私がくれた贈り物

猫野 二夜子

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4.知らない方が

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瞬きをして1番初めに見えたのは
何も無い壁だった

おもちゃ箱にもたれ掛かり眠っていたのかな
その前から今までの記憶が無いけど…

保育園にママに送っててもらう
赤い車の中、香水くさくて
無駄にデカイミュージックに
まだ5歳の私は 車酔いして

いつもはやく車から降りたかった

保育園はとてもつまらなくて
なんでこんな所に来なきゃ行けないのか
ずっとママと居たいのに
どうして離れなきゃいけないのか

知らない人達に囲まれて
周りはうるさいし
先生は話しかけてくる
けど私は、一言も話せないし

たまに先生は怒る。
私は、ただただ絵を書いていただけなんだけどね。


運動場でみんなが走り回るから
私も運動場に出る

いくつもある遊具のひとつに
小さな、丸太でできた家が2つある

そのひとつに私は身を潜め
周りが少しずつ、1人ずつ
声が消えていったのを聴いていた

同時に空も暗くなる

「ママー!」
同じ保育園の子の声が聞こえる。
母親が迎えに来たのだろう。


寒いっ……

ママが迎えに来るのを
ただ、ただ 待ち続けるだけだった

「私が居ないことなんて、誰も気付いてないんだろうな……」

むしろ、私が居たことを知ってる人は
居るんだろうか?


なんて思いながら
オレンジ色に染められていく雲を眺めていた

雲は空を流れて行く
今見えている雲は何処へ
この空と全く同じ景色は
いったいどれだけの人達が見ているんだろう

一瞬で形の変わる雲と色と空気を……


空のオレンジ色がより一層、色を増す頃

「キィーッ」

門の開く音がした。

今度こそと小屋の中から覗くと

「ママー!!」

私のママが迎えに来た
涙が出た

悲しいことも、痛いところも
なんにもないのに

母親「どぅしたの??はいはい。よしよし。なんかあったの?」

ママが心配そうに私をなだめる

なんもない、なんにもない


はやく会いたかった

いつも家の中で、何をするにも
どこに行くにも一緒なのに
なんで、どぅして?私を一人にするのか
解らなかった

こんな知らない人たちの中に
なんで居なきゃいけないのか解らなかった

私を迎えに来るまでママは
何をしてるの??


嫌いな車の中に乗る
保育園での出来事を話す

〇〇ちゃん〇〇くん〇〇先生が、
何を話して、何をしていたか。

私が何をしていたかの話は一切無い中
止まることなく話をする

私はただ、見ていただけ、聴いていただけだから。


ママはずっと話を聞いてくれた
笑ってくれた

だから話し続けた

そんな日々がずっと続く___




今までの記憶は何処に行くのだろう

手のひらで瞼を思いっきり抑えると
真っ暗な中で機会の歯車のような物が
沢山動いてるのが見えた。

大人達は
人前に出ると、相手によって
態度が変わる。言ってることも違うし
私の知ってる者と違うし。

タバコは煙たいし
スカートは好きじゃない

夜いつも帰ってくる男の人は嫌いだ
ママを、とりあげられる
ママに、抱きつくと

「あっち行けっ」って言われるし
臭いし汚いから大嫌い

その人のせいでママは、イライラしたり
私の話を聞いてくれなかったり
ご飯だって作ってくれない時がある

でも毎日家に帰ってくるし
たまに夜中にドライブも行く

夜、目が覚めてママががいない時は
2人でどっか出かけてる

私が保育園にいる時、その人と一緒にいるのかなぁ?


なかなか寝付けない夜は
テレビがカラフルな色をして

「ピーッー」と鳴りひびく

次第にモノクロの丸めた新聞紙の様な映像が映し出されて

「ザーザー」と雑音が流れだす

チャンネルを変えても同じだから
1日が終わったのだと感じる

ママが家にいない時に
用があるなら電話しろと
携帯番号と電話のかけ方を教えられていた

左手で受話器を持ち
紙に書かれた電話番号を見ながら
右指で番号を押す

番号の位置が何度押しても覚えられず
すぐに「ブープー」と鳴る


「プルルルー」となるのは

20回トライしてやっとだった

「プルルルー」「プルルルー」

「はーい」

「もしもし?ママ?」

「はい?ちがうよ?」

間違ったようだ

「ママじゃないの?」

「ママじゃないよ?間違えたかな?」

「わかったぁー」

「プープープッ」ガチャンッ!!


