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エセ聖女、逃げる
24. 闇の中、ともに焚火を囲む
しおりを挟むシンプルなスープの中に、細かく切ってもらった硬いパンと刻んだ干し肉をつける。
熱いスープでひたひたにして、少しだけ冷めたら食べ頃だ。
このところ同じ食事ばかりだけれど、空腹という最高の調味料のおかげで、今夜も美味しく食べられた。
前世の記憶が生えたせいで栄養バランスが気になるものの、考えてみればこのパン自体がギッシリ目の詰まった重いパンで、しかも砕いた木の実も入っている。
長旅の多い隊商の人々は、目に見えない『栄養』の重要性を意外と認識しているようで、今回のスープにも摘んだ野草が入っていた。
箱の中でおとなしく座っている時間が長かったので、布団の上で固まった身体をまっすぐに伸ばしていると、エタンが私を呼びに来た。
「セレ様、歩けるか? もし来られるなら頭領が今後の話をしたいそうだ」
「わかりましたわ。少々お待ちになって」
上半身を起こし、ジゼルが私に靴を履かせようとするのを断って、自分で履いた。
エディットの薬がいいのか、あざの色がだいぶ引いていて、痛みももうほとんどないのだ。
すり鉢でごりごり薬草を潰しているエディットに礼を告げ、ジゼルを伴って外に出た。
たくさんのテントが並び、内側から透けて温かい光を放っている。あの明かりは蝋燭か魔石灯か、どちらだろう。
テントの中の人影は静かなものもあれば、賑やかな笑い声を立てているものもある。
昼と夜とでは雰囲気が違って、どこか幻の集落に迷い込んだような錯覚をもたらし、心が子供のように浮き立つ。
エタンは歩幅を小さくして、私が間に合うように歩いてくれていた。
彼のあとをついていくと、そこまで遠くない場所にパチパチとはぜる焚火が見える。
テントが途切れたところに小さな広場のようなスペースがあり、その中央に焚火と、朱く照らされた人の姿が二つあった。
アロイスとヒューゴだ。二人とも土の上に、それぞれ一人分の敷物を置き、あぐらをかいている。
彼らの頭上には小さくきらめく無数の星と、半円の外側の線だけを描いた銀の月。
地上は真っ暗というより真っ黒で、焚火の照らす周辺だけが島のようにも、船の甲板のようにも見えた。
――船上で焚火など有り得ないのでしょうけれど。もしあれが魔石灯であれば、まさにそのような雰囲気ですわね。
こちらから呼びかけるまでもなく、アロイスは私達の接近に気付いて顔を上げた。
「歩けるようになったみたいだな」
「ええ、おかげさまで。エディットからも経過が良好と言っていただけましたの」
「それは重畳だ。ここに座るといい」
アロイスの隣に正方形の敷物が置かれていた。
エタンはさっさとヒューゴの隣に座っているので、アロイスの隣にあるのは最初から私のために準備してくれていたものだとわかる。
しかし、どうやって座ればいいのだろう。
私の服はほぼスカートだから、あぐらをかくわけにいかないのだ。
どう座ってもこれは土がつく……そう思うと、却って気にする必要はない気がしてきた。
敷物から布がたくさんはみ出るわけだが、彼が「座れ」と言ったのだからそうしよう。
それでも遠慮しつつ、裾を気にしながら敷物に腰を下ろす。体育座りとどちらにしようか迷ったものの、結局は横座りにした。
アロイス達が私の葛藤に気付いているのかどうかは、いまいち不明だ。
ジゼルに至っては、敷物すらないのに私の隣へ直座りだし。
「あの、エタン様から今後のお話と伺ったのですけれど」
「俺達に敬称はいらん。現在地がどこで、これからどう進むかという話だ」
アロイスは焚火にかけていた小鍋の取っ手を掴んだ。
近くに脚付きの台があり、その上に茶器が置かれている。
彼が小鍋から茶瓶へ湯をそそぐと、既に茶葉が入っていたようで、ほわりと香ばしい香りが漂う。
さほど蒸らさずに茶瓶から湯呑みへそそぎ、エタンやジゼルがそれを配って、全員の手へお茶が行き渡った。
「炒った穀物と茶葉を合わせた、ウェルディエ皇国の茶だ。身内用だからこちらでは出回っていない」
ニッと笑ってそんなことを言いながら、アロイスは片手で持った湯呑みを傾け、茶をひと口飲んだ。
――身内用……。
彼はそんなに深い意味を込めていないかもしれないけれど、なんだか嬉しくなった。
お茶の色は透明な金色へ、わずかに緑が混ざっている。
私は両手で湯呑みを持ち、猫舌なのでふぅふぅと息を吹きかけながら、ゆっくりとひと口含んだ。
初めて飲むお茶なのに、どこか懐かしい味がした。
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