悪役聖女に転生? だが断る

日村透

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もうひとりの聖女の謎

220. 可憐な聖女 -side解呪の魔女


 その宿が視界に入った瞬間、立ちすくんで動けなくなりそうだった。
 ……ちょっとこれは、想像以上だったわね。
 建物までまだ距離があるのに、わかる。
 あの宿全体が、まるで神殿のようだ。

 これでもまだ影響が薄いように感じるのは、滞在して間もない『宿』だからだろう。
 建物それ自体が聖性を帯びる段階ではなく、もし何年も住んだ家であったならば、たとえ掘っ立て小屋であろうと名のある大神殿に匹敵する代物になったのではないか。

 ――あいつら、を奴隷みたいに扱ってたの!? 本っ気で有り得ないんだけど!?

 逃亡できないよう奴隷向けの魔道具を埋め込み、朝から晩までほとんど休ませずに『ロラン王国専用の聖女』として酷使していた話は、あたし達魔法使いの界隈にも伝わっている。

 ――そんな罰当たりな真似をしていたんじゃあ、国があんな有様になるはずよね……!

 それにしても、私は『その人』に会って大丈夫なのだろうかと、今さら不安が頭をもたげてきた。
 汚らわしい魔女として滅される、なんてことになったらどうしよう?

 まだメルシエ公国かメリザンドの町あたりにいると思っていたものだから、「聖女様がここにいらっしゃるよ」と旅人に聞けて、すれ違わなくて幸運だったと少し前まで喜んでいたというのに。
 あたしは内心どきどきしながら、その場に臨み。

「あら……可愛い」

 ひと目その方を目にした瞬間、そんな言葉が口をいて出た。

 肩より少し長いぐらいの、とても綺麗な白い髪。
 抜けるように白い肌の中、頬や唇には薄紅色が差し、澄んだ二つの翡翠がこちらを見上げている。
 細身で小柄で、とても可憐で、まるで蓮の花のよう。

 耳元できらめく唯一の装飾品は、どうやら真珠だ。
 金の葉が小さな真珠を包んで揺れるそれは間違いなく高価なものなのに、まったく嫌らしさがなく、これ以上なく似合っている。
 何よりこの人からは、あたしに対する嫌悪感がほんのわずかも感じられなかった。

 よかった……正直、ものすごくホッとした。
 あたしは同性からは嫌われやすくて、初対面の時点で既に敵意を向けられることが多いのよね。

 ざっと部屋を見回しても、女性はその人だけで、ほかは殿方ばかりだった。
 もしこの人が、殿方に囲まれてお姫様扱いされるのを喜ぶたぐいの娘だったなら、あたしはきっと敵視されていたことだろう。
 そういう娘は、殿方の視線が自分以外の女に集中することを嫌うものだから。

 ――聖女セレスティーヌ。お噂以上の方ね。正面から向き合っているだけで、震えが来そうよ。ロランの奴ら、ほんとにどいつもこいつも節穴だらけね!

 物心つかない年齢で呪具を埋め込まれていたという話だから、そのせいで魔力も精神力もすり減っていて、周りの神官は気付きにくかったのかもしれないが。
 それを弁解に使うとするならば、そもそもおまえ達がそんなおぞましいものを使いさえしなければ、早々に気付けたという話だ。

 ……それはそうと、さっきからあたしの胸をちらちら気にしているようなんだけれど、やっぱり敵意は全然ないのよねぇ。コレ、もしかして羨ましいのかしら。

 重くて肩が凝りやすいし、走る時にぶんぶん揺れて邪魔よ~?
 しょっちゅう花街の女に間違われる身としては、彼女みたいな可愛らしい姿に憧れるんだけれど。
 妖精のように可憐ですっきりとした体形、素敵じゃないの? なんて言ったら、嫌味っぽく聞こえてしまうだろうか。

 それに、彼女の隣に座っているアロイス・オベールが、聖女をその意味で囲い込んでいるとか、当たっては砕けているみたいな噂も耳に入っている。
 普段は他人のあれこれなんてどうでもいいんだけれど、この人達に関してはちょっと訊いてみたくなった。




 リリ様の件に関しては、一旦保留という結論に落ち着いた。
 セレスティーヌ様……セレ様はいきなり言われても判断できないみたいな言い方をされていたけど、あたしが知りたかった『女神の怒りを買うかどうか』については、さりげなく断言を避けていた。

 きっと、中の少女を消したとしても、女神はお怒りにならないのだ。

 でもセレ様としては、どちらも『消す』なんてしたくないから、あえて言わないようにしているというところか。
 その証拠に、『移し替える』方法については興味を持っている様子だった。
 無駄に甘いのではなく、安易に相手を傷つけることをよしとしない性格なのだ。それは個人的に好ましいと感じるのだけれど。

 ――ただ、ねぇ。もしリリ様の中にいる子に自由を与えたとして、まかり間違ってリリ様ではなくその子が『聖女の力』を得るようなことにでもなれば、セレ様の敵に回りそうな予感がするのよ。

 漠然とそんな感じがする子だったから、それもあってさっさと排除しておきたかったのよね。
 ともあれ、あたしもアロイス・オベールの隊商に加えてもらえたことだし、そのへんは追い追い話すことにしましょうか。




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 読んでくださってありがとうございます!

 更新のお知らせ:10/25、26は更新お休みとなりますm(_ _)m

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