「ぴーっぷーっぴーー」

「プルルルー」

「もしもし?花蓮?」

「ママー♪」

「もぅ少ししたら帰るから寝てるんだよ」

「どこいるの?」

「近くにいるから寝てなさい」

「わかった!待ってるね」

「良い子してなさいよ」

「はやく帰ってきてね」



「プープープープープー」


ママが帰ってくる
ママが帰ってきた時になんか、
びっくりさせたいな。

どこかに隠れよう


「おもちゃ箱だ!」


おもちゃちゃを半分外に出して
中にはいって
おもちゃを頭の上に載せるっと。


「痛いーっうっう」

でもすぐ帰るいってたから我慢っ!


「ガタッガタガタ」

「ガチャガチャ」


おもちゃどおしがぶつかり合って
ガチャガチャうるさい


「テレレン テッテレーン~♪♪」
奏でる絵本が開いて
心地の良いメロディーが流れている


おちゃの上にもふもふのタオルを敷いた上に体操座りですわるけど
もふもふの肌触りの良いタオルは
ゴツゴツしていて
とても違和感だ

タオルは普通っ
やらかくて気持ちの良いものだから。



「ガタンっ」

おもちゃ箱のなかでガタガタ音を鳴らしながら、玩具が移動していき
次第に居心地の良い場所を見つける

ゴツゴツかたいのも慣れてきた頃
フワフワとした感覚が身体を走る

ふわふわふわふわ
エレベーターを登る時のような感覚だ

ふわふわふわふわ____




ママとの約束
そんなん沢山あるよね

ママはいつもニコニコ優しくって面白くって良い匂いがして、温かくって

いつも勇気をくれて、なんでも知ってて
お話し上手でカッコよくって、

怒ると怖いっ……
叩かれるのは痛い

でも私が悪いから
謝ったら、謝ってくれて優しくしてくれる。

保育園に行く前や 誰かと会う時には
必ずママに言われる事がある


「パパはいません。お父さんはいません。」

そぅ言うんだよ。


必ず、いつも、どこででも

そぉやって言われるけど

「パパってなぁに?お父さんってなぁに?」

パパやお父さんが、
どんななのか
どんな形してるのか、誰なのか
よく分からなかった。


眠くなると何処かの世界に行く
「夢」らしい
夢から覚めると外が明るくなる

すると保育園の時間になるから
起きるのが嫌だ。


夢なのかいつなのか
わからないような
「映像」が頭の中を流れる事がある

男の人とママと3人でドライブをした時に買ってもらった、ざる蕎麦
それに付いていた うずらの卵が
小さくて可愛いっ。

男の人と手を繋いで歩いていたら
ふわふわした白くて甘いお菓子を食べた


滑り台のある木下で、ドングリや落ち葉を拾って集めた

犬とのお散歩の時
寄り道したお花畑で摘んだ花……


オムツを変えられて
白い粉を体にかけられた……

オムツの沢山はいったケースの中で座ってると
プラスチックケースが割れて
脚が挟まれて、血が出た

赤い液体が流れ出ているのが不思議だって
痛くもないのに泣いたら
光秀に笑われた……

お化粧をして着物を着て
知らないお姉さんがぬいぐるみで
私に話しかけてくる
写真をとるんだって
でもそのぬいぐるみ、別に面白くないから絶対、笑わないから


車でママと色んな保育園に行った
色んな大人の人と、ママは話をしていたけど、話が終わって車に乗る頃、いつもママは怒っていたな。


「あそこの保育園は先生がハゲてたからダメ」

「あそこの、幼稚園の先生は頭も幼稚だからダメ!わかる?」

そんなんばっかり言ってて
ままが笑うから私も笑った

「今日からよろしくお願いします。花蓮は内弁慶で人見知りですが……よろしくお願いします。」


「ぞうさん組」


いつがいつなのかわからないし
たまによくわからないことを
言われるけど、
ママが言うから言わなきゃで

いつでもママに合わせてた。



保育園で仲の良い子が出来た。

「そんちゃんとみかちゃん」

そんちゃんは話しかけてくれた

みかちゃんはあんまり話したことないけど、可愛くていつも見ていた

私の家のマンションでよく見かける
しげるくんは、
保育園でも同じ

写真撮るときも、運動会のお弁当も
となりに何故か、しげるがいる
私は話さないけどね!

好きな人もできた
女の子は皆、たかし君が好き!

