悪役聖女に転生? だが断る

日村透

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『元』聖女、行きたくないけど方向転換

244. テーサツニンム! (5) -sideミュリエル


 王宮は大神殿の目と鼻の先だ。
 ミュリエルにとっては一瞬の距離である。

 森の中では保護色になっても、雲を背景に飛べば目立つと思われたが、滅多に見かけなくなった鳥が飛んでいても注目する者がいない、
 大半の人々は地面に視線を落として歩き、見張りの兵にもやる気がなかった。

(この国、まずいのでは……?)

 そんな空気が蔓延し、たまに天を仰ぐ者がいないでもなかったが、ただの鳥には注意を払わない。
 その鳥が伝書を目的とする鳥だと、わかる者にはわかる。
 しかし仮に夜行鳥だと察する者がいても、誰かに報告しようとまではならないのだ。

 コルネイユと賛同者のおよそ百名が一斉に職を辞したあと、先見の明があり財力を持つ者は、早々にロラン王国を脱出していた。
 その者達も現在は受け入れ先の国で、過去の行状のし悪しにより待遇に差をつけられているとはいえ、この国に留まっている者のほとんどは知りようのないことだ。

 運悪く逃げそこねた。
 様子見をしているうちに逃げるタイミングを失った。
 そもそも逃げる金がない……

 文官も王宮使用人も、頭の中は「逃げそこねた」「どうにかして逃げたい」で占められている。
 士気は低く、注意力も散漫。やはりミュリエルは簡単に侵入できた。

 ――コクオー、オウジ、ムシ! リリ、ドコカナ?

 アロイスからの指示だ。 
 国王一家に接近するのは危険。特に国王には近付くな。何があるかわからない。
 召喚聖女を捜せ。

 ――ハナレノ、トー……アレカナ?

 ミュリエルは言われた通り、召喚聖女が閉じ込められているという離れの塔を発見し、そこの窓辺に向かって飛んだ。
 窓は平均的な女性の頭がある位置に設けられ、室内からは簡単に覗くことができず、おまけに鉄柵がついている。
 幽閉された少女がそこから抜け出すのは不可能だ。
 ミュリエルは窓枠に着地し、室内を覗き込んで首を傾げた。

 ――アレ? イナイ。マチガエタ?

 どこかで散歩をしているのかもしれない。
 あの王宮の中にいるとしたら、捜すのはひと苦労だ。
 王宮という場所は神殿よりも複雑で、ドアと個室が多いのである。
 
 いったん塔の屋根に移動し、きょろきょろと周辺を見回していたら、庭の向こうにそれらしき一団を発見した。
 中心にシンプルなドレスを着た少女がいる。黒髪に黒い瞳、背丈や体格はセレスティーヌとあまり変わらない。
 その少女を数名の王宮侍女が囲み、さらに十名近くの兵が付き従っている。
 護衛と言うより、それらは少女の監視人だった。
 逃げ出さないように見張りつつ、何名かが逃亡経路になりそうな場所に先回りしている。
 
 ――アイツダ! ン~、デモ、ナンカヨウス、ヘン?

 一団が塔の中に吸い込まれ、しばらくして金属製の扉がひらかれる音がした。
 ミュリエルは再び窓の近くにこそこそっと移動する。
 室内には黒髪の少女、それから数名の侍女の姿。
 少女は水色を基調とした、シンプルでいて上質なドレスを着ている。

 浮かない顔で長椅子に座った少女に、侍女が心苦しそうな表情で声をかけた。


「申し訳ございません、……あなた様の気晴らしにと思ったのですけれど」


 ン? とミュリエルは首を傾げた。


「いいえ……仕方ないと、わかってはいるの。だってリリがどんな子だったか、私、中で見ていたから……あなた達が怖がるのも、無理はないわ」
「ルリ様……」


 ンンン? と、ミュリエルはさらに首を傾げた。
 鳥の首はよく傾く。
 角度を変えてしっかりと観察すればするほど、ミュリエルは戸惑った。


「私、ここにいますから。ひとりにしてください」
「ですが、ルリ様……」
「……禁止、されているんですか?」
「あの、……はい。命令ゆえ、ご希望に添えず……せっかくのお散歩も、あのような大所帯となってしまいました」
「そう……ありがとう。気遣ってくれて、嬉しかったです。お茶、淹れてくれませんか? 喉が渇いたから……」

 にこりと切ない微笑みを浮かべた少女のために、侍女はすみやかにお茶の準備を始めた。



 ひょこり、くきりと首を左右に傾げ、ミュリエルは困惑した。
 この少女の名前は『リリ』のはずだ。
 なのにどうして、『ルリ』と呼ばれているのだろう。
 おまけにどの角度から観察しても、ミュリエルの印象は変わらない。

 ――エンギ?

 ミュリエルは素直だ。
 が、決して騙されやすくはない。
 さらに言うと以前、リリが暴れているところをちょろっと目撃したこともある。
 たとえ『ルリ』という少女の性格を知らずとも、ミュリエルが一度見た人間を見誤ることはない。

 ――ナンデ、タニンノフリ?

 そこにいるのは間違いなく、正しい意味で、だった。




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 更新のお知らせ:12/7~9まで投稿お休みいたしますm(_ _)m

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