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蜘蛛の処刑台
127. 断罪と収穫の輪舞 -sideフェランド (1)
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前回から引き続き……。
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黒く焦げた男は怖気を催す声で嗤った。
『これまでざんざ、他人を贄にしてオイシくやってたんだろぉ? いやぁ、わかるぜ。自分だけ楽しくやれりゃぁ、てめぇらの代わりに誰の屍がどこにどんだけ転がってようが、これっぽっちも関係ねぇわナ。けけけけ』
「な、なにを、言っている?」
『―――たまにゃあ、てめぇらのやったツケを、てめぇら自身で払いやがれってこったよ』
もわり、と黒い煙を吐きながら、焦げた男の声の調子が変わった。
意外にもその煙自体に臭いはなかったが、強烈な忌避感にウッと息を詰める。
先ほどまでのぎこちない木偶人形のごとき動作が嘘のように、男はぬぅん、と立ち上がった。背丈が急激に変わったわけではないのに、天井を突き抜けるほど巨大に見えた。
『すげぇよなあ、滅多に無いコトだぜぇ? 覚悟のねぇ半端モンじゃぁ、他人の契約に異議ぶちかまずなんざ不可能だからな。しかも変更の対価に全部あてても、なお余るぐらいの大収穫になるんだってよォ!』
「な、な……?」
『てめぇはこれから鎖かけられて、広場まで引きずられてって、ごつい斧で首を落とされンだよ! おら、想像してみろよ。広場にゃ、てめぇらが豪華なメシを山ほど食い残してる間に、てめぇらの愉快な人生のための代償にされた奴らがごまんと待ち構えてくれてるんだぜ! あんまり歓声がすげえと、処刑人の手元が狂っちまうかもしんねぇなァ! 失敗したらさぞかし苦しいだろうなァ! ゲタゲタゲタ!』
何を言っている。何のことだ。理解できない。きさまは先ほどから、何を言っているのだ。―――まともな声にならず、口からはハクハクと無意味な空気しか出なかった。
『おっと……時間だ』
じゃらり、と音が立った。先ほどまで何もなかった男の手に、太い鎖が握られている。
その先は、私に繋がっていた。私の首と、両手両足に、それぞれ一本ずつ鎖が巻きついている。
「なんっ……うがっ!?」
『さぁて、行くぜぇ~』
黒い男は散歩にでも行きそうな口調で、がっ、と鎖を引いた。
転倒し、そのまま石床を引きずられ、打ち付けた痛みと首が絞まる苦しさにもがく。
ギイ、と扉が勝手に開き、檻の外までズルズル引きずられていった。男の進む先の廊下は壁の蝋燭が勝手に灯り、やがて石段の手前で松明に変わった。
「うぐっ、うっ、ぐぁっ……!」
『フフンフン~♪』
立ち上がろうとしても足の鎖が絡みつき、首に体重がかかった状態で階段を引きずり上げられてゆく。
石の階段が身体を打ち付け、痛みにもがこうと男は止まらない。引きずっているものはただの人形とでも言わんばかりに無雑作に、鼻歌を歌いながら悲鳴を聞き流して階段をのぼっていった。
いや―――聞き流しているのではなく、好んで聞いているのか
止めようにも喉が絞まり、まともな言語にならなかった。
鳥の鳴き声がどんどんやかましくなってくる。外が近い。
ギイイ、と引っかく音を立てて鋼鉄の扉が開き、まぶしいほどの光が飛び込んできた。
途端、どおおっ! と何かを叩きつける轟音。
違う。これは歓声だ。
扉が開いた瞬間、ずっと遮断されていた歓声が聞こえるようになったのだ。
びりびりと響くほどに巨大な歓声が。
『ひっはっは♪ お集まりだ! ほぉら愉しみな、おまえさんのお馴染みの顔、懐かしの顔、たっぷりあるぜぇ!』
顔? 誰の顔だと?
苦痛に耐えながら目をひらき、飛び込んできた光景に絶句した。
男が磔にされている。両手両足を鎖で巻かれ、周りにはこの男と同じ、黒い人型の何かがグルグルと踊りながら回っていた。
「違う! 俺のせいじゃねえ! 俺は命じられただけなんだ! 全部全部、フェランドが俺に命じたから殺ったんだ! 逆らえなかっただけなんだ! 俺のせいじゃねえ! 俺は、俺はぁぁっ!」
忠実で、よく使える料理人。その男の前に、ナイフを持った黒い人型が近付き、下腹に―――……。
絶叫と同時に鎖が絞まり、窒息と引きずられる苦痛に目を閉じながら、首もとを引っ掻いた。
だが次に耳へ飛び込んだ声を無視できず、再び見開く。
別の男が磔になっていた。記憶にない顔だ。
……いや。どこかで……
……お祖父様……?
母上の父。私にたくさんの『遊び』を教えてくれた、面白いが浅はかで、父上にも兄上にも毛嫌いされていた、侯爵の……。
まさか。とうに亡くなったはずだ。
『そうだぜぇ?』
私に鎖をかけた男は、よく見ろと言わんばかりに足を止めてニタリと嗤った。
記憶にあるのは、五十そこそこのお祖父様の顔。
それよりも若い……今の私と同い年ぐらいか?
