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聖女達の反逆
246. ミュリエルのとんでもない報告
お昼近くになり、隊商は街道上にある小さな村の近くで休憩することになった。
皆が簡単な食事の準備をしている間、私はメラニーさんとジゼルを伴い、軽く身体をほぐすために散歩をする。
何かあればすぐ駆け付けられるよう、コルネイユ隊の人々がこちらを気にしてくれていて、彼らの目の届く範囲からは出ないように気を付けた。
草木はほとんどが茶色や黄色に変わり、通り抜けるそよ風に乾いた音を立てる。
すっかり秋だ。
世界がもの寂しい色に包まれるこの季節は、どこの農村も収穫期の真っただ中。
地域によっては秋イコールお祭り騒ぎであり、冬の備えもしておかねばならないということで、「しんみり? 何それおいしいの?」という反応になることがほとんどだそう。
――さまざまな『秋』がありますわよね。食欲の秋、運動の秋、睡眠の秋……食べて運動して寝る流れが完璧ですわ。本日のお昼は何かしら?
食材が最も豊富で、しかも傷みにくいこの季節、いつもより美味しい食事がよく出るのだ。
秋にのみ咲く花の、甘く深みのある素敵な香りを吸い込みながら、私はほんのり笑みを浮かべて思う。
――先ほどリュカが採っていたキノコ、塩焼きが格別とのことですけれど、どのようなお味なのかしら? 楽しみですわ~。
……お腹がすいているのである。
仮に誰かが私の頭を覗いていたとしても、仕方ないと大目に見てくれるはずだ。
だって今は食欲の秋なのだから。
そんなおバカさんな思考をアルカイックスマイルで覆い隠しつつ、私はすぐそこの小高い丘まで足を延ばした。
「あら? セレ様、戻ってきたみたいよ」
最初にそれを発見したのはメラニーさんだった。
彼女は私やアロイスよりも、気配や魔力を読み取る感覚に長けている。
「あ、ほんとですね」
視力のいいジゼルが目の上に手をかざしながら空を見据え、「あそこですよ」と教えてくれた。
ほんの数秒後、私の目にもその姿が捉えられる。
「タダイマ! ダダイマ!」
元気な声が軽快な羽音とともに舞い降りてきた。
「お帰りなさい、ミュリ!」
ミュリエルを見上げ、私は両手をめいっぱい伸ばした。
すると彼女が「どうしようかな?」と躊躇している感じがしたので、慌てて腕を水平の位置まで下ろす。
緑と茶色のまだらの鳥は、「いい枝みっけ!」とばかりに私の袖の上に着地し、羽を畳んだ。
「セレ! ミュリ、ニンムカンペキ! エライ?」
「偉いですわ! さすがミュリですわね!」
「フッフ~ン」
夜行鳥のミュリエルがお日様の明るい時間帯に戻るのは、本来なら珍しいことだ。
けれど今回は、アロイスが特別な指示を出していた。
『多分あちらの空はもう、ミュリエルの脅威がいなくなっているだろう』
彼はそう考え、あえて日中の偵察を指示し、高価な守護の魔石も持たせた。
ミュリエルの体内の誘導石は、ものの位置や方角などを感覚的に教えてくれるレーダーのようなものであり、視力を補助する装置ではない。
日が暮れた途端、彼女の視力はがくんと落ちる。
「道中――という言い方はおかしいかもしれませんけれど。怖いことはなかったかしら?」
「ナイヨ! アッチ、コワイトリ、イナイノ。ゼンゼン」
怖い鳥がいない。……鳥を襲う大型の鳥が、どこにもいない。
アロイスの得た情報と読み通り、縄張りを捨てて逃げたのだ。
「ア、デモネ。サンゾク、イタノ」
「山賊!?」
「ウン、イッパイ! デモ、ミュリ、コワクナカッタモンネ!」
山賊がいっぱい!?
そんな情報、アロイスは何も言っていなかったのに。
まさか彼ですら知らないルートで、あの国の山々に入り込んだ山賊団でもいたのだろうか。
都の偵察のついでに発見したのなら、その周辺の山ということになるけれど、どこだろう。
「傾いた国って、そういうのがどっからともなく集まってくるのよねぇ……」
「脱走兵が賊になるとも聞きますしね。ミュリ、あんたそいつらに見つかって攻撃されなかった?」
「ナイヨ! ミュリ、ミツカラナイ! ダイジョーブ!」
万一発見されて矢を射かけられても、アロイスの持たせた守護の魔石が弾いてくれただろう。
でも、大人数で網か布を投げられ、その時たまたまミュリエルが低空飛行をしていたら捕まっていたかもしれない。
早くアロイスに、このことを報告しなければ。
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