自分と同じ高校だ。
「もしかして白根高?」
「うん、そうだけど」
「何年?」
「三年六組」
同じ学年なのに、俺はこいつの存在を知らない。階が違うからか? 三年生だけ三組から六組までは違う階に教室がある。古い校舎のままでクラスが増えたのが原因だ。でも、学年集会などでもこいつの顔は見たことないと思った。それに三年六組は進学クラスで、とりあえず偏差値の高いやつだということはわかる。
「君は何組だっけ?」
俺のことは知っているような素振りだ。もう少し質問を続けてみよう。
「お前、こんなとこで何やってんだ? 学校サボったのか?」
だいたいそんなとこだろうと考えていたことを聞いてみた。
「・・・・ああ、まあ、そんなとこだね。たいしたことないケガで理由をつけて休んでいるような感じだよね」
痛いところを突いてくる。図星ではある。
どうやらお互い学校に行くことを拒んでいることがわかった。詮索をしてその原因を突き止めてもケンカを吹っかけるようなものだと思い止めておいた。
自己紹介をしてもらい、彼の名前が寺田文彦だということがわかったところで質問を繰り返した。
「なあ、さっきからパソコンで何やってんだ?」
キーボードでも文字を打っているのではなく、スクロールキーを動かしてる。
「これ見てみ」
彼はカバンからある雑誌を取り出して俺に向けた。それはあまり高校生に馴染みのない雑誌だった。
俺は雑誌を手に取りパラパラとめくる。意外とページ数があり、ずっしりとした重みがある。気持ち悪いリアルな昆虫やドクロが表紙に描かれているので、本屋で月刊誌のコーナーでイヤでも目につく。でも、実際に買ってるやつは見たことはない。
怪奇現象や超常現象、希少生物や未確認生物をテーマにした月刊雑誌だった。
「なんだよ、これ?」
俺は顔をしかめながら言った。
「実は最近、運転免許取ったんだ」
「えっ?」
史彦は全然ちがう話をしてきた。なんだよこいつ・・・。
「でも、免許取ったのはいいけど、車もないからどこにも行けないんだとね・・・」
「・・・」
俺は聞いてはいたが、特に反応は示さなかった。
「このページ見て」
急に俺が持っていた手から雑誌を奪い取り、あるページを開いて見せてきた。見開き2ページ分に暗めいたピンボケ写真が貼りめぐらされていた。
下の見出しには「〇〇山の上空に魔女を目撃! 地元では有名なあの○○山!」
なんだこれ? 山の上空を写したわかりにくい黒い点にマーキングされている飛行物。
これが魔女ってか。こんなの小学生だって信じない。そもそも魔女って日本にいるのか?
とにかく信憑性のない記事だ。
「これ、どこだかわかる?」
「知らねえよ」
こんな場所、検討もつかなかった。どうしてコイツはこんな気味の悪い記事に興味を持ったのだろう。不敵な笑みを浮かべてた史彦は何か企んでいる顔をしていた。
「これ亜蘭山だよ」
「えっ?」
すぐに疑った。F県の亜蘭山といったらそこそこ有名な場所で、小学校の遠足でも訪れたことがある。同級生でも存在を知っているやつは多い。けど、ただ山の上空を切り取っただけの写真では亜蘭山だということはわからなかった。周囲にも何も写っていない。
「似たような画像をネットで探してみたんだけど、ほぼ間違いないと思う」
クルッと俺に向けたパソコンの画面には検索サイトで乱雑に検出された風景写真のような画像がいくつも並んでいた。一目見て、雑誌の写真と類似しているものがあるかどうかは、はっきり言って俺にはわからなかった。
「自分で運転してここに行こうと思ってさ、一緒に来ない?」
「いやだよ、何で俺がついて行かなきゃいけないんだよ。」
俺は大きな声を出して断った。
「いいじゃん、どうせヒマなんでしょ」
「そもそも、車あんのかよ?」
高校生が自分の車なんて持っているわけがないと思って言ってやった。それに俺は明日には病院を出る。親にも医者にもそう言われている。
「車はじいちゃんのを借りるよ」
軽々しく、言い放った。言い方が鼻につく。なんだか冷めた。
「お前、学校サボってんだろ。ちゃんと行かねえと大学行けなくなるぞ」
「そっちこそ、たいしことないケガで学校休んでんじゃん」
史彦は誘いを断った俺にふてくされた態度で言い放った。
「なんだと・・・」
「それとも本当に魔女が怖いのかよ」
怒りまかせの挑発には乗らず、相手にせず、椅子から立ち上がり、その場を去ろうとした史彦はさらに容赦ない言葉を投げてきた。
「また、学校に戻るのかよ? あんなつまんないところに?」
確信を突かれたような言葉に思わず足を止めて振り返ってしまった。俺が言い返す前にさっきの女性の看護師が怒鳴る声が聞こえてきた。
「あんたたち、うるさいわよ!」
その看護師の言葉で俺たちは数秒間凍りついて、何も言わなかった。
俺は口を曲げたまま、ガタンっと乱暴に音を立てて、また椅子に座った。
「行こうぜ。亜蘭山に。魔女を確かめに行こうぜ・・・」
決意の言葉を史彦に伝えた。俺はぐっと自分の顔を史彦に近づけて言った。
なぜ気が変わったのかはよく覚えていない。言い訳くさいけど看護師の女の人に怒鳴られて調子を狂わされたのかな。でもたぶん、本当は次の日に退院して学校に行くことを避けたかったんだと思う。それから逃れたくて史彦の誘いに乗ったんだと思う。
「よし、決まりだね」
史彦はニヤリと笑みを浮かべた。
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