私がくれた贈り物

猫野 二夜子

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1.私は誰

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暗闇の中で
遠くから聞きなれない音が聞こえる

「~♪」

体がふわふわ 空を浮いているような気がしていて
とても心地が良い

いったい今何をしているのだろう
ただただ、居心地が良くて
動くのが面倒だ……。

かすかに感じたのは
甘い香りとフワフワとした肌触りの良い感覚を身体全体が包み込んでいる気がした……。

ここが何処なのかなんて
考える必要はなかった。

すごく気分が良いのだから
このまま身を委ねていたいのだ。

遠くから聞こえていた聞きなれない音が
しだいと近づいてくるように感じた

音?メロディーだ

「~♪」

どんどんと音をあげた

「~♪♪」

耳障りだ
とても不愉快だ

「せっかくこんなに居心地が良いのに」

暗闇に うっすらと光が射し込んだ

「んっ……眩しい」

重たい瞼を開ける。

いままで瞼を閉じていた事に気づき
瞳を開いた

「寝ていたんだ……」

目を開けると、太陽の日差しが差し込んで、キラキラと輝く真っ白な天井が見えた。


「夢かっ。もっとあぁしていたかった」


どぉやらベッドで寝ていたみたいだった。

身体のあちこちが痛い
頭も重たいし、首もズキズキ痛む。

寝ていた身体を起こし
ベッドに座る

視線の先には無数に置かれた
だった。

「鏡……。」

部屋のあちこちを見渡す。

部屋全体のイメージは「白」だ
ごちゃごちゃした部屋
「汚い」ではなく、
オブジェや、やたらとこだわりのある
な部屋だ
部屋の広さは8条くらいだろうか。

壁紙には絵画が、机には花瓶に活けられた花が。
アクセサリーや化粧品が綺麗に並んでいる。
いや、飾ってあるのだろうか。

一見、几帳面に見えるが
床は、少々汚れている。

不自然に見えたのは、



この部屋の一番大きい鏡は
ベッドに寝転んで、起き上がった時に
一番に 自分の姿が映し出される位置にある。

ボヤけてあまりここからじゃ見えない
鏡に近ずき
自分を見つめた。

「私っ?」

自分が鏡を覗いたのだから
映し出されたのは自分のはずだと
思った。

だが、

自分の顔、身体を「鏡」で
隅々まで見た。

明るく染めた髪
コーンポタージュの様な色で
所々黒色。腰くらいの長さだ

髪質は、毛先が傷んでいる
何回も何回も染めたのだろう。

両手で頬に触れた
感触がある 頬にも、指先にも

その事から鏡に映るものは自分だと
認識できる。

鏡に映し出されたの容姿は想定外なものだった。

二重まぶたに、長いまつげ
高い鼻 ぷるんとした唇 

だった。

「綺麗な顔……。」

鏡に映る自分を見て
うっとりとしてしまった。

両手で顔の隅々まで なぞる様に触った
不思議なのである

「目がある。鼻がある。口がある。骨があって、肉がついている。皮膚が不思議な感覚だ」


すると、頬に添えた腕を見ると

ギョッとした……。


思わず身体を直視した

手首の何十箇所もの傷後
太ももの焼き跡 お腹の手術後の様な傷。
足首のあざ
腕に刻まれたタトゥー
大きく膨らんだ胸 筋肉質な体。

「これは、誰?私は何?」


身体の傷は何年前のものだろう?
どれだけ深かったのだろう?
自傷行為なのか?傷つけられたのか?
何故こんなにボロボロなんだろう?

