51 / 99
新たな兎の始動
50. 改めて二度目の自己紹介
しおりを挟む「庭にある草は食えないのか?」
「うん。香りは好きなんだけど、食べられる気がしないんだよ」
「迷宮の実、ベリーといったか。あれの葉や茎みたいなもんか」
「そうそう。ルビーベリーにエメラルドベリー、実はすごく美味しいのにそっちはダメだったんだ。多分、僕には消化できない草なんだと思う」
ひょっとしたらベリー系の草は全部そうなのかもしれない。葉や茎はほとんど無臭に近くて、試しに齧ってみたら「うぇっ」てなったし。
毒ではなかったけれど、無理に食べたら身体によくない感じがした。
「そういうのもあるんだな。草なら何でもいいわけじゃないのか」
「ウォルは肉なら何でもいける?」
「味や香りの好みはあるが、食えんと思った肉は心当たりがないな」
「ふうん。草食の僕らより、食べられる範囲が広いのかな」
「一番広いのは雑食の奴らだろ。狸の奴は肉も草もいけるぞ」
「あ、それは羨ましいかも……」
あちらの世界にいた天然の兎が、果たして毒草とそれ以外を嗅ぎ分けられたかどうかは知らない。
ただ、この身体には『鑑定』の上位スキルがある。だから僕には毒の有無や食用の可否も、なんとなく区別がつけられるんだ。食用のものと見た目がよく似た毒草や毒キノコはこちらの世界にもあるから、今後こちらで生活する上でかなり助かるスキルだと思う。
それはともかく、服を身につけて宿を出る時、一悶着があった。ちょうど洗濯物を干しに行こうとした女将さんとばったり出くわしたんだ。
この部屋を借りているのは『レン』なのに、おまえ誰だよって話だよね。そうでなくとも、昨夜の時点で嗅ぎ慣れないにおいが侵入していることには気付いていて、不審に思って様子を見ていたそうなんだ。
……そ、そういえば、女将さん? においって、どこまで……!?
「やっぱりあんたデューラーじゃないか! 噂じゃあんたに兎の番が出来たっていうから、てっきりレンのことかと思ってたよ。あの子にちょっと似てるけど、兄弟かい? 可愛い兄弟だからって二股はよくないよ、あんたあの子にも威嚇臭つけてたろ?」
「待て女将、誤解だ。少し込み入った話なんだが、ここにいるのはあの『レン』と同じ兎なんだ」
「はあぁ? あんた何言ってんの」
「それがな……」
狼族同士、ウォルと女将さんは顔見知りだったようだ。
アワアワする僕の代わりに、ウォルが彼女に説明してくれた。
「へえぇ……ほんとに、あんたがレンなの?」
にわかには信じられなくとも、ウォルが小手先の言い逃れをするはずがないって、女将さんも知っているんだろう。
びっくりした顔で確認され、僕はウォルに二股狼の汚名を着せられないよう、慌てて頷いた。
「すみません、女将さん。ちゃんと断りを入れる前に勝手に部屋を使ってしまって」
「いやさ、そういう事情があったんならいいけど……雰囲気がだいぶ違うねえ? レンはなんか、背伸びしてとんがってる男の子みたいな感じだったのに、あんたはこう、見た目と中身が釣り合ってるっていうかね。言葉遣いもそっちのが合うよ」
「そ、そうでしょうか?」
「おっとりしてて可愛い美人さんだね。デューラーがガンガンにおい付けまくるはずさ」
そ、そのにおいというのは、何がどこまで!? もしかしなくても、昨夜僕がウォルとあれこれしていたのも全部バレているのか!? 訊くのが怖い……!
