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世界の異変
14. 初仕事の依頼探し
しおりを挟む冒険者ギルドの受付前の壁には、依頼の紙が張られた掲示板がたくさんある。
僕とデューラーを含めて、そこにいる獣人はほんの十名程度だった。これがいつもより多いのか少ないのか、まだ判断がつかない。
結構広さがあり、天上も高い。海に面した土地でもないのに、まるで帆船の中にいるような印象を受けるのは、ドンと中央で建物を支えている円柱が船のマストを連想させるからだ。
柱の中ほどには洒落た彫金の飾りがあり、拳大ぐらいの石が嵌められている。灯りを近付ければ、一定時間その光を閉じ込め続ける性質を持った光の魔石だ。夕刻近くなると、ギルド職員が蝋燭の火を近付けて灯しているのを、前に何度か見たことがある。
――それはともかく。
「スライムの討伐難易度がBランク……?」
「そうだな。あまり受けたい依頼じゃない」
僕の横にぴたりと立っているデューラーが、かなり嫌そうな顔で言った。
レベル一でも倒せる初級冒険者の味方じゃないのか……!
ところで腕が触れているけれど、距離感が近いな? 別に嫌じゃないが、話す時に見上げる角度が急過ぎて少しつらい。
気持ちの問題じゃないぞ、首の問題だ。
「こいつの攻撃は武器や防具を破壊してくる。こいつにやられない装備をまず揃える必要があるし、始末しても酸が多少採れるぐらいで実入りがほとんどない。あまりに長期間依頼が放置されると、ギルド長から指名依頼をされるんだが、こいつはそういうのが多い。イヴォニーは三日もかけて集めた魔獣素材をこいつに台無しにされて以来、特に毛嫌いしている」
「それは、俺の立場でも二度と受けたくないと思うな。でもデューラーは魔法が使えるだろう?」
「攻撃向きの魔法じゃないんだ。剣に纏わせるぐらいで、スライムとは相性が悪い。多少弱らせることはできても、決定打に欠ける」
なるほどな。スライムが雑魚でなければ、物理攻撃を得意とするハンターの大敵になる。
効果的なのは魔法の、それも範囲攻撃。
そしてネーベルハイムのギルドは現状、ゴリゴリの物理系ばかり。せめて僕がまともに戦えるようになれば、話は変わるかもしれないけれど。
「……これも高ランクなのか。この魔物も……」
僕の顔色は多分、あまりよくない。
掲示板はランクごとに分かれていて、討伐向けと採集向けの板も別々になっている。
コルク材のような板に、画鋲で固定された味のある皮紙。喋っている言葉は日本語でも、書かれている文字はこの世界の言葉だった。
文字を見ていると、頭にふっと意味が浮かぶ。
読めてよかった。もし読めなくとも、絵が描かれているのでわかりやすくはあったけれど、今後を思えば自力で読めたほうがいい。
――僕の知識にあるモンスターと、ここに並んだ魔物の難易度が、ほとんど一致しない。
雑魚のつもりで、実は高ランクになっていた魔物にやられたテストプレイヤー、結構いそうだな。
「来たぞ」
デューラーが出入口を指差した。今朝も開いている正面両開きの扉、その表通りを行き交う獣人達の中、聞き慣れた足音が交ざっている。
イヴォニーとロルフだ。
「えっと、コレがいいんじゃないかなあ? なんとなく」
「俺もコレがいいと思う。レンはスランプじゃなけりゃ、スピードと魔法が強みなんだよな? だったらコイツのが落ち着いてやれるんじゃね?」
デューラーが目星をつけていた難易度Dランクの依頼は、動く植物のウッドイーター、苔の生えた蛙のフォレストフロッグ。
それを見比べ、二人とも「コレがいい」と口を揃えたのは、フォレストフロッグだ。
「ウッドイーターも動きは遅いが?」
「だってデューラー、こいつたまに上位種が混じってんじゃん。いきなり出てきたらレンが慌てちまうだろ」
「確かにな」
ウッドイーターもフォレストフロッグも、本来のゲームならCランク以上だった。これらは逆に難易度が下がっているけれど、どういう理由なんだろう。
ふと思い出すのは、デューラーが僕を助けてくれた時。彼は僕を抱えたまま、巨大猪を一撃で葬った。
ゲームシステムそのままであれば、あれは不可能な攻撃だった。他キャラを抱えたままで攻撃はできない。
でも現実にはできる。
そういう、システム上は不可だったけれど、現実になれば攻撃の選択の幅が広がって、その結果難易度が下がった……ということではないか。
「レンもこれでいいか?」
「ああ、異論はない」
「なら、これにするか」
ちゃんと僕の同意も得て、デューラーは依頼の紙を取って受付に持って行った。
僕の初仕事が決まった。全身が苔で覆われた森蛙だ。
冒険者が受けられる依頼のランクは、自分と同じか、ひとつ下のランクまで。僕はEランクでいいと思ったけれど、実力者が低ランクの仕事をごっそり奪ってしまわないよう、原則として推奨ランクで登録するものなのだそうだ。
今回、デューラー達は僕の付き添いとして一緒に行ってくれる。討伐後にマナクリスタルに触れれば貢献度がわかるらしく、ズルでランクアップはできない。
もとのゲームでは、倒せば経験値が均等に入ったから、楽に自分のレベルを上げるために高レベルのプレイヤーにすり寄る、寄生プレイヤーという嫌われ者がいた。
デューラーも多分そういうことは嫌うタイプだ。
もし僕が楽をしようと彼に近付いていたら、きっと仲間には誘ってくれなかった。
「レン、おまえの『収納』に回復薬と携帯食を入れておけ」
デューラーが数本の薬瓶と四角い包みを渡してきて、どうしようか迷いつつ、『収納魔法』の中に仕舞い込んだ。
僕だけではなく、他のメンバーが必要とするかもしれないのだから、預かっておいたほうがいいだろう。
これを知らなかったロルフとイヴォニーはもちろん、受付や周りの冒険者にもすごいすごいと騒がれてしまった。こういうのはどう返せばいいかわからなくて困るんだが、どうもデューラーは僕が有益だと示すためにわざとやったふしがある。
多分、僕がこの中で一番舐められているからだろう。
ロルフとイヴォニーはすぐに出るのを見越してか、装備を最初から身に着けてきていた。
デューラーだけが一旦部屋に戻って準備をし、再び上階から降りて来た時には、腰の左側に短剣、右側に幅広の剣を佩いていた。部屋の隅に目立たない木箱が置かれていたけれど、あれに装備が入っていたのかな。
ロルフは腰の左側に一般的な身幅の剣を、それから右側に短剣。
イヴォニーは弓を持ち、背へ斜めに矢筒を背負っている。
彼らは全員がスピード重視のようで、防具は胸当てと胴回りだけにつけていた。最低限で軽そうだけれど、かなり上質のものだ。
デューラーが僕の装備も買うと言い出したけれど、それは丁重に断った。
「カンを早く取り戻したい。そのためには、防具はないほうがいい」
心から真剣に、デューラーの瞳を見上げながら言ってみた。
「そうか……。わかった。おまえがそうまで言うのなら。だが、無茶はするなよ」
デューラーは僕の覚悟に、どこか感心した風に頷いてくれた。
すまないな。――本音では、おまえに借金が積み重なる一方で怖いんだよ。
おまえが買ってくれそうな防具、絶対に回復薬より値が張るだろ……!
そして僕らは、早々に森へ向かうことになり。
結論として。
僕はこの一回の討伐依頼で、『カン』を取り戻すことになった。
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