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聖女達の反逆
225. 一回限りの回復券
「こちらからちまちま訪問するよりも、あちらから来てもらって魔法をかけたほうが無駄がないでしょう?」
この国では顔の広いメラニーさんがそう言って、知る限りの治癒師さん達に連絡を取ってくれた。
魔術で作った鳥に簡単な手紙を持たせ、一気に複数の相手に送るという方法だ。
ミュリエルと違って単なる魔力の塊だから、当然ながら自我や知恵はなく、臨機応変に動くことはできない。
さらに魔力は片道分だけだから、届けたらその時点で消滅する。つまり往復はできないというデメリットがある。
その代わり、途中で妨害が入った時は手紙を燃やして、証拠隠滅ができるという利点もあった。
さらにメラニーさんの発案で、送った手紙はそれ自体が誓約書であり、利用券のような意味を持つものにした。
その手紙を持ってきてくれた人には、私が一回限りで解毒魔法と健康祈願の祈りを唱える。
もし治癒師以外の人にそれを話してしまったら無効になり、治癒師以外の人がそれを持ってきても無効になる。
私達は町や村ではなく、その外の草原でテントを張っていた。
もしこの話がほかの民の耳に入ったら、大勢の人々がここに押し寄せる事態になりかねない。
だから治癒師限定ということで、騒ぎにならないようにこういう形にするのだ。
その点は手紙にも書き、相手の治癒師さんにも理解を求めた。
「これなら大丈夫よ、みんな魔法使いだからきっちり守ってくれるわ。勝手に手順を破ったり決まりを曲げたりしたら台無しになっちゃうこと、魔法にはたくさんあるのよぉ」
彼女の意見を取り入れたことが功を奏し、無数の民が「早く自分のことも治してくれ」と騒ぎながらテントをぞろりと取り囲むことにはならなかった。
手紙を送った翌日にはちらほらと治癒師さんが姿を見せるようになり、私は何の負担もなく彼らに魔法をかけてゆく。
バラバラの場所に住んでいる治癒師さんをひとりひとり訪ねても、たまたま用事で留守をしている可能性だってあるから、向こうから来てもらったほうが確かに効率がいい。
「ありがたき幸せにございます、セレ様……!」
「何やら身体が軽くなったような気がいたします。これで安心して仕事に励めるというものです」
「い、いいえ。皆様のご気分が安らかになればと、そう思い付いただけですのよ。そのように感謝されますと心苦しいですわ」
健康祈願がどこまで効果あるかわかりませんので、あんまり過信しないでくださいね! 風邪引く時は引きますから!
と、しっかり念を押しておいた。
そんな人はいないと思いたいけれど、「俺には祈りの力があるから大丈夫だぜ!」なんて気を大きくして、寒い日にわざと薄着でうろつく人が出たら困る。
身体が軽くなった気がするという点については、あながち思い込みによる暗示効果とは言い切れなかった。
既に風邪を引きかけていそうな人もいたので、解毒魔法による効果が実際に出ていたんだろうと思う。
やはり季節の変わり目は患者の数が増え、その人達を診る治癒師さんが風邪をもらうというのはよくあることみたいだ。
「順調ですね、セレ様」
「ええ、ジゼル。メラニー様のご意見通りにしてよかったですわ」
私とジゼルがほのぼのと喋っていると、アロイスが意味深な笑みを浮かべて呟いた。
「身体の弱っている者から、瘴気の影響を受けちまうからな。風邪が流行らずに済んだら、俺達もやりやすくなる。……この様子なら、秋が終わる前に始められそうだな」
こちらを見下ろす彼の目を見上げ、私も笑みを浮かべて頷いた。
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