いつの間にか保育園に、行くことも減った
タバコ臭いしオジサンと食事に行く

語尾が長い馬鹿そうなオバサンとハンバ
ーガー食べる

タンス臭いおばさんの家で押し花をする

テンションが高すぎるオバサンとカラオケ行く

美人なオバサンと麻雀屋さんに行ってナシを食べる

知らないおじさんの家でお泊まりする

いつもダボダボなジャンバー着たお兄さんとケーキ食べる____

3人裸で一緒に寝た布団の中___


おもちゃ箱に入って
フワフワしていたのはいつなんだろう。


ママは飛行機を見て、
「あのチカチカしてる飛行機に、あの人がのってるんだよ」

「どこ行ったの?」

ママは泣きながら「どっか遠く」そう言った


その晩からいつも家に居る男の人は居なくなった。


保育園の先生に
「ライオン組卒業だね」
そぅ言われたけど、私、「ぞうさん組」
じゃなかったのかなぁ?


白くてヒラヒラしたワンピース
窮屈なソックス
八分丈の羽織
胸のブローチ

いつもより可愛い服を着て沢山写真を撮った。
桜が咲いていて空をまう花びらがキラキラしてた。

ママもいつもより綺麗な格好をしていた。
なんだか楽しくなったけど
また知らない場所に居なきゃ行けないんだ。


色んな男の子、女の子や大人の人
年上の子沢山沢山いるけど……。

この「学校?」には
光秀も行くらしい

「光秀は小学6年生になったんだよ。
花蓮は1年生になるんだょお~」


意味がわらない
でも、ママがそお言うからそうなんだ。

その晩、飛行機に乗ってどっか行った男が帰ってきたらしい

あんな怒っていたママが
そヤツと仲良くしてる

またママとられた気持ちでいっぱいだ

ママって呼んでも、
「花蓮はえりちゃん人形で遊んであげなさい!ママが買ってあげたでしょう?」


そやって言うから
二段ベットの二階でずっと1人で遊んでた

何回も「ママー」と叫んだって
うざい男に「うるさい」って言われる。

飛行機のって帰らなきゃよかったのに。

「えりちゃん人形はママが買ったんじゃないもん!」

「はぁ?誰が買ったの?」
うざい男が食いついた

「男の人!」

ママは、怒りながら言った
「ヨシカズがかってくれたんだわ。ママも買ってあげたでしょ?ぬいぐるみ!
大人しくしてなさい」

「うん」

私は言い返すのをやめた
ぬいぐるみはママがかってくれたけど
えりちゃん人形は、ヨシカズじゃないもん
ヨシカズは最近帰ってこないし
ヒロミお兄ちゃんと遊んでばっかりで
全然相手してくれないもん。


