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目指せ引退生活
40. 比類なく貴重な積荷 (7) -sideアロイス
しおりを挟む背後の馬車で指笛が鳴った。――エタンだ。
直後、奴らめがけて一斉に矢の幕が放たれた。
およそ二十本程度だが、密集した場所だとなかなかに威力がある。
「うわぁっ!?」
「ひっ!?」
――はずだったが、矢は敵に刺さらず表面で弾かれていた。
小動物を狩るための矢で、矢じりは使っていないが、そのせいではない。
防具のない服の箇所で、不自然に弾けたのを見て察した。
守護の魔道具だ。
別に予想外でもない。王子がいるのだから、金にあかせてガチガチに固めてくるだろう。
それに、まったく効果がないわけでもなかった。
矢は急所を避けつつ、王子以外の連中も全体的に狙っていた。神官だけでなく兵士までもが狼狽し、何より馬がびびって、背中の人間を次々と振り落としていった。
「ひぅわぁッ!?」
「で、でんっ……うわあぁっ!」
高貴な主従のお二人も、見事に空中へお飛びあそばされた。
ロラン王国はウェルディエ皇国との停戦以降、どこの国とも小競り合いすら一度もない。
それどころか、都に詰めている正規兵は夜盗の討伐なども一切経験がなかった。
聖女信仰が浸透しているおかげか、この国は盗賊団のたぐいがいない。コソ泥程度ならいても、それは正規兵がどうにかする仕事ではなかった。
つまり王子様の周囲を固めるような兵士どもの中に、泥臭い『賊』相手の実戦経験のある奴なんざ滅多にいないってことだ。
奴らが動揺した隙を逃さず、男達が次々と荷台から飛び出てきた。
皆、身の丈よりやや短い程度の棒を持っている。
芯は木製だが、鋼で覆った特別製だ。
『お高くとまった奴らとやり合う時は、棒を使え』
親父殿の教えであり、たまに会う傭兵も似たようなことを言う。
こういう奴らは大抵、『棒』で対抗しようとする平民を舐めてかかり、労せず油断してくれるのだ。
それに身分の高い者や金持ちは、魔道具で守りを固めていることがあった。
そいつらに刃物は通りにくい。――だが、打撃は効く。
俺も仲間から棒を受け取り、尻餅をついて地面の上をずりずり逃げようとする王子様に躍りかかった。
が、振り下ろそうとした棒は、横から入った人間に受け止められた。
騎士階級の男だ。
実戦慣れした例外のようだな。こいつは馬が暴れ出した直後、制御できないと悟って自分から飛び降りるのが見えた。
周囲の様子を窺いながら、俺と何度も打ち合えるんだから相当な手練れだ。
しかし顔色はよくない。
それもそうだろう。あんた以外の兵士どもは、俺の仲間をまるで圧倒できていないからな。
王国兵は頑丈だが重い防具を装着し、俺達は防具なし。服の下に胸当てを仕込んでいるぐらいだ。
そして王国兵の武器は槍。馬上から威圧することだけを想定していたのは明らかで、接近戦にもつれ込んだ時、よほどの手練れでなくば対処できない。
突き刺そうとしても、相手は身軽なものだからひょいと避けてしまう。
それでも訓練だけは上位に食い込んでいた奴らなのだろう、今やこちらの数が優勢な乱戦となっても、持ちこたえている。
こっちは本職が商人だからなぁ。鍛錬に費やせる時間が、こいつらに比べるとどうしても少ない。
王子と侍従の周りは三人の兵士が守っており、こいつらは特に優秀そうだ。
意外にも神官が動ける。上位神官の奴は裏でコソコソしているが、そいつを守っている下位神官が強く、あちらも棒で応戦していた。
あいつらを先にやったほうがいい。俺達が見つかったのは、間違いなく奴らが何かしたんだ。
誰か……いや、今はまだ手の空いていそうな者がいない。
揺さぶりをかけるか。
「さっきは偉そうなことを言っときなら、いざとなれば下の者に戦わせといて自分はのんびり観戦か! 腰抜け王子!」
打ち合いを続けながら、俺は嘲笑した。
この周囲にいる全員の耳へ届くように。
「なっ、なんだと」
「殿下、耳を貸しては……」
そうそう、下の者に戦わせるのが正しいのさ。王子は盾の前に出てきちゃいけない。
だがこの王子様は、侮辱にあっさり乗ってきた。
「この私を腰抜けだと? 賊め! 私は王子として、自ら我が国の至宝を奪還に来たのだ!」
俺と打ち合っている男が嫌そうな顔をしているが、はて、自国の王子を挑発する俺に腹を立てているのか、簡単に乗ってしまう王子に腹を立てているのか、どちらだろう。
――まだまだこれからだぞ?
「奪還だ!? 購入の間違いだろ! 用済みになれば聖女を消すつもりでいやがったくせに、お綺麗な言い回しだな!! ほら吹き王子!!」
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