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聖女達の反逆
248. 事前に選別されていると助かる件
少し皮肉っぽい言い方になってしまった。
けれどこれに関しては、無理もないと思ってほしい。
ロラン王国の神殿に純粋な孤児は少なく、ならばどういう子供が入ってきたかというと、だいたいは貴族の子供だったのである。
女神への信仰を証明する行いとして、次男や次女以降の子を預ける家がそれなりにあった。
その子達の力関係は、だいたい家の身分や財力に左右される。
実家の力が大きい子ほど、すぐ見習いから神官に格上げされ、その後も順調に位が上がった。
たとえ実家が下位貴族であろうと、既に特権意識を植え付けられたあとの子ばかりなのだ。
親のいない純粋な孤児と自分達とでは、比較にならないほどの差があると彼らは理解していた。
「実際にその通りでしたの。自分達は普通の民と違って特別なのだと最初からわかっている子達ですから、大人の神官達の言動に何の違和感もなく従うのですわ」
言いながら、ふと思った。
本当の意味で孤児だった人々は、彼らと差をつけられて下位神官に留まる。
その中には疑問を抱えながらも、従うしかなかった人が一定数いるのではないか。
――少なくとも大神殿には、そのような方はいないはずですけれど。
苦々しく小説の内容を思い出す。
異世界の乙女が現れ、彼女が悪役聖女に濡れ衣を着せられる前までは、大神殿の全員がセレスティーヌの存在を忘れかけていた。
セレスティーヌ視点ではなく、第三者視点の文章ではっきりそう書かれていたのだ。
物語をうのみにせず、実際どうだったかをしっかり思い返してみても、やはりそういう空気だったとしか言えない。
コルネイユさん達と違い、下位神官や見習いは訓練が甘く、感情を顔に出しやすかった。
同じことを思ったのか、アロイスがふと尋ねた。
「嫌々ながら従わされた者は、女神の嫌がらせ対象から外されていると思うか?」
嫌がらせって。
……うん、合っている。
「基本的に女神様は、そういった斟酌をしてくださる存在ではないのですけれど」
迷うより先に、直感的にイエスだと感じた。
「勘ですけれど、対象には入っていないと思いますわ。あの悪戯、見習いを含めた神殿の者『全員』ではなく、女神様を侮る心や保身優先で禁を破った者が対象になっていた感じがしますの」
女神がひとりひとりを精査したわけではない。
おそらくは『天罰』それ自体に、そういう性質を持たせて放った。
「今回は特別にそうなさったような感じがしますわ。基本的に、個人の善し悪しなどを細かく選別してくださる御方ではなく、お怒りになればまとめて一気に葬り去るのが『神』という存在ですから……」
言っていてちょっと怖くなった。
仮に瘴気がロラン王国全土を丸呑みにしようとも、女神エステルには不用品を掃除できたぐらいの感覚かもしれないのだ。
「何にせよ、あたし達には助かるわねぇ。見分けがつきやすくなったもの」
メラニーさんがからりと笑って結論づけた。
「確かに。あとから『あいつ実はいい奴だったかも』なんて、後味悪くならないで済むのは助かる」
「わかるわぁ。叩きのめしてからそう思うのって、あとあと気分悪いのよねぇ」
「それにこの状況下でなお『天罰』の範囲から漏れた人って、仮にあたし達と出くわしても説得が通じる相手ってことですよね? 交渉の時に、こいつ裏切るかもって心配が少なくていいです」
「――なるほどですわ! そのような考えもできますわね」
特にジゼルのセリフにはうんうんと頷く。
というかアロイスもメラニーさんも、商人なのに発想が物騒すぎるのではなかろうか。
最も理性的な意見がジゼルというのはどうなのかと、失礼ながらちょっと突っ込みたくなってしまった。
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