ママは次の日もその次の日も
そのうざいのと一緒に居て
私は二段ベットで寝た

「おじんは、どこから帰ってきたの?」

おじんとはあのウザイ男の名前である。

「おじんは中国から虫かってきたんだよ」

「虫?虫?」


「シラミじじぃだわ!」


シラミ

どうやら中国からシラミを持ってきたらしい。

「頭がかゆい!」「花蓮も頭にノミがいる!かゆい!ポンタと同じ!」
「病院行かなきゃ!ノミのお薬しなきゃ!」


「ノミ?!」

「ノミ!」


光秀も、おじんも、私も、ママも

体にノミが湧いた。

ノミじゃなくてシラミと言われたけど
ポンタがお散歩に行く時、体に居るのとよく似てた。


シラミ……。

あのおじんが中国なんて行くから
シラミが出てかゆい思いしたんだ
最悪。


なのにママは
おじんの体のしらみ取りしてばかり。


燃やしたり潰したり水に入れても
シラミは死なない

まつ毛を歩くのがわかるし
頭からピョーンと飛ぶのがわかった

髪の毛を抜くと
髪の先にシラミが歩いてる


そんな生活がしばらく続き
学校は慣れないし
保育園との違いがわからない

保育園と違うのは、
ノートや教科書を毎日持って行って
ドリルに、文字を書くようになった

だけど、友達なんてできないし
休み時間に教室に居ると先生に怒られる。

ドリルの丸つけに並んで
皆が間違えた「目」と「自」の感じを間違えずに持っていったのに
すごく長く怒られた。

この人嫌い。

隣の席の子の見て真似したと言われた

真似してない

先生が、「間違えやすいから覚えてください」って言ってた癖に
もう忘れたのかと、馬鹿なんだと思った。


シラミがいつの間にか消えた頃

たまに泊まりに行って他、お兄さんと
過ごすことが多くなった

小学校が終わるとママが迎えに来て
そのお兄さんの家に行くのか
どこかで待ち合わせをした

タバコ臭いおじさんとは
たまに会う。

優しいおじさんだ。

そのおじさんは、前に私に言った
「パパって呼ぶんだよ」

パパって名前らしい。

ママに言ったら、
「パパじゃない。他の人に言うんじゃないよ」と言った。


お兄さんも「パパだよ」って言ってた
パパとは優しい人のことのようだ。


たまに家に帰る時
ママはご飯を作らない

白いお米に塩をかけて食べろって。
美味しくないからこのご飯は嫌いだ。


卵がけこばんや
味噌汁がけごはんが食べたいのに。

ママの味噌汁が一番好き。

学校で帰宅前に全クラスが
運動場に集まり、今後一緒に家に帰るメンバー(班)と仲良くなる会と言うのをした
今日はこのまま帰るらしい

でもママは、ママが迎えに来るまで学校で待ってなさいと言っていた
先生に言っても聞いてもらえず

同じクラスの男子にいっても
「ダメだよ!」と言われ

そのまま帰ることになった。

家について玄関を開けると
オジンが私を抱きしめた

「ぉお。よく帰ってきたな」

すごくヨシヨシされて
なんだか良い事した気分になった。

初めて私がしたことで喜ばれて
すごく嬉しかった。

ヨシカズも
私を抱きしめた。

ヨシカズとおじんが
ママに電話をしてるけど、ママは電話に出なかった。


おじんは、気がつくと朝も昼も夜も
家にいた

ママはその晩家に帰ってきた

怒られるのが怖かったけど、

「私は悪くない!先生と男子に無理やり帰らされた!」

と言い切り、私は絶対悪くないと言い続けた。

ママは次の学校の日
先生にすごい怖い顔で怒鳴って怒っていた。

先生が謝ってる。

嫌いな先生だから、なんだか嬉しかった。




男の人の家に行くことは、無くなり
パパ2人は居なくなった。

セミがミンミンと無く頃
いつものように3人でドライブに言って
その日は車の中で朝を迎えた

また、おじんにママをとられる
2人は車の前な席で抱き合い離れないでずっと腹筋をしてるけど
私は後ろの席で、えりちゃん人形と一緒に、ざる蕎麦を食べる

ママは「花蓮に見られてる」って
嫌そうにしてたけど

隠し事は嫌いだったたから
すごく悲しかった。

二男のみーくんがいつも
ダンベルとかを使ってキンクマんになる
運動を沢山してるけど
そんな感じだった。

朝になり、日が差して眩しいから車を動かそうとした時
タイヤが溝にハマって動かせなくなった。
いろんなひとが集まってきて
タイヤにお湯をかけたりしたけど

知らないおじさん達は

「ダメだねこれは」と言っていた


おじんは車を持ち上げた

車が動くようになった

ママは「火事場のバカ力」と言って
喜んでた

おじさん達が「パパすごいねぇ!」って私に言った

おじんもパパなんだと思った
普段全然優しくないからパパじゃないのに

今日はパパなんだとおもった。


次の日は学校に行き、
いつも通り授業が始まる。
今日の授業は「父」と「母」の感じのお勉強だった。

授業でわかったことがある。

「父」は「パパ」
「母」は「ママ」だった

父とは父親の事。母とは母親の事。

そーゆー呼び方もあるらしい。

同じクラスに、保育園時に一緒だった
「そんちゃん」がいた事に気づいた

話しかけようと
「ねーねー」と言ったら

「花蓮ちゃんとは友達じゃないから話可しないよ」って言われた。


唯一の友達は
すぐに消えた。


なら仕方ない。家に帰ってから
父とは何かを母に聞くことにした。


学校は意外と楽しい。
隣の席の「ゆうくん」はかっこいいし
好き

同じ団地に住んでる
「りょうへい」は前に文団で「ダメ!」って言ってた男子だが
なんかよく話しかけてくれる

クラスの子全員とは話した事ないけど
顔も名前もよく覚えてないけど

他にも何人もいた。

そんちゃんはなんか怖い。

みかちゃんはお嬢様学校に行ったらしい
顔が可愛い子は特別なんだと思った。

そんちゃんは可愛くないからね。


学校が終わってママが迎えに来た
車の中で
早速、父親の話をした

すると、いつものように
「お父さんは、居ませんってこたえるの!」

「お父さんってなーに?パパ?」

「そうだよ」

「パパってなーに?お父さん?」


「そうだよ!聞かれてもいませんて言うの」

「パパって誰?」


「あんたのパパはおじんっ」


えっ……?


「パパとママはおなじなの?」


「パパとママがいるけど、うちは居ないの」

「おじんは家にいるよー?」


「でもいないって言うの」


わからない
パパとお父さんがなんなのか
よくわからない。


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