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聖女達の反逆
251. 衣替え
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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秋が深まるにつれ気温が下がり、隊商の服は冬服に変わった。
寒くなる前から徐々に準備を始めていて、寒くなったら一斉に替える、というのがこの隊商の衣替えのようだ。
そしてなんと、隊商の女性達が私のために服を仕立ててくれていた。
これまでは予備の中からサイズの合う服を着ていたのだけれど、私の全身の寸法を測り、私のための服として新たに作ってくれたのである。
「動きにくいとこはないかい?」
「きつかったら言っておくれよ」
「とっても着心地がいいですわ! わたくしのためにこのような……」
嬉しさのあまり鼻がツンとしてきた。
きっと私の目は赤く潤んでいる。そんな顔でお礼を言う私がおかしかったのか、彼女達は「おやおやしょうがないねこの子は」と笑った。
それがまた親愛を込めた笑い方だったから、余計にじんわり鼻にくる。
見た目のデザインはあまり変化がなく、これまで着ていた春夏仕様の服よりも生地に厚みがあり、保温性の高い裏生地が縫い込まれていた。
布の総量は増えているのに、重さ自体は全然変わっているように感じず、動きを邪魔される箇所もまったくなかった。
襟元や裾にさりげなくあしらわれている桔梗に似た小花は、花弁の紫と緑の葉が黒い生地によく合っている。
ところで紫色の花というチョイスには、何らかの意図があるのでしょうか?
いや、きっとない(反語)。
――べ、別にあったとしても一向に構いませんのよ!? わたくし、逃げも隠れもしない女ですもの!
ロラン王国から逃げ隠れして皇国に入ったかつての記憶は、不都合な部分に黒塗りをし、『素敵な旅の思い出』というタイトルをつけて心の引き出しに大切に仕舞ってある。
さすがにこれからの季節は必要だからと、ズボンも新たに作ってくれた。
私は隊商の女性達の中で一番細いから、当たり前だけれどズボンも細い。
それから最後に、ブーツ。
私達が今いるここは、ロラン王国のすぐ北に位置するベレニス王国だ。
メラニーさんの王様の国で、少し前から滞在している。
ベレニスの王様はロラン国王からの「魔女を引き渡せ」という要求に、「行方不明だから無理」としらを切っているものだから、メラニーさんは挨拶に行くわけにいかないと残念がっていた。
でも王宮から使者の人が目立たないよう単独で会いに来て、隊商のみんな(点)に対する歓迎の言葉を伝えてくれた。
そのおかげで、メラニーさんも隊商の一員としてお礼の伝言をお願いできたから、挨拶できないモヤモヤをだいぶ解消できたみたいだ。
そんな、なんだかいい感じの王様が統治するベレニス王国は、革製品がとても有名。
この国に入ってすぐ、アロイスは靴職人に私のブーツを注文してくれた。
最初に履いていたブーツは、かかとや底の部分が摩耗し、側面もくたびれていたので完全に解体された。
その一部は新しいブーツに使われている。
異なる色の革を組み合わせ、部分的に花模様を入れたブーツは、見た目も履き心地も素晴らしかった。
「どうですかね、セレ様」
「とっても歩きやすいですわ!」
「はは、そいつぁよかった! よくお似合いでさ」
靴は高価で、庶民は頻繁に買い替えができず、同じ靴をずっと履き続ける――以前の私はそう思っていた。
でもいざ彼らの生活に飛び込んで、これは正しいけれど認識が足りなかったとわかった。
旅人は靴をどうしているのかという点にまで、考えが及んでいなかったのだ。
前世の世界よりも靴の耐久性が低いのに、徒歩で旅をする人達が大勢いる。
馬車で移動する隊商の皆ですら、歩く頻度と距離は比較にならないぐらい多くて、私の感覚ではとんでもなく早く靴が傷む。
だから街道沿いの町には、靴の修理を専門とする職人の店が必ずあり、ほとんどの旅人はそこで直しを依頼するのだ。
ぎりぎりまで使い、これは直しようがないという段階に至って、ようやく買い替える。
私達の場合、隊商の中に靴直し職人の仲間がいるから、洗浄や修理をいつでも頼むことができた。
ただしその人でも、ちゃんとした靴を新たに仕立てることはできないと言っていた。
『長持ちする良い靴を作りたけりゃ、工房がなきゃ作れねぇのよ。俺っちが作ろうと思ったら、その場しのぎの簡単なやつになるぜ』
画家と絵の修復家は別物、みたいな感じだろうか。
素人には混同されやすいけれど、製作と修理とでは全然違う技術がいる職人なので、靴職人が修理もできるとは限らないと聞いて目からうろこが落ちた。
――そう思いますと、前世のあの履き物、実に合理的でしたのね。
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藁は安い。
靴より早くボロボロになっても、軽くて荷物にならないから、予備を持って旅ができる。
なんなら旅人が自力で編める。
でも革靴の文化が定着しているこの世界では、もし提案したとしても採用されないだろう。
仮に広まったとしても、今度は靴職人や修理職人の仕事が減ってしまう。
お礼を伝えたら、職人さん達は私よりも嬉しそうに喜んでくれた。
あの顔を曇らせたくはないと思うし、靴文化があるからこそ、将来的にスニーカーが発明されるかもしれないのだ。
――合理的という理由だけで、安易に広めるのは考え物ですわね。
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