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エピローグ
141. エピローグ
しおりを挟む最後の獲物を刈り取り終え、僕は探し物を見つけに行った。
時間がかかりそうだなと思ってたけど、やっぱり時間がかかった。
条件を決めて篩にかけるのはラクチンなんだけど、該当の記憶の『本体』がどこでどうなってるのか、遡って探すのは案外ホネなんだよな。
例えば綺麗な麦がひと粒あったとして、その麦が広大な畑のどこに植えられていたのかなんて、普通わかんないだろ? それと似たようなモンだ。
世界が違うし、直接行き来はできないし、僕のしもべを送り込むのも、あっちの生き物を操るのもできない。
あんまりめんどーだから、途中で欠伸したりゴロゴロしたり昼寝しちゃったよ。
でもまあ、なんとか見つかった。アイツも薄々感じてたみたいだけど、寿命はまっとうできずに、しかもロクな終わり方をしなかったみたいだな。
無害で恨みも買ってなかったし、何事もなければ自然に世界へ還っていけるはずなのに、コイツは余計なモンで雁字搦めにされて還れないでいる。
意識や思考力は残ってなくとも、不条理なのは漠然とわかってんのかね。苦しそー。
ふむふむ、コンビニ帰りに刺されたと。刺したヤツは……ストーカーぁ? 目ぇつけたオンナのカレシとたまたま似てて人違い? わぁサイテー。めっちゃ無関係じゃん。ソイツも自業自得に終わって囚われてんな。そっちは放っとこー。
コイツを雁字搦めに縛っているヤツをちょいちょいっと壊して切って消滅させて、ハイ終わり。物質相手じゃなけりゃ、このぐらいの干渉はできるのさ。あとはフツーに還れるだろ。
さーて終わった、あーめんどうだった。……ん? ありゃ? なんかフワリとこっちに寄って来ちゃったぞ。
変則的とはいえ、繋がりが出来ちゃったからか。んー、まあいいだろ。
ふあ、と欠伸をして、疲れたからゴロゴロ。でもここ、寝心地がいまいちなんだよな~。
……そろそろ戻るか。
立ち上がって伸びをして、くんくん。あっちかな。僕は光のない狭間の世界をひたひた歩く。
ちょっぴり時間が経っていた間に、王都の館で工事をしてたみたいだ。ああ、アイツそっちに住むのか。じゃ、そこに戻っとけばそのうち来るだろー。
狭間を抜けて、前よりもニオイの良くなった館に着くと、僕は寝心地の良さそうなベッドの上で丸くなった。まだマットしかないけれど、これはこれで悪くない。
しばらくするとアイツが来て、なんか僕の腹が出てないかとか要らん心配をしていた。
失敬なヤツだな、僕はこんなにキュートでスマートなんだぞ…………おや?
僕について来ていたヤツがふぅわり離れて、拡散して、アイツを包んで馴染んでいった。
アイツの中に還ったのか。ま、いいんじゃない? ところで僕、タイクツでめんどーで超疲れたんだよ。お昼寝続けていい?
うとうとする僕を抱っこして、撫でながら言った。
「お帰り。私のアムレート」
■ ■ ■
今年も本邸は色とりどりの花を咲かせた。
お気に入りの庭にテーブルを用意させ、皆でさっぱりしたレモネードと珈琲風味の焼き菓子を楽しむ。
テーブルには俺と、この春最高学年になり夏期休暇中のジルベルト、公爵の側近の一人として働いているルドヴィク、婦人会などで活躍しているらしいルドヴィカ、それから俺の側近のラウルとニコラ、執事兼側近のアレッシオがいる。給仕はブルーノ父とエルメリンダ、数名のメイド達だ。
従僕が大きなパラソルを設置し、そよ風もあるので過ごしやすい。
ミラは随分お腹が大きくなったので産休に入っている。ルドヴィクの奥さんにも会いたかったけれど、彼女も子供ができたと判明してお留守番中だ。
エルメリンダは先日、「なんか一年後ぐらいにポンと生まれそーな気がします」などと予言を発した。彼女が言うと全く冗談に聞こえない。旦那のジェレミアがしっかり貯金中なので、家族計画がきちんとしているんじゃないかな。多分エルメリンダが産休に入るのと入れ違いでミラが完全復帰するだろうし。侮れないメイドは今日も侮れない。
イレーネは教師とともにシルヴィアにマナーを教えていた。我が妹は母親の所作を真似てどんどん可愛く、しかも美しくなり、ラウルが余裕ぶっていられなくなるのはもうすぐだと俺は踏んでいる。
勉強の進み具合もいいし、才色兼備で学園に入ったら確実にモテるな。変な虫が寄ってこないか心配する俺に、「またか」みたいな冷たい目をだんだん向けられなくなってきたのはわかっているんだぞ、ラウルよ……くくく……。
ところでヴィオレット兄妹は本日、公爵からの使い(という名の堂々たるサボり)で我が家に遊びに来ていた(あ、遊びって言っちゃった)。
彼らの用事である書簡は俺の前に置かれ、そのど真ん中には我が家の子猫がでろーんと仰向けになっている。
以前こいつが行方不明になっていた件は、「たまたま開いていたドアか窓の隙間から外へお散歩に出て、知らない人の馬車に乗って王都まで行っちゃったんでしょうかねえ」ということになっていた。その間どうやって生きていたのか、今も子猫のままなのはどうしてなのか、違和感を察せられるのは俺と、仰向けでむにゃむにゃ言っている子猫を微妙な笑顔で眺めているアレッシオだけだった。
―――たまに思うことがある。不毛の地だったエテルニア王国の大地に、祝福を与えたのは案外こいつだったりしてな。
当時の国王か誰かが犠牲を差し出し、叶えてもらった願いを『天使の祝福』ということにした……なんて歴史の闇があったとしても、たいして驚かないぞ。
俺の妄想に過ぎないし、真実なんぞ明らかにしなくていいけどね。
そんなことより、うちの子猫はホント賢くて良い子だよな。俺が読めないよう邪魔をしてくれるなんて。
「子猫が邪魔をして読めない。よって、私はこれを見なかったことに」
「無駄だオルフェ、諦めろ」
ルドヴィクがバッサリ。……やっぱりダメか。ダメなのか。
この書簡、誰からかというと、王様である。やだこんな嫌な予感のカタマリ読みたくない!
往生際の悪い俺のために、ルドヴィクがわざわざ内容を説明してくれた。
日頃から準備の良い国王陛下とその一派の皆様のおかげで、あるべき者があるべき場所におさまり、いくつかの家は爵位剥奪の上に財産没収もされたため、国庫が良い感じに潤っているという。
それを聞いてあちらの世界の魔女狩りをチラリと連想してしまった。あれ、一部では財産没収による金儲け目当てで行われていた説があるらしいんだよな。
陛下達が子猫の餌食になっていないことからも、必要悪に抵抗がない、いわゆる清濁併せ持つタイプなんだろうから、自国の王様としては頼もしい限りである。
ただし俺に実害がなけりゃな。
「それによって多くの土地が再編される流れになった。要はおまえの領地が増える。範囲はロッソ領から王都までの間にある、二つの領地ほぼすべてだ」
マジか。
ひとつはお祖父様の傍で仕えていた小領主の領地。あれはもう俺の傘下と言ってよかったから、そのままロッソ分割領のあるじとして続けてもらうことになる。
問題は、無駄に広さだけはあったもうひとつの貴族領だ。王都に接する部分だけは栄えているが、遠ざかるほどに寂れ、端は放置に近い状態。
「おまえにこんな広い土地は要らないだろう」と、ろくに手をかけていない土地をごっそり取り上げ、ポンと俺に与えることになったんだそうだ。その範囲、およそ八割。
それ、俺が逆恨みされるパターンじゃないですかヤダー!!
「文句があるならちゃんとやれという話ですよね。放置して浮いたお金で贅沢していたんですから」
と、ラウル。
「これで王都までの交通網と郵便事業拡大計画が捗りますね」
と、ジルベルト。
「文句を言って来られるほど、覇気のある方なのでしょうか」
と、ニコラ。
「もしご来訪があった際にはおもてなしいたしましょう」
と、アレッシオ。
アレッシオさんは殴り込み待ちですか。罠は撃退用と捕獲用どっちでしょうか。
皆さん前向きなご意見しかないですね。
「それに伴い、おまえは侯爵になる」
「嘘でしょう……!!」
「陞爵の儀の日程はまだ調整中だが、拒否権も逃亡権もないと思え」
やっぱりかーっ!!
やだよー絶対そんなのめんどくさい義務が増えるじゃんかーっ!!
従者トリオはその日程調整やらで忙しく各所を飛び回っているらしい。俺の味方がいない……!
「私からも、少しいいかしら?」
ルドヴィカが小さく手を挙げた。話が変わってしまうのだけど、と彼女が切り出したのは、学園にて俺の銅像計画が進みかけているという恐怖の報告だった。
なにそれやめて、全力でやめて。もしそんなものが現実になった日には、書き置きを残して姿をくらましてやる!!
「なら銅像はダメと伝えておくわね」
銅像『は』? ……ほかにどんな計画が進行しているのでしょうか?
ミステリアスな美女は微笑んで口を閉ざした……。
不作法など百も承知でテーブルにコツンと頭を置くと、
「まあ、その、なんだ。元気出せ?」
子猫がぺしぺし叩いて慰めてくれた。ほんといいやつだな。
「別に何も変わりはしませんよ。我々があなたを支え、あなたの望みを実現いたします。ですからあなたは今まで通り、思うがままになさればいいのです」
アレッシオが微笑んで言った。ちらっと顔を上げれば、ある者は微笑み、ある者は肩をすくめ、ある者は頷いて、誰も否定する者はいなかった。
―――本当、頼もしい奴らだよ。
怒涛の日々は過ぎ去り、何故かまだまだ怒涛の気配がしている。
でもまあ、こいつらがいたら大概、どんなことでも何とでもなりそうだな。
確信を抱きながら起き上がると、何故か可笑しくなって、少し笑ってしまった。
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『巻き戻り令息の脱・悪役計画』、以上で完結となります!
連載開始直後はこんなにたくさんの読者様からの応援と、愛着の言葉をかけていただける物語になるとは想像もしておりませんでした……(感涙)
心残りが一つだけあるとすれば、感想欄にて集まった某人物へのお呪い、最終形態を書くタイミングを完全に失ったことだけですね……。ですがあのお呪いはきっと、すべて子猫さん達が叶えてくれたに違いありません。
この後はしばらく温めて、また番外編なども書きたいと思っております。
その時は近況ボードなどでお知らせをいたします。
ふらりと興味を持って読みに来てくださった方々、今までこのお話を気に入って読みに来てくださった方々も、心からありがとうございました!!m(_ _m)
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