僕と愛しい獣人と、やさしい世界の物語

日村透

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巡る世界

49. 嬉し恥ずかしの朝

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 いつも読みにきてくださる方々、ふらっと来てくださった方もありがとうございます!!
 投稿再開いたしますm(_ _m)

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 初体験なのに、ものすごく濃厚な一夜を過ごしてしまった。
 僕は世間一般の青春時代というものを送り損ねたから、男女問わず人とコミュニケーションを取るのが苦手で、二十代後半になってもキスすら経験がなかった。
 それがいきなりキスとそれ以上まで、しかも自分が受け入れる側で一気に済ませてしまう日が来るなんて、展開が急過ぎて付いて行けない……。

 だけど長い行為が終わり、浄化魔法で清めてくれた後も、ウォルはずっと僕のことを腕の中に抱き込んで離さなかった。
 『レン』のアバターだった頃より大きくなっているはずなのに、それでも僕の身体は彼の胸にすっぽりおさまってしまう。
 事が終わってからも、僕の長い耳や額へ飽きずにキスを降らせてくれて、大事にされているんだなぁ……ってじんわり伝わってくるのが嬉しかった。
 我ながら女々しいし、思考が子供っぽくて情けないけれど、ちゃんと愛されている実感に胸がぎゅうっとなる。

 狼族の特殊なソレに関しては、「先に言っておいてよ!?」とクレームをつけてやりたかったけどね!
 でももし本当に先に教えてもらっていたら、僕は怖がってまた拒否していたかもしれない。
 未知のものって何でも怖いし、くどいけど初体験なんだ。なのに、一旦始めたらその間は抜けない、なんて話を事前に聞かされた日には、絶対涙目で逃げまくってたよ……。

 ともあれ。
 僕の全人生の中における驚天動地の一夜が明けた。
 そして今は、ベッドの上にあぐらをかいたウォルの足の間に抱き込まれ、ずっとキスの雨を降らされている。
 ええと、どうしてこんなことになったんだろう。

 昨夜は確か、疲れ果てた僕が先に眠り、朝陽を感じて瞼を開けたらウォルがこっちを見ていたんだ。
 彼はいつもと同じ時間に目覚め、それからずっと僕の寝顔を眺めていたらしい。うわああ、恥ずかしい!
 それで僕が、照れ隠しも含めて「早くギルドに行かないと」って起き上がったら、ぐいと腕を引っ張られて捕まって今ここ、みたいな……。

「回復魔法は常にかけていたが、調子の悪いところはないか?」
「う、うん。どこも、なんともないよ……」

 耳をぱたぱたさせて熱を逃しながら小さく頷くと、唇をやんわり塞がれた。ついばむように唇を重ねられて、どんどん力が抜けてゆく。
 実際、あれだけ身体を酷使したのに、痛みも疲労感も一切残っていなかった。
 マナスポットから出現した迷宮ボスを倒した直後、休憩もせずに平原から宿まで徒歩で戻り、そこからベッドになだれ込んだのに。
 間違いなくウォルの回復魔法のおかげでもあったんだろうけれど、この身体自体がやっぱり並外れて頑丈なんだろうな。体力値その他のステータスが数値として見られなくなっただけで、消えてなくなったわけじゃない。

 だからそんなに気遣わなくていいよ……とは、やっぱり言えなかった。
 正直、こうやって気遣ってもらえるのは嬉しい。他人から受けるそれは時に息が詰まるけれど、ウォルのこれは『つがいとして』の気遣いだと思うと、全然違って感じる。
 それに、僕は見た目の印象より頑丈だから手加減はいらないよ、なんて言いたくはなかった。
 手加減は是非してもらいたい。だって初夜があれだったんだ。もし加減をしてああだったとなれば、それが完全に取っ払われた時にどうなってしまうのか怖いじゃないか。
 ……そうか。初夜。だったんだよな。つまり名実ともに、身も心もっていう……。
 ……あ、ダメだ。顔がめちゃくちゃ火照ってきた。
 当然僕のそんな変化はこの相手にバレているわけで、口付けの合間に愉しそうに突っ込まれてしまった。

「何を考えている?」
「べ、べつに? そろそろ出かける準備をしないと。ギルドにも説明しないといけないし」
「説明か。――おまえが別の兎として活動していたことは、話しても構わないことなんだな?」
「……うん。話すしかないというのが正確なところだけど。もう『レン』としては活動できないんだから」

 『レン』の冒険者登録も抹消手続きをしなければいけない。密かに初級者から開始するのが楽しくなりかけてもいたんだけれど、こればかりはどうしようもなかった。
 これが罪に問われるかどうかは、冒険者ギルドの判断による。犯罪目的ではなかったとはいえ、二重登録がどこまでアウトとされるか。
 ただ、多少の罰則を科されたとしても、『ロートス・クライン』の登録まで抹消される恐れはない気もしている。Sランクのハンターは希少だ。プレイヤーがいなくなった今、その希少性は爆上がりしているはずだし。
 これも一応調べておかないとな。果たしてこの国に現在、何人のSランクが存在するのか。もしかしたら、この国には僕一人きりっていう可能性だって充分にある。
 消えた他のトップランカーはどういう扱いになっているのか…………って、ちょっと、ウォル!?

「な、なにやっ……あっ……」
「目の前の俺を無視すんな。気がかりがあるんなら言えっての」
「ご、ごめん……だからって尻尾揉むなよ! そこ、弱いんだからっ」
「わかっててやってるに決まってんだろ」
「ちょ! ウォル! もおお~っ!」

 拗ねたみたいな目をしているけれど、狼の尻尾がパタパタしているから機嫌が良いのは丸わかりだ。仕返しに僕も掴んでやろうか。
 ――いや、やめたほうがいい。もっとすごいが待っていそうだ。

「も、ダメだって……ん、むぅ……」

 制止の言葉は、ウォルの口の中に呑み込まれてしまった。反射的に胸板へ手を突いても、びくともしない。
 もう僕の全身で彼が触れていないところなんてなかった。自分ですら気付かなかったような弱点だって、残らず探し出されてしまっている。
 尾に関しては共通だと思うけれど、付け根の上の部分がとにかく敏感だ。そこを指でさすさすと撫でられ、背骨全体に電流が通されたみたいに身体が震えてしまう。
 悪戯な指は、尾の下に隠された隙間にも潜りこんできて――

 ――腹の虫が盛大に鳴った。

 僕と狼の目がきょとんと見つめ合う。
 なんとも言えない沈黙が流れた後、また空腹の虫が「くううぅ」と己の存在を主張した。

「……クッ……」

 ウォルが肩を震わせた。なんか前にもこんなことがあったな!!
 仕方ないじゃないか!! 昨日から何にも食べてないんだよ!!

「すまん。ギルド長への説明より、先に食堂だな」

 笑みを噛み殺す狼を睨みながら、僕は頷いた。


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