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未知の瘴気
134. その頃、ロラン王国では (2) -side招待客
しおりを挟むオーギュスト王子と異世界の乙女リリの結婚式は、あくまでも表向き、ぎりぎり、つつがなく終了した。
そして結婚と同時に十八の誕生日を迎えるオーギュスト王子は、正式に王太子としても認められた。
ほかに候補となる王子が存在しないのだから、これはごく自然な――言い換えれば仕方のない流れだった。
通常であれば王太子夫妻が民の前に姿を披露し、国王と立太子したばかりの王子による演説が行われるものだが、綺麗にカットされていた。
民衆の感情に多少は敏感になっており、過去の結婚式より巻いて早めに終わらせようとしたのだと、招待客達は肌で感じ取っていた。
(民を気にするのはよいが、我らの感情も忘れられては困るな)
式の次はパーティーだ。全員が王宮の大広間に集められ、新たな夫婦が他国の重鎮と交流を深めるという名目があるにもかかわらず、国王夫妻も王太子夫妻も上段の自席に腰を据えたきり、一向に下段へは下りてこない。
国王一家が広間に歩み出ない以上、誰も気安く会話をすることなどできないのだ。
客人達は列に並び、型通りの祝いの言葉を告げ、「ハイ次」とばかりに移動させられる。そんな光景が繰り返されていた。
国外からの招待客は、王の名代として訪れた王族や、外交官の貴族ばかり。
十八の誕生日を迎えると同時に王太子になったオーギュスト王子より身分的に上回る者がおらず、こちらから話しかけることはできない。
さらに料理が供されることになったが、完全に国と身分による席順を決められたテーブル席であり、自由に移動することができなかった。
これはパーティーではなく、ただの厳格な食事会だ。
こういった食事会のみで済ませるところは、他国にも無いでもない。
だが、この国の王族の結婚式では、これまでになかった。
さらに客人達は食事会の前に、奇妙な指示を聞かされていた。女神エステルのお告げにより、聖女リリとの婚姻の場において、国王一家は言葉を発してはならないというものだ。
よって、王太子夫妻からは、誰に対しても話しかけることはない。
――そんな奇妙な話があるか、と誰もが胸中でせせら嗤った。
(余計な口を利くなと、ロラン王に指示されているのであろうな)
(問い詰められては困ることが山とあるのだろうよ)
うっすら化粧で誤魔化しているが、オーギュスト王子は顔色悪く、せっかくの美貌がくすんでいる。
王太子妃になった新たな聖女リリとやらは、上手におとなしく健気な少女を演じているものの、せっかくの名演技がゴテゴテの衣装で台無しだ。
調子に乗って注文をつけまくったリリは、自分のドレスをデコレーションしすぎた自覚がない。
多少のやりすぎでも受け入れられる寛容さのあった元の世界と異なり、この世界のファッションは保守的で、奇抜なものが受け入れられにくかった。
つまり新たな聖女リリは、ひとことも喋らずして『けばけばしいセンスの持ち主』であり、『おとなしそうな顔をして実は聖女セレスティーヌを蹴落としたのではないか』と来賓の全員に印象付けてしまったのである。
唯一リリを注意できる立場にあったはずの王妃は、そもそも注意というものをしない・できない女性だった。おまけにリリが一時本性を表して大暴れしていたため、「あの娘は怖い」と近付かないようにしていたのだ。
人々の視線から、新王太子妃に向かう嘲笑をうっすら感じつつ、浮かない顔でおろおろするばかりで何もしない。
結局は何も気付かなかったふりをして、今日も理想的な妻、理想的な母親の顔で微笑むことに終始した。
(これで我らをやり過ごせたつもりか? そちらがそのつもりなら、こちらにもやりようはある)
口火を切ったのは、ロラン王国の北に接する王国の外交官だった。
国同士が接しているため、最も聖女の恩恵を受けているように見えて、実は最も煮え湯を飲まされてきた国と言える。
「皆様、ご存知ですかな? つい最近小耳に挟んだのですが、かの大国ウェルディエ皇国にて、白き髪と翡翠の瞳を持つ、実に美しい娘が保護されたそうですぞ」
国王一家と聖女リリ、大神官がぎょっと目を剥き、外交官に強い視線をそそいだ。
が、外交官は素知らぬふりで食事とお喋りを続ける。――話しかけるなと釘を刺されたから、自分と同じその他来賓の方々へ向けて『お喋り』をしているのだ。
その意図を瞬時に察した人々が、似たような陰湿な目で――表面上は楽しげに――お喋りに乗った。
「わたくしもその乙女の話は小耳に挟みました。なんでも素晴らしい魔法の才を持つがため囚われの身となり、朝から晩までこき使われ、命からがら逃げ出してウェルディエ皇国に助けを求められたとか」
「つい先日ウェルディエ皇国の皇帝が、麗しの乙女の後ろ盾になることを宣言したと聞き及びます。あの話は事実だったのですな」
ぎりぎりと歯ぎしりの音や、カトラリーがかしゃんと落ちる音なども聞こえてくるが、客人達は聞こえなかったふりを続行した。
「そういえば、これもご存じでしょうか? この都から東の方角の空の色が、変わっておるそうです」
「ああ、わたくしもその報告を受けております。というのも我が国の端からは、かの大瘴気群がチラと見えておったのですが、ある日を境に綺麗さっぱり消えたとか。その時期がどうも、例の乙女の出奔と同時期――」
がしゃん、とひときわ大きな音がした。
さすがに知らぬふりはできず、全員の視線が王族席に向けられる。
血走った目をますます血走らせ、愕然とした表情の国王が、テーブルに両手を突いて立っていた。
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