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断るためのパワー
57. 今さらだけど今後のお話
しおりを挟む進むごとに草や樹木が少なくなり、前方に見える岩山がどんどん近くなってきた。
このあたりに生えているのは、実をつけない低木ばかり。
けれど瘴気の発生を予感していた動物が逃げていたせいか、これまでの道程では、私達の食料になる草や実がほぼ残っていた。
それ以外にも皆は川魚を釣ったり野鳥を獲ったりしていたので、店の一件すらない荒れ地なのに、隊商の荷馬車には充分な食べ物が詰まっている。
アロイスが前にも言っていたけれど、標高が少しばかり高くなってきたみたいだ。
気のせいではなく徐々に肌寒くなってきたので、羽織を一枚肩に追加し、それから左右に耳のような布の垂れた帽子をかぶせてもらった。
結構あたたかい。
昼の休憩で馬車が停まり、アロイスに声をかけた。
「アロイス様。今後のことなのですけれど、二人でお話させていただきたいことがありますの。よろしいかしら?」
なかなか暇そうなタイミングが掴めないので、もういっそ本人に直接言うことにした。
隊商の人々は全員が戦力であり、頭領のアロイスもその一人だった。彼が普段まったりしているように見える時でも、これからの忙しさに備えているということが多々あるのだ。
「あたしらが聞いたらダメなお話ですか?」
「ごめんなさいね、ジゼル」
「わかりました! じゃあ頭領にお任せしますんで、何かあったらすぐに呼んでくださいね!」
「んじゃ、俺らはあっち行っときます」
部下が頭領にお任せするというのも変な話だけれど、ジゼルとリュカは言葉通り、あっさりと向こうに行ってしまった。
休憩用のテントを張りかけている人々が見えるので、彼らの手伝いをするのだろう。
アロイスは私を片手で軽々と抱き上げ、もう片方の手で敷物を掴むと、体重を感じない動きで馬車から降りた。
しかも横着してステップを踏まず、ふわりとジャンプした。さほど高くはないのだろうけれど、着地の衝撃が全然こなくてびっくりする。
膝がとても柔軟で、それから身体全体が強靭なのだ。私を抱えた状態でそれができるのだから、素人目でもすごいとわかる。
彼は片手に持っていた敷物を、馬車の脇にある切り株の上に敷いた。
寂れた道のすぐ近くにあり、誰かが邪魔だから切り倒したのか、薪が尽きて切り倒したのかはわからない。
古い切り株だから、ささくれがたくさんありそうで、直に座らないほうがいいのだろう。
「で、話って?」
「…………」
てっきり私をそこに置くのかと思いきや、彼は自分の腰を下ろした。
私は彼の膝の上だ。
……いえ、いいんです。
前世から数えてもこういうのに免疫がまったくないなりに、最近ではお姫様抱っこにも慣れ…………ては、いないけれど、そのうち慣れるでしょう、多分。
彼の前では床下でゾンビ状態になっていたり、両足捻挫ののち高熱でぐったりしていたり、今は両足の傷がまだ新しくて完治には遠かったりと、そんな姿しか見せていない。
ものすごくひ弱そうな人にしか見えないだろうから、きっとものすごく気遣わせてしまっているのだ。
――思い返すとホントに酷いですわね、わたくしの状態?
なんだか、身体面での受難の相でも出ているんじゃなかろうかという気がしてきた。
健康祈願をしたほうがいい?
交通安全のお祈りのほうが効果あるかな?
どこかにお守りやお札は売っていないかしら。
「どうした? 言いにくいことか?」
「あ、いえ、失礼いたしましたわ。これから難所を越えようという時ですのに、気が早いと思われるかもしれないのですけれど、皇国に着いたあとのことですの。先日も少々お話をしましたけれど、アロイス様は、わたくしが聖女を続けるつもりであるとお考えだったのでしょう?」
「……まあな。ロランの王宮や大神殿のやり方に相当キているのはわかったが、聖女自体は継続するのかと思ってはいた」
ああ、やっぱり!
ちゃんと最初に説明しておかなかったからだ。
「申し訳ございません! わたくしの言葉が足りておりませんでしたわね。もしやそのせいで、皆様に無理をさせてしまったのではありませんかしら?」
「無理というと、先日のあれか? 王子との」
「はい。わたくしが『聖女』だから……ゆえに貴重であるから、守らねばと。ご無理をなさったのではないかと……」
言いながら落ち込んできた。
せっかく命をかけて守った相手に、ホントはそこまでしなくてよかったんですよ、自分聖女やめる気ですんで! なんて言われたら腹が立つのではないだろうか?
私なら「もっと早くそれ言ってよ!?」と文句を言いたくなる。
けれどアロイスは、私の頭……正確には帽子の上にポンと手の平を置いた。
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