僕と愛しい獣人と、やさしい世界の物語

日村透

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新たな迷宮の攻略

27. 素直に受け取れない好意

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 ニナは商人ギルドに預かってもらいたいと、キーファーさんに頼んでもらうようお願いした。
 当座の保護者に関しては、たぬきのおじさんが名乗り出てくれた。

「ううっ……こんな小さいのに大変だったんだなぁ」
「……別に」
 
 ぐすぐす鼻をすするおじさんを、ニナは複雑そうな顔で見上げていた。
 でも嫌っている感じはしない。同情されるのが苦手なお年頃なだけであって、おじさんの反応を不愉快に思っているわけでもないようだ。

 狐族と狸族の相性はどうだったろう?
 どちらかといえば狐族は何事も斜に構えていて、狸族は人情家。だから種族的な相性としては、あまり良くないかもしれない。
 もちろん個体差があるし、どちらも商人向けという共通点がある。このおじさんとニナの感じで言えば、悪くはなさそうな気がした。

 ここからは冒険者としての仕事の話に移るので、キーファーさんがさっそく商人ギルド長宛ての手紙を書き、狸のおじさんにニナのことを頼んでくれた。
 おじさんは手紙を受け取ると、少々突き出たお腹を「任しといてくだせぇ!」と叩き、ポコンと鳴らしてニナと一緒に部屋を出て行った。
 普通に手を繋いでいるところからして、やはり相性はよさそうだ。もしそうでなければ、ニナが拒否しただろうし。
 ひとまずあの子のことは心配なさそうなので、ちょっとホッとした。

 改めて『湖の迷宮』探索時にあったことを、順序だてて説明する。
 新たな迷宮が出現しているかもしれないというのは、現時点では僕らの勘の域を出ない。
 けれどキーファーさんは、僕らに正式に調査依頼を出してくれた。
 これは調査完了後に報酬が出るだけじゃなく、調査時にかかった経費をギルド持ちにしてもらえるメリットがある。

「『湖の迷宮』近くの村については、ギルド内でも聞き取り調査を行う。多分だが、軽くて村長をはじめとする村の重役は総入れ替え、重くて村そのものを解体させて別の者を入れることになるだろう」
「解体ですか……!」
「ニナの話を聞いていても思ったんだが、おまえさん達はもうあの村の連中を信用できねえんだろ? 迷宮近くの村がそれじゃあダメだ。ひょっとしたら『湖の迷宮』の探索者が少ないのは、その村の居心地が悪いからってのもあるかもしれねえしな」

 ……それは、あるかもしれない。
 僕が答える前に、ウォルが「ありそうだな」と言った。

「レンへの態度があからさまに酷かった。村長だけでなく村人も、レンのことを登録したての初級者か、俺とイヴォニーの使用人と思い込んでいるふしがあったぞ。ランクを教えてもほとんどの奴らは本気に取っていなかった。どうせこれまでも、訪れる冒険者に態度を取っていただろう」
「そいつぁいけねえな……こっちは最低限とはいえ、村の運営費出してやってんだぜ。しかもあの迷宮は低ランクなんぞお呼びじゃねえって場所だ。村の連中ごときに品定めされるいわれはねえぞ」

 強そうと感じた相手には媚び、弱そうと勝手に判断した相手には露骨にぞんざいな態度を取る。
 今までもそうしてきたのなら、単純に迷宮の難度の高さだけでなく、あの村に滞在したくないがために冒険者の足が遠のくということは実際にありそうだ。
 おまけに僕のことを「兎だから強いわけがない」と最後まで考えを変えなかったし、同じように高ランクの者を、そうと知らずにバカにしたことがあったんじゃないか?
 自分達は見る目がなく、勘も嗅覚もたいしたことのない、ごく普通の村人に過ぎないのに。

「で、場所としてはどこらへんになりそうだ?」

 キーファーさんが話を切り換え、大まかな位置を描いた地図をテーブルに広げた。
 ウォルが「このあたりだ」と人差し指でトンと叩く。

「湖から見て南西、ちょうど荒野に入ったあたりだと思う」
「ここらへんか」

 ウォルが予定のルートについて話し、キーファーさんがそれをこまめにメモしていく。
 僕らがどこをどう通るのか、何日ぐらいかかりそうなのか、計画をあらかじめ伝えておくことは大事だ。
 事故か何かで戻れなくなった時、キーファーさん達は事前に聞いていた計画をもとに、僕らの捜索隊を送り込んでくれる。

「村には泊まらねえんだな」
「ここからだと方角が違うからな。『森の迷宮』と『湖の迷宮』の中間を通る街道、そこをまっすぐ進んだ先にあるはずだ」
「ここの街道は途中から途切れてたはずだぜ。つうか、ここらへんには何にもないってのに、最初に道を造った奴は何でこんなとこまで伸ばそうと思ったんだろうな」

 さあ、と首を傾げるウォルに、僕は動揺しそうになるのを咄嗟にこらえた。
 この道の先には迷宮も何もない、果てのない荒野。村も町もないのにどうしてと、不思議に思うのも当然だった。



 ニナの兄達とその仲間は指名手配され、あの村の調査もしっかり行われることが決まった。
 僕とウォル、ロルフとイヴォニーは正式に調査依頼を受けると、ギルドの建物を出て買い物に向かった。
 ギルド内の店は初級者の支援を重視しているものだから、高価で高度な品が少ない。なくもないけれど選択肢が限られるので、僕らは自分達のよく利用する店を使う。

「へえ、帰ったばかりなのに、また明日出かけるのかい?」
「まあね。少し遠出するから、食べ物を多めに持って行きたいんだ」
「それならレンの好きそうな実が入荷してあるよ。ほら」

 顔なじみになった食料品店のおじさんが、美味しそうな香りの漂う緑色の実を見せてくれた。
 マスカットによく似た実が、僕の両腕でかかえる大きさの木箱いっぱいに入っている。
 匂いからして僕の食べられるやつ、それも美味しいやつだとわかるのって本当に便利だな!

「これ、全部買うよ」
「まいどあり! ……あんたが強いってのは、聞いてて知ってるけどさ。身体、大事にしなよ……?」

 ……おじさん?
 僕のお尻とウォルの顔に目をやって、そういうこと言わないでくれるかな!?


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