92 / 99
新たな迷宮の攻略
27. 素直に受け取れない好意
しおりを挟むニナは商人ギルドに預かってもらいたいと、キーファーさんに頼んでもらうようお願いした。
当座の保護者に関しては、狸のおじさんが名乗り出てくれた。
「ううっ……こんな小さいのに大変だったんだなぁ」
「……別に」
ぐすぐす鼻をすするおじさんを、ニナは複雑そうな顔で見上げていた。
でも嫌っている感じはしない。同情されるのが苦手なお年頃なだけであって、おじさんの反応を不愉快に思っているわけでもないようだ。
狐族と狸族の相性はどうだったろう?
どちらかといえば狐族は何事も斜に構えていて、狸族は人情家。だから種族的な相性としては、あまり良くないかもしれない。
もちろん個体差があるし、どちらも商人向けという共通点がある。このおじさんとニナの感じで言えば、悪くはなさそうな気がした。
ここからは冒険者としての仕事の話に移るので、キーファーさんがさっそく商人ギルド長宛ての手紙を書き、狸のおじさんにニナのことを頼んでくれた。
おじさんは手紙を受け取ると、少々突き出たお腹を「任しといてくだせぇ!」と叩き、ポコンと鳴らしてニナと一緒に部屋を出て行った。
普通に手を繋いでいるところからして、やはり相性はよさそうだ。もしそうでなければ、ニナが拒否しただろうし。
ひとまずあの子のことは心配なさそうなので、ちょっとホッとした。
改めて『湖の迷宮』探索時にあったことを、順序だてて説明する。
新たな迷宮が出現しているかもしれないというのは、現時点では僕らの勘の域を出ない。
けれどキーファーさんは、僕らに正式に調査依頼を出してくれた。
これは調査完了後に報酬が出るだけじゃなく、調査時にかかった経費をギルド持ちにしてもらえるメリットがある。
「『湖の迷宮』近くの村については、ギルド内でも聞き取り調査を行う。多分だが、軽くて村長をはじめとする村の重役は総入れ替え、重くて村そのものを解体させて別の者を入れることになるだろう」
「解体ですか……!」
「ニナの話を聞いていても思ったんだが、おまえさん達はもうあの村の連中を信用できねえんだろ? 迷宮近くの村がそれじゃあダメだ。ひょっとしたら『湖の迷宮』の探索者が少ないのは、その村の居心地が悪いからってのもあるかもしれねえしな」
……それは、あるかもしれない。
僕が答える前に、ウォルが「ありそうだな」と言った。
「レンへの態度があからさまに酷かった。村長だけでなく村人も、レンのことを登録したての初級者か、俺とイヴォニーの使用人と思い込んでいるふしがあったぞ。ランクを教えてもほとんどの奴らは本気に取っていなかった。どうせこれまでも、訪れる冒険者にそういう態度を取っていただろう」
「そいつぁいけねえな……こっちは最低限とはいえ、村の運営費出してやってんだぜ。しかもあの迷宮は低ランクなんぞお呼びじゃねえって場所だ。村の連中ごときに品定めされるいわれはねえぞ」
強そうと感じた相手には媚び、弱そうと勝手に判断した相手には露骨にぞんざいな態度を取る。
今までもそうしてきたのなら、単純に迷宮の難度の高さだけでなく、あの村に滞在したくないがために冒険者の足が遠のくということは実際にありそうだ。
おまけに僕のことを「兎だから強いわけがない」と最後まで考えを変えなかったし、同じように高ランクの者を、そうと知らずにバカにしたことがあったんじゃないか?
自分達は見る目がなく、勘も嗅覚もたいしたことのない、ごく普通の村人に過ぎないのに。
「で、場所としてはどこらへんになりそうだ?」
キーファーさんが話を切り換え、大まかな位置を描いた地図をテーブルに広げた。
ウォルが「このあたりだ」と人差し指でトンと叩く。
「湖から見て南西、ちょうど荒野に入ったあたりだと思う」
「ここらへんか」
ウォルが予定のルートについて話し、キーファーさんがそれをこまめにメモしていく。
僕らがどこをどう通るのか、何日ぐらいかかりそうなのか、計画をあらかじめ伝えておくことは大事だ。
事故か何かで戻れなくなった時、キーファーさん達は事前に聞いていた計画をもとに、僕らの捜索隊を送り込んでくれる。
「村には泊まらねえんだな」
「ここからだと方角が違うからな。『森の迷宮』と『湖の迷宮』の中間を通る街道、そこをまっすぐ進んだ先にあるはずだ」
「ここの街道は途中から途切れてたはずだぜ。つうか、ここらへんには何にもないってのに、最初に道を造った奴は何でこんなとこまで伸ばそうと思ったんだろうな」
さあ、と首を傾げるウォルに、僕は動揺しそうになるのを咄嗟にこらえた。
この道の先には迷宮も何もない、果てのない荒野。村も町もないのにどうしてと、不思議に思うのも当然だった。
ニナの兄達とその仲間は指名手配され、あの村の調査もしっかり行われることが決まった。
僕とウォル、ロルフとイヴォニーは正式に調査依頼を受けると、ギルドの建物を出て買い物に向かった。
ギルド内の店は初級者の支援を重視しているものだから、高価で高度な品が少ない。なくもないけれど選択肢が限られるので、僕らは自分達のよく利用する店を使う。
「へえ、帰ったばかりなのに、また明日出かけるのかい?」
「まあね。少し遠出するから、食べ物を多めに持って行きたいんだ」
「それならレンの好きそうな実が入荷してあるよ。ほら」
顔なじみになった食料品店のおじさんが、美味しそうな香りの漂う緑色の実を見せてくれた。
マスカットによく似た実が、僕の両腕で抱える大きさの木箱いっぱいに入っている。
匂いからして僕の食べられるやつ、それも美味しいやつだとわかるのって本当に便利だな!
「これ、全部買うよ」
「まいどあり! ……あんたが強いってのは、聞いてて知ってるけどさ。身体、大事にしなよ……?」
……おじさん?
僕のお尻とウォルの顔に目をやって、そういうこと言わないでくれるかな!?
707
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる