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お仕置きのお時間
198 召喚された側の大主張 (3) -sideリリ
『なんで……? わたし、奪られた側なのに』
声だけだから顔は見えないけど、どんな表情を浮かべていそうなのかすぐにわかるわね。
目を真ん丸にして、口を半開きにしてそうな感じ。
「リリ様はご自分の中の『もう一人』にお気付きではなかったようです。つい先ほど私の魔法で声が聞こえるようになり、その少女と対話を始められていまして、それを聞かせていただきたいのですよ」
魔女は王様達に説明しているようでいて、目はずっとあたしを見ている。
つまり、聞きたいからこいつと会話をしろってこと?
『こいつ、じゃないわ。わたしは〝ルリ〟よ』
ルリが突っ込んできた。知ってるっつの。
……あーあ、タルいけどしゃあないわね。相手してやるか。
こいつに残す価値なんかないって、アピールしなきゃだし。
『さっきから勝手なことばかり言わないで! わたしの身体を乗っ取ったくせに!』
はいはい。
それにしてもこいつって、セリフも話し方もイラっとするわ。
おっとりした口調で、善良っぽいことを言う子はほかにもいたけどさ、そういうのってタイプが分かれんのよね。
おっとりほんわかしていても、アタマの回転はめっちゃ速いとかさ。
あと、良い子ちゃんっぷりがあざとい子。わざとやってるか天然かでも分かれるけど、このルリは天然ぽい。
にぶいし、甘ったれてるし、聞いてなかったからよく知らないけど口は出すって意味不明。
あんたなんか表に出したら、一瞬でアウトよ。
あたしのおかげで助かってんじゃん?
『助かってなんかない! なんでそんな図々しいことばっかり平気で言えるの? 別人になりたいって言ったのだって、こういう意味じゃないもの!』
はいはい、またそれね。
あたしは心底うんざりした。
――いるのよね~あんたみたいにボンヤリした言い方しといて、誰かが親切でやってあげたら、あとから文句つけるヤツ。
だいたいあたしのことを酷い酷いって言うけどさ、あんな塔に閉じ込められてたあたしに謝れって、そっちのほうが酷いと思わない?
被害者はこっちなんだけど?
第一あたし、あの王子と結婚してんのよ。
『け、結婚……!?』
そ。だけどクズ王子、初夜すっぽかしやがった上に、今日が久々の再会ってわけ!
素敵でしょ!
『……でも。それは、あなたがあんな風に暴れてたら、近付きたくもなくなるんじゃない?』
へえ……言ってくれるじゃん。
『王様や王子様達に、ちゃんと謝ったの? 周りの人達にもそうだよ。謝ってもいないのに、そんな風に決めつけてばかりいるからいけないんだと思う。結婚、ていうのは、びっくりしたけど! お互い話をして、誤解が解けたらきっと――』
はいストップ!
あたしに遮られて、ルリが不満そうに口をつぐんだのを感じるけど、このクズ王子にゴメンナサイして良い奥さんになれとか、『もしも』の話でも聞きたかないのよ。
――ねえルリ。あんた最初っから肝心なトコがすっぽ抜けてっけどさあ……そもそもあたしらは聖女召喚の儀っていう魔法で、あたしらの希望とか全然関係なく、この世界に強制的に連れて来られたのわかってる?
『えっ……?』
――この手の奴らはどうせ、帰すための魔法なんて用意してないからね。あんたのパパママ友達には、もう二度と逢えないと思っといたほうがいいわけ。なのにこいつらは平気な顔で、「我が国のために力を尽くすように」とか要求してくるわけよ。あんたそういうの、「この人達なんて信用できない」って思う子じゃなかった?
『そんな……そんなの知らない! 嘘でしょう……どうして早く教えてくれなかったの!?』
はぁ? 訊かないあんたが悪いんでしょ?
あたしはものすごく顔をしかめた。
いっぱいあったでしょうが、そのタイミング。
『訊かなくても、教えてくれたって……!』
だからそういうとこが、あんたはアウトだっつってんの!
本気でイライラするわ。でも魔女がこっちの会話に耳を澄ましてるから、真面目に相手しなきゃいけない。
マジうざったいわ。
――あのさぁ、訊かなくても教えてくれだの、話せばわかってくれるだの、甘ったれんのもいい加減にしな? ここはそーゆー世界じゃないの!
『世界とか、そんなの関係な……』
――ないと思ってんのはあんただけ! 誰かからの教え待ちして、ちょっと怖いことがあればすぐ耳塞ぐ小娘なんて、骨まで食い尽くされんのがオチよ! クソ王、クズ王子、ゲス大神官に良い子の顔でゴメンナサイなんかしてみな。こいつら、これ幸いとあたしらを道具にして、朝から晩まで働かせようとしてくるからね!
片方を消して『一人』だけになったら、聖女魔法が使えるかもしれないんでしょ?
あたしだったらこいつらの思い通りになんかなってやらない。
でもルリは違う。
こいつの抵抗なんて口先だけ。丸め込むのはホント簡単なのよ。
ちょっと『良い人』のフリをしてやりゃいいだけなんだから。
良い子ちゃんのルリはこいつらに都合のいい、こいつらにとって理想通りの『聖女』をまんまとやらされることになる。
「だわねぇ。そうなると、あたし達としても困るわ」
魔女が割り込んできて、その言い方であたしはピンときた。
この魔女、外国の人間じゃないの?
ひょっとしてロラン王国で聖女に活躍されたら、なんか困る感じ?
魔女は感心したみたいな目になった。
「鼻がきく子ね。あなたの言う通りよ。訊かなくても誰かが教えてくれる、話せば皆が理解を示してくれる……あなた達がいた世界では、それが普通だったの? ここでは有り得ないわねぇ」
特別に親しい相手ならまだしも、と続けた魔女に、ルリが驚いている気配がした。
ほぉら、みなさいよ。
っていうかあたしらのいた世界だって、そんなのがまかり通るのは平和な国の一部だけっていう話だったじゃん。
「ここまで聞けばもう充分よ。……陛下、観察してみた結果なのですけれど」
魔女は怪訝そうにしている王様に顔を向けた。
「『もう一人』との交換は、まったく推奨できませんわ」
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