聖女転生? だが断る

日村透

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目指せ引退生活

43. ネガティブな思考の撃退法

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 不甲斐ない。どうして熱なんて出してしまったのだろう?
 最初に左足、次に右足と、まさかの両足捻挫ねんざという醜態をさらしただけでは飽き足らず、発熱で出発を延期させてしまうなんて。
 おまけに、結局は全然下がらなかった。

 こんなに長く熱を出したことなんてなかったのに。
 微熱程度ならいくらでもあるけれど、これほど高い熱は初めてだった。
 どうしてこんな時に限って?

 エディットの馬車に寝かされた時、なんとかアロイスに謝りたかったのに、彼と全然視線が合わない。
 呼びかけようとしたら、エディットに無理は禁物だよと止められてしまった。

「人里も関所もしばらくないんだから、足伸ばして寝てたって問題ないさね。いつもの箱は窮屈だろ?」

 ……エディットは誤解している。
 私あの箱、結構気に入っているんです……。
 すごく身体が安定するし、中に詰めているクッションが人をダメにするソファ様式でして……なんてこんな状況では言えない。

 熱以上の罪悪感に苛まれながら、馬車が進むのを感じていた。
 私の看病をしてくれているエディットやジゼルは、乗り物酔いをしてしまわないだろうか。
 この馬車はもともと病人を寝かせられるように荷物の配置を考えているみたいで、だから問題なしと言ってくれたけれど。
 エディットは御者席が好きだと聞いていたのに、私のせいで移動中の仕事を増やしてしまっている。

 それに肝心の魔力が、熱を出し始めてからずっと無駄に流れ落ちていて、全然魔法を使えなかった。
 そのせいで解毒魔法は使えず、浄化魔法だって使えない。
 どうして私はこんなに役立たずなの。
 どうして私はこんなにも、何もできないの。
 迷惑をかけてばかり。本当はどこにも行かずに、戻ってしまったほうがいいんじゃ……

 ――いいえ、ダメですわ。それこそ、ここまで連れて来てくださった皆様に失礼ではないの?

 前世の私の個人的な経験上、風邪を引いた時たまに陥る「何もかも自分がダメだったんじゃ」は、大抵間違っているから信用したらいけない。
 エディットやジゼルだって、世話をしている相手が「どうせ私なんて」とネガティブのどん底にいたら、すごくやりにくいだろう。
 でも、だったら、どうすればいいの……?

 ――食べる! 寝る! 回復する! 以上!

 やまいは気から。
 心を健康にすれば身体も健康になるとは断言できない。
 が、心が不健康なら身体も高確率で不健康になるのだ。
 ぐちぐちと後ろ向きなことしか考えないのなら、考えること自体をすっぱりやめるか、強引にでもお気楽なことを考えるのがいい。

 たとえば、あのイケメンぶった蛍光色王子に、どんなヘアスタイルをさせてあげれば恥ずかしい思いをさせられるか、とか。
 あ、これいいかも。
 いくら『光の王子』が二つ名だからといって、蛍光イエローゴールドの髪に蛍光ライトブルーの瞳なんて、光り輝きすぎでしてよ。
 昔は「なんて眩しい御方」と思うだけでしたけれど、眩しすぎて長く見つめていると眼精疲労になりそうですわ。

 その後はずっとそんな風に、楽しい想像で頭を一杯にしていたのだけれど、やがて奇妙なことに気付いた。
 これだけ楽しい想像を膨らませても、最終的にはこの思考に行きつくのだ。

『やっぱり私みたいな何もできない役立たずは、戻ったほうがいいのでは』

 ――先ほどオーギュスト殿下の御髪おぐしに、とっても愛らしいおリボンを結んで差しあげたばかりですのに、何故そうなるんですの? おかしいですわ。

 まさか……?
 ぐらぐらする頭で、やっと自分の本当の異変を察知する。
 けれどその頃にはもうすぐ夕暮れになろうかという時刻で、後方の馬車から指笛の音が聞こえた。
 この馬車はしばらくそのまま進んでいたけれど、二度目の指笛が鳴らされ、どうやらすべての馬車が止まることになったようだ。

 エディットとジゼルが、普段よりもひりついた気配を纏っている。
 隊商の人々が何人も後方へ駆けてゆく足音がして、やがて聞き慣れた人物の声が響き渡った。


「私はオーギュスト。このロラン王国の王子である」


 王子!? なんであいつがここにいるの!?
 アロイスは自分の隊商が疑われるのは最後のほうだろうと言い、私もそうなるだろうと思っていた。
 どうせ姫君を救出するご立派な王子様を演じようとしているのだろうけれど、どうして私の居場所がここだと――
 私はハッとして上半身を起こした。

「セレ様?」
「ジゼル、ごめん、なさい。少し、背もたれになって、いただける……?」

 彼女のおかげで身体を起こすのが楽になり、片方の足首に両手を当てた。
 そしてそこに、手の平から魔力を注ぎ込むイメージをする。

「……やっぱり、ですわ。なんてこと……!」

 送り込んだ魔力は、足の中にある何かに吸収された。


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