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『元』聖女、行きたくないけど方向転換
240. テーサツニンム! (1) -sideミュリエル
しおりを挟むミュリエルは働き者だ。
今日も空の上をびゅーんと翔ける。これはほかの仲間にはできない、ミュリエルにしかできないことだ。
だから彼女はとても頼りにされている。
みんなが楽しいと自分も楽しい、みんなが困ると自分も困る。
なので今日も、ミュリエルはみんなと自分の充実した日々のために頑張るのだ。
ただし今日は一点だけ、いつもと違うところがある。
明るい時間帯での偵察任務なのだ。
具体的には、怖い大型の鳥がいそうな場所では暗い時間に飛び、『その国』の手前からは明るい時間に飛ぶのである。
夜になると視力の下がる鳥が多く、怖い大型の鳥などがほとんど姿を見せない。
だから普段は夕方から次の日の朝、日が昇る前までの時間帯を飛んでいた。
つまり今回の任務は、いつもよりちょっと危険なのだ。
『あの国の鳥や動物はもう逃げ出しているはずだ。他国で見張っていた仲間が、逃げ出す鳥の群れを目撃している』
それでもまだ残っている奴がいるかもしれないから、一応は用心して飛べとアロイスは言っていた。
ミュリエルはそれをきちんと守り、用心深い行動を忘れずに移動を続ける。
そして『そこ』へ近付くにつれ、生き物の気配が減っていくことに気付いた。
――コワイトリ、ゼンゼンイナイ。ナワバリステテ、ドッカイッタ?
陽射しが世界を明るく照らす中、ミュリエルはビュンビュンと空を翔ける。
やがて目指す方向に、なんだか「ヤナカンジ」のものが見えてきた。
ミュリエルはとても視力がいい。それだけでなく、色の識別能力も高く、世界中の色を人よりも複雑に見分けることができる。
彼女の色彩感覚は、人の目には捉えられない空気にも及び、これが異変をいち早く察知できる理由のひとつだった。
――ナンカヤダ~。アッチイキタクナ~イ。
しかし、あっちの方向が「ヤナカンジ」になっているのはわかっていたことだ。
だからこそミュリエルは「テーサツニンム」を任されているのである。
それに今、彼女が身体に装着している夜行鳥用の荷物袋の中には、手紙ではなく浄化の魔石と守護の魔石が入っていた。
浄化の魔石はセレスティーヌが、守護の魔石はアロイスが念のためにと入れてくれたものだ。
袋を身体に固定するための細い革ベルトにも、小さな浄化魔石がたくさんある。
セレスティーヌの作った浄化魔石は光るから、外側から見えないよう内側に嵌めこまれていた。
霧に包まれていた神殿の空を飛んだ時と、同じような重装備である。
――ミュリ、ジュンビバンタン! カンペキ! ダイジョーブ!
実際、地上を歩いている人々よりも安心安全な完全防備であることは疑いようもなかった。
なのでミュリエルはちょっぴり怯みつつ、方向転換はせずに、目的の空を目指す。
ロラン王国の上空へと。
ミュリエルが己を鼓舞してそれほど時間が経たないうちに、彼女は「ヤナカンジ」の中に突入していた。
どこもかしこも真っくろくろだった霧の神殿の周辺と比べれば、一見するとマシに見える。
しかし実際はそうではなかった。
――ウッワァ~……。ヤッバ~イ。
霧の神殿の濃霧は、原因が魔道具にあり、瘴気の噴き出していた範囲もごく小さなものだった。
濃霧に瘴気が混ざって広範囲に運ばれてしまい、巨大な暗黒地帯が出来上がってしまったが、源の瘴気はそこまで驚異的な規模ではなかったのだ。
しかし今、ミュリエルの目にはしっかりとそれが映っていた。
見渡す限りのロラン王国の大地から、じんわりとにじみ出そうになっている何かが。
まだ完全に出てきてはいない。けれど間違いなく、土地という土地に染み込み、地面の『色』が変わっている。
その『変色』は人間の目には映らない。
アロイスのような魔力に敏感な者、セレスティーヌやメラニーといった魔法に長けた者、リュカのように勘のいい者ならば、これを感じ取ることができるだろう。
そして本当なら、神官もこれに気付かねばならないところなのだが……
――コノクニ、シンカン、バカジャン!? アホジャン!? ナニヤッテンノ!?
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