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聖女達の反逆
260. 人としてダメな人達
「リリという娘の救出には、エタンとリュカ、コルネイユ殿に行ってもらう」
翌日、昼食の席でアロイスが教えてくれた。
隊商の中で一番腕の立つエタン、とにかく危険に対して勘が働くリュカ、それから王宮内部に詳しいコルネイユさん――この三人が一番いいだろうと意見がまとまったみたいだ。
「コルネイユ隊は腕の立つ奴ばかりだが、そいつらにはあんたの護衛をしといてもらいたいからな」
アロイスは私を見ながらそう付け加えた。
彼が警戒しているのは、逆にロラン王国からも私を拉致するための人が送り込まれるかもしれないという、それだけではない。
私のもとに訪れた治癒師さんの中に、たまに問題のある人が含まれていたからだ。
魔法使いは貴族やお金持ちの家のお抱えが多い。
それでもほとんどの人は『他言無用』の約束を守り、主人から一時的にお休みをもらうか、何らかの用事を言い訳にして来てくれた人ばかりだった。
ところが中には雇用先での評価を上げるため、「聖女の祈りをお譲りします」みたいなことを言い、自分の主人を連れて来てしまう人がいたのだ。
そして今朝もそんな人達が来て、ちょっと面倒な騒ぎになった。
『このワシがわざわざ足を運んでやったというに、祈ってくださらんだと!? 話が違うではないか!』
『そのようなことをわたくしに申されましても……わたくしこそ、約束が違うとしか』
『あなた、セレ様にここから先は近付かないでください。そこの従者、一歩でも動いたら斬るよ!?』
『ひえっ!?』
『あんた魔法使いの面汚しね! あんたみたいなのがいるせいで、あたし達みんなの信用が損なわれちゃうじゃないの!』
『な、なにを偉そうに……聖女様、わたくしは身体の不調などございません。どうかわたくしではなく、我が主人に解毒魔法と健康と繁栄の祈りをお願いいたします。ほかの者には内緒で特別に……いたたたッ!?』
『そこから先は近付くなっつってんだろ。なんでてめぇらだけが特別に許してもらえると思ってんだ』
『アロイス様!』
私にすり寄ってこようとした治癒師の腕を、アロイスが背後からひねり上げ、それを皮切りにコルネイユ隊がその人達を拘束してくれた。
一応は『私が』招待したことになっている人達だし、会話で解決するなら様子を見ようと思っていたところ、ジゼルとメラニーさんが臨戦態勢になったからすぐに動いてくれたみたいだ。
最終的にベレニス王国の王宮から使いの人が駆け付けて、その治癒師と主人の一行を厳重注意し、やっと帰ってくれたんだけれど……あれのせいで私の魔法の件が周辺の民に知れ渡ってしまい、私達は急いで場所を移動しないといけなくなった。
怒り狂ったメラニーさんが速攻で魔法の鳥を飛ばしまくり、例の治癒師の所業を知人に広めまくったから、彼は今後、魔法使いとして最低の評価が定着することになるだろう。
――結果的にわたくしが移動することになったせいで、予定ギリギリになって引き返した方がいらっしゃるみたいなのよね……申し訳ないことですわ……!
その人達の恨みは漏れなく、約束破りをした治癒師に集中しているそうだ。
彼らの怒りがこちらに向かなくてよかったと思う一方で、せっかく来てくれたのに何もできなかった事実が悔しいし腹が立つ。
ともかくそういうことがあったから、リリ救出メンバーはコルネイユ隊から選ぶのではなく、隊商の人間をほぼメインにしたわけだ。
実際に潜入するのは三人でも、逃亡時のサポートのために周囲に潜んでおく人が数名いて、そちらは全員が隊商の仲間達。
コルネイユさんは王子の護衛隊長だったから、王宮内部について詳しい。
ただし大神殿の内部については知らないから、それは私が思い出せる限り詳しく伝えた。
具体的にどこをどう通るかという話に進みかけた頃、ミュリエルが戻ってきた。
「タダイマ~! キョウモ、カイテキ! ビューン!」
最近のロラン王国は夜間飛行でなくとも危険がなくなり、ミュリエルが行き来しやすくなっている。
アロイスがミュリエルを褒めながら小さな荷物入れを探ると、中には返信用の巻物が入っていた。
くるりとひらいて、彼の唇に笑みが浮かぶ。
「あんたに返事だ」
「わたくしに?」
私も自分の口元がほころぶのを感じながら、巻物を受け取った。
『セレスティーヌへ』
可愛らしい丸文字で書かれた冒頭の文に、ますます楽しい気分になる。
そこには、すっかり本性を隠さなくなった素のままのリリの言葉が書き連ねられていた。
――まあ、リリ様ったら……『王子は何の障害にもならないから全然気にしなくていいわよ、通り道にいたらやかましそうだから眠らせたほうがいい程度ね』ですって。ありありと想像できますわぁ。
リリの筆跡なのか、『ルリ』の筆跡なのかはわからないけれど、丸文字と内容の落差が激しい。
ついフフフと笑ってしまいながら読み進めていくと、ある一文で私の顔が引きつった。
「どうした?」
いきなり私の表情が変わって驚いたのだろう、アロイスが心配そうに声をかけてきた。
「アロイス様。あの……リリ様が仰るには、わたくしの……」
「おまえの?」
「……わたくしの髪の毛が、大神殿で、保管されているそうですの……とっても大事そうに」
「髪の毛?」
アロイスはその光景を想像したのか、自分の髪を触りながらものすごく嫌そうに眉根を寄せた。
うん。何の目的でっていうことよりも、純粋に気持ち悪いよね。
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