「い、いいや、まち、まちたまえ、ほら、楽しかったのは、私だけではないよ? 娘達も、楽しんでいたのだから……」
『ざけんじゃねえ! てめぇが宴の余興で慰みものにしやがったせいで、俺の娘は首吊ったんだ!』
『あたしをあんたの借金のカタにしといてよくも言ってくれたわね、この外道!』
『おまえが遊び狂ってやがったせいで、おまえの息子が俺んちの家と畑をとりあげて売っ払ったんだよ!』
『おまえのおかげで一家全員、土くれ齧りながら死んじまったわ!』
「な、何を言うのかね、それは私がやったことではなかろう? ほら、そういうのはぜんぶ息子と使用人がやったんだ、私のせいではない。私のせいではないとも。私はただ、楽しく……」
『ふざけんなァァッ!!』
『この野郎がァァッ!!』
「ひいいいッ!? こ、こここはどこかねっ!? 私を、私を解放しなさい、私を誰だと思っている、この私にこんなことをしていいと思っているのかね、私は悪くない、私は、私はぁぁっ」
絶叫。
―――これは何だ。
広大な広場に、無数の磔。
あの顔も、あの顔も、あの顔も、憶えがある。知っている顔だ。直接交流はなくとも、顔と名を知っている者もいる。
私の旧き友人達。友人達のそのまた友人。私にとても協力的な者。私と気が合い、話の合う知人。
柱へくくりつけられた彼らの周りに、人型の何かがむらがり、罵倒し、手に手に武器や棒を持っている。切り刻み、貫き、打ちつけ―――さらにその周囲を、同じような人型の何かが、ぐるぐると回りながら踊り狂っていた。
どぉん、どぉん、と太鼓の音。奇怪な笑い声と囃し立てる声。
絶叫。哀願の声。絶叫。―――ああ、これは鳥ではない。鳥ではなかった。
広場にはまだ誰もくくりつけていない柱が立ち並び、私と同じように鎖で繋がれ、引きずられてゆく者を待ち構えていた。
見渡す限りの刑場。その最も外側、すべてを取り囲み、巨大な輪を描いて踊る異様な怪物達がいる。
大地を震わせるほどの歓声。
形だけは人を模しているが、これらが人であるものか。
化け物だ。
『ひひひっ。てめぇ他人のこと言えると思ってんのかぁ? てめぇのせいでどんだけの奴らが一度死んだと思ってやがんだ。それをぜぇんぶ上のガキのせいにして、後片付けはぜぇんぶ下のガキに押し付けやがってよう。そんで自分だけは今まで通り、優雅にお上品に酒飲んでパーティーやってお友達とゲーム三昧ときた……俺っちだってそこまではやんなかったぜ~?』
……なんだと? 何のことだ?
『上のガキが止めなきゃ、今回のおまえもソレをやるとこだったンだよ。つってもま、わっかんねぇかぁ。―――おら見な、あそこがてめぇの大舞台だぜ。いっちばん目立つところが大好きなんだろォ? 喜べ! ゲハハハハ!』
ぽっかりとあいた空間に、周囲より高くしつらえられた台。
それが何と呼ぶのかを瞬時に悟り、鎖を外して逃げようとした。
だがどうやって絡みついているのかまったく解けず、黒い男は哄笑をあげながらそれを引き、再び歩き始めた。
ズルズル地べたを引きずられながら、場違いな鼻歌と、歓声、甲高い鳥の鳴き声だけが耳に入ってくる。
何故私が。
ここはどこだ。
これが現実のわけがない。
これはきっと夢だ。何故私はこのようなふざけた悪夢を見ているのだろう。そうだ、あの檻だ。この私をあのような薄汚れた牢に入れおって。冷たい床、硬い寝床とも呼べぬ寝床、あれが食事であるものか、使用人どもの残飯の間違いではないか。
あのような場所にいるから、このように有り得ぬ夢などを見るはめになっているのだ。
これが現実のわけがないのだから。
首が絞まる。苦痛にうめく私を一切気にとめず、黒い男は悠々と階段を上がった。
おのれ、夢の化け物ごときが……!
数段上がって台の上に着くと、怒号とも呼べる歓声が沸き起こる。首のすぐ後ろの鎖を掴まれ、凄まじい力で持ち上げられた。
足がつかず、苦しみでバタついた。それすらも意に介さず、私を片手で吊るしたままのしのしと中央まで歩いて行き……
首置き台に、私の首を押し付けた。
「こ……このような、夢など……すぐに……」
どうせすぐに覚める。そうだ、夢なのだから、何ということもない。
首が苦しいのも、引きずられてあちこちに打ち付けた身体が痛むのも、あの寝床のせいだ。
この私にあのようなものを用意した看守など、いずれ処刑台へ送り込んでくれる……!
『愉快な坊ちゃんだなァ。そいつぁ看守が用意するモンじゃねェっての。……ひっひひ。んなブルついて、実ぁわかってンだろォ? ここは『嘘』を禁じた世界……目に入るもの、耳に届くもの、すべてが『真実』の世界だ……』
違う。
そんなはずはない。
板にくりぬかれた半円の上へ首を置かれ、上から逆の形状の板を嵌められた。
膝を突かされ、後ろ手に鎖をかけられる。
分厚い板の向こうに、首だけが突き出た格好。
違う。これが現実であるはずがない。私はこのような場所にいるべき者ではない。
私は何もしていない。私は。
「何も変わらないのね、あなたは……」
ざわ、と皮膚が粟立った。
この声は……。
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