この顔はこの人本人、生まれ持った顔なのだろうか。

「身体もずっと重たいんだ。クラクラしするし、耳鳴りもするし目もボヤけてし視界が悪い」

疑問がいくつもいくつもあって
とても状況を把握する事は困難だ。



ベッドの枕元に携帯がある。

「さっき流れた音楽はアラームか。」

夢で聞こえた音色は、この携帯から
流れた目覚ましだったと理解した。

目覚ましは長い間流れ続けていた様で
目を覚ました時には切れていた。

「趣味の悪いミュージックだった。
私の好きな曲調じゃない」


ふと携帯を開いた

誰のかよくわからない携帯の中を
隅々まで覗いた

「でも、私の携帯だよね??」


フォトギャラリーに沢山の写真。

そこには、風景や料理、部屋や買ったものや
鏡に移ったものの人物写真が
何千枚もあった。

「……これは私の携帯。だよね」

よくわからない。
私はいったい何なんだ
自分ゎいったい何者なのか。

わからなかった。

この携帯には
フォトギャラリー、カメラ機能、メール、日記、カレンダー、電話帳などが
「よく使う」に保存されていた

「日記?」

私は「日記」と書かれたアプリを開く

日記アプリには
すごい数の日記が記載されていた。
内容はこうだ。

「2014年1月1日(水曜日)AM07時16分
また新しい1年が始まる。今年も私は私であり続ける為に頑張る。今年こそは____」

「2015年2月16日(金曜日)AM04時36分 もぉ嫌だ。どおして私はこんなんなんだ____」

どの日記を見ても
日付だけではなく、時間も丁寧に記載されていて
どれも表現や考えが違ったが
その時感じたであろう感情が記されてあった。

余りに長い文書である為
全てを読むのは面倒だ。

それに、楽しそうではない
「日記」のアプリなのだが
「日記」としての使い方ではない
考えや気持ちや感情
と思われる手紙?の様なものばかりだ


几帳面なのか

文書は小難しくて、ハッキリとした内容はない
謎謎が書いてある様で、理解に苦しむものだった。

私が私だと理解するために
瞳を閉じて考えた____。

「やばいな。記憶がないんだ」
「ここは私の部屋なはずで私は私のはず」
「今まで何を、寝る前まで何をしていたんだっけ?なんで寝ていたんだろ。
何してんだろ?」


寝た記憶もないし、自分が何者なのかを
必死に考えた

「あ~っ。身体が痛いし気持ち悪い」

床に敷かれたジュータンに腰を下ろす。

机の下にゴミが散乱していた。
コンビニ袋にパンパンに何かが入って縛ってある。

「ゴミ?」を開けると
中にはベコベコになったお酒のカンカンが、4缶、ウィスキーボトルのでかいのがあった。

「二日酔い……。」



ピィーーーーーーーーッ

と耳鳴りが激しくした後
激しい眩暈がして、その場に横たわった


「あぁ。今日も私か。」


私は理解したのだ
。そして
現在は 朝の7時51分だ 平日の朝なのだ。

「外が賑やかで嫌」
私の家は大通り沿い
車の音や学生の賑やかな声が聞こえてくる。

不愉快だ。
たまに聞こえる笑い声、楽しそうなじゃれ合いの会話
親が、子を呼ぶ声
車のクラクションの音

全てが雑音だ

鳥のさえずりでも聴こえたら
この感情は変わるだろうか……

私は乾ききった喉を潤しす為
置いてあった1リットルの水を
飲みきった

飲んでも飲んでも喉が乾く


そぅ。昨日は夜遅くまで捨ててあったお酒を全て1人で飲み尽くしたのだ
酔って寝たんだ

身体が重たいのも、節々が痛いのも納得

「重症」二日酔いが過ぎると
昨夜の自分を恨んだ

身体からアルコールが抜けていないのだ
水を勢いよく飲みほした為に余計に気持ちが悪い

「吐きそうだ」

私は重い体を持ち上げて
トイレに向かい
胃の中の物全てを吐き戻した

自然と胃の中の物が上がってくる
逆流して止まらないが、
とても気持ちよかった

身体の中の悪いもの
身体を不愉快にさせるものが全て身体から出ていく

吐き出した後、すこしだけ気分が良くなった。

そぅ
私はいつも
食べたものや飲んだものを吐き出す癖があるのだ

癖と言うより勝手に上がってくる
吐き出してしまわないと我慢がきかなくなる程不快な感覚になる
無理なんだ。

トイレから出ると
服を脱ぎ、お風呂場へ向かった
シャワーを43度のやや熱め頭から浴びた

身体の隅々の汚れが荒い流れる様で
気分が良くなっていく

目を閉じるとシャワーの音だけが
聞こえ 身体が暖かく夢見心地だ

二日酔いの朝は早い
遠近感覚が崩れて
五感がおかしくなる
これも二日酔いの症状なのか
お酒の力は怖い
いや、あきらかに「飲み過ぎ」だ

いつもそうなんだ
こんな時は自分が誰か解らなくなる
鏡を何分か見続け、手で顔を、体を触り自分であるかを確認する。

たまに鏡すら信じれなくなり
何分も何分も真剣に考えてしまう時がある

そして確認した後に
「くだらない」と気づく。


自分が自分だと認識できないのか
したくないのか
自分を自分だと思う事を拒絶しているのだろうと感じてしまうと
凄く、くだらないのだ。

自分でも笑えるほど
無駄な時間だと思い嫌な気分だ。


シャワー中は、こんな事ばかり考えてしう
まるで他人を観察して意見を述べているかのように


次第に心が落ち着いていく
頭を荒い 体を荒い 顔を荒い

気持ちがなんだかスッキリしていく

「はぁ。こんな朝に起きたってなぁ。」


もう少し寝ていたかった
私の今日の仕事は夕方からだから
まだ充分に寝る時間はあった

性格上からして私は心配症なので
アラームは朝から1時間おきにセットしているのだ

いつも起きてしまって後悔するため
アラームは昼からでも良いと思いながら
アラームを消すこともせず
毎日、寝て起きてを繰り返ししている

アラームを止め時間を見て次のアラームまで寝るのだ
仕事の始まる3時間前に起きて
お風呂に入り雑用をして
したくをし、仕事場へ向かう

仕事場までは20分位で着くが
いつも1時間前に家を出る


そんな毎日だ

今日は早く起きたから
早めに家を出て外で優雅にブランチでもしようか

今日1日の行動の予定を立てながら
化粧台に座った。

「今日のメイクはどぅしような」

そう。私は毎日メイクの仕方が違う
濃い日もあればスッピンに近いくらいのメイクの時もあるのだ

「今日は……ギャルで行こう」

メイクとスキンケアに1時間以上かけ
髪を整え服を選んだ

服装の好みも幅広いため
クローゼットに衣類がしまいきれずに
散乱している

「今日はメイクが濃い日だから服装もすこし派手な感じで」

私は胸元の開いたシャツに黒いベスト
赤いタイトスカート、黒のロングブーツを履いて、いくつもある一番派手なヒョウ柄な鞄を手にし荷物を詰め込む

メイク直し様の道具 香水 コテ ハンカチ ティッシュ 鏡 仕事場の制服

携帯にイヤホンを差し込み
ロックを流し家を出る

「なんだかんだもぅ13時過ぎだ。」

~♪~♪♪
「いらっしゃいませー」

駅の近くのカフェに入り
喫煙席に座り アイスコーヒーを頼んだ

この時間が好きなんだ
一人の時間
タバコを吸いながらコーヒーを飲み
携帯をいじる

最近のニュースやダイエット法
その時気になった事を
ネットで調べ
感じた事を日記アプリに書き留める

その時間は時間を感じさせない
落ち着いた
私にとってとても大事な時間だ。

気づいたら2時間が過ぎていた
自分の世界に入り込みすぎていた

「15時半。」そろそろ仕事場へ向かう時間だ。
買い物は明日にすることにした


電車に乗り、一時間前に仕事場につく。

「おはようございます♪」

私は満面の笑みで
職場のボーイさんに挨拶をする

ボーイ「オハヨー♪花蓮ちゃん10番ねー♪」

今日の私の部屋は10番だ
10番の部屋は広くて使い勝手が良いからすこしモチベーションが上がる

部屋に入り荷物を下ろし
持ってきた制服に着替え
いっぷく。


携帯を出して仕事をする
「店の日記更新~おはよー!花蓮ただいま出勤したよん♪」


゛花蓮 ゛ 
私の名前である。
そう 私の職業は風俗嬢だ。

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