可愛い美人さんていうのは、知り合いの番に対する社交辞令だろう。ハタチ超えの男に対する誉め言葉に聞こえないのは、この際脇に置いておくとして。
「悪いけど、冒険者証を見せてくれないかい? 宿帳の名前を書き換える前に、一応確認が必要だからさ」
「あ、はい。どうぞ」
この冒険者証、『ロートス・クライン』もちゃんと持っていた。
金属板に細いチェーンを通したペンダント。名前も冒険者ランクも刻まれているそれを女将に見せると、「は~」と溜め息をつかれた。
「たまげたね、噂の『クライン』とは。Sランクなんざ初めてお目にかかるよ」
「あまり気にしたことがなかったんだが、この国にSランクは何人いるんだ?」
まさに僕が知りたかったことをウォルが訊いてくれた。
「あんた、Sランクと番っといて知らなかったのかい?」
「う……それは」
「この兄さん含めて五人だよ。全部有名な奴らなんだから、そのぐらい知っときな」
さらに女将さんは、僕以外の四人の名前もウォルに教えてくれた。四人とも肉食獣人で、僕はその名前に聞き覚えがあった。
プレイヤーではない。ゲームでは『限りなくSランクに近いAランク』として知られた、お助け戦闘員の役付けだった。縛りがなくなったおかげでSに昇格できたんだな。
プレイヤーがいなくなった以上、Sランクが僕だけっていうのは不自然だし、そうなるか。
さらに女将さんの講義が深まりそうな気配が漂ってきた頃、僕の空腹の虫が激しく自己主張をした。
「引き留めて悪いね、宿帳は書き換えとくよ」
カラカラ笑いながら女将さんに見送ってもらい、僕はおそらく顔を真っ赤にしながらウォルと手を繋いで宿を出た。
その後、ウォルに「助かった」と礼を言われてしまった。何故に僕のお腹へ向けて礼を言うんだ。
まあ僕も、ほんとコイツいい場面で鳴くな、実は自我があるんじゃないか? って思ったけどさ。
「すぐに信じてもらえて助かったけれど、ウォルと女将さんは知り合いだったんだな」
「言ってなかったか? 兎ほどじゃないが、ここは狼族も比較的少ないんだ。むろん全員てわけじゃないが、狼同士には知り合いが多い」
「そうだったのか」
聞けば、このネーベルハイム市の獣人は獅子・虎・豹・熊・犬・猫が大きな割合を占め、それ以外は少数派なんだそうだ。
「狼族はその次ぐらいだな。草食より多い程度だ」
ウォルといろいろ喋りながら歩いていると、やがて冒険者ギルドが見えてきた。
「っっっええええ~っ!? おにーさんがレンなのおお!? ほんとに!?」
猫族のイヴォニーは瞳孔を細め、めいっぱい口を開けて叫んだ。
場所はギルド内の食堂、『黒熊亭』。テーブル席の向こう側に座ったロルフとイヴォニーに、実は僕が『レン』なんだと伝えると、当たり前だがこのように仰天されてしまった。
別の席にいる獣人達も、目を真ん丸にしてこっちを見ている。マナー違反だとか、そういうことを突っ込む者はいない。
驚いて当然だと僕も思う。『レン』を番にしたはずのウォルが、知らない兎族へたっぷりとにおいを付けて、手を繋いで歩いているんだから(ロルフとイヴォニーに凝視されるまで離すのを忘れてたよ!)。
「そうだったんかぁ。はー、びびった! よかった、まさかあのデューラーが浮気を!? とか思っちゃったぜ俺」
「だよね! あたしレンをどーやって慰めたらいいか悩んじゃったもん!」
彼らが依頼で『湖の迷宮』へ行った時は、まだ僕は番じゃなかった。でもウォルが僕を囲い込んで自分のにおいを付けまくっていたから、遠からずそうなるだろうと確信していたらしい。……こ、この二人でさえわかるぐらい露骨だったのか。
ウォルが不本意そうに顔をしかめている。いや、怒らないでやってよ。知らなかったんだから、そりゃあ疑うでしょ。
それに二人のリアクションに気を取られて、変に緊張せずに済んだ。きっとロルフやイヴォニーならあんまり気にしないんじゃないかな、とは思っていたよ。だけど自分のやっていたことが後ろめたいから、どう受け止められるか心配が拭いきれなかったんだ。
「ごめん。結果的に騙すことになってしまったけれど、あちらは仮の姿だったんだ。中身はもともと僕だったんだよ」
冒険者証を見せてあげると、二人はテーブルに乗り上がる勢いでガン見していた。
「ロートス・クライン……ランクS……すっっげぇ~っ、マジもんだ! マジで噂の『クライン』だ!」
「すごいすごい! あたしSランカーって初めてみたぁ! ――あれ? じゃあ名前どうしよう。レンって呼んだらダメなのかな? クラインさん?」
イヴォニーがシュンとしてしまったので、慌てて手を横に振った。
「僕は『レン』が本名なんだ。ウォルにはそう呼んでもらっているから、ロルフとイヴォニーもそうして欲しい。『さん』もいらないよ」
今まで仲間というものにはずっと無縁だったけれど。
この二人には、できればこの先も仲間でいて欲しいな、って思うし。
その気持ちがちゃんと伝わったのか、ロルフはフサフサの尾をブンブンと振り始め、イヴォニーは細く優美な尾をピンと立てた。
そういう反応をしてくれて嬉しい。
嬉しいけど、通りかかったお客さんの邪魔にならないかな、とふと心配になってしまった。ごめん、二人とも……。
1,386
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる