38 / 102
恋と真実
38. 泉のほとりの秘め事*
水鏡の泉それ自体に結界はなく、悠真が膜と感じたのは気温の差だった。湖と呼べる広さがありながら上空から視認できなかったのは、網の目状に張り巡らされた巨大な枝葉の天井が自然に姿を隠しているからだった。
その隙間を縫って舞い降りた《ラディウス》がゆっくり草の上に足をつけるや否や、オスカーは悠真を抱えて飛び降り、手袋やコートをいささか乱暴に脱がし始めた。
「こ、ここでするの? 誰か、人が来たら」
「誰も来ない。気にするな」
オスカーが結界を張ったのだろうか。もしくはここがそういう場所なのか、悠真には判断がつかなかった。あの泉には不思議と懐かしさや安心感があり、ここがとても居心地のいい場所だというのはわかるのだけれど……。
(で、でも、外なのに)
それを言うならガゼボも外だった。けれど、あれは秘密基地の中での秘め事のような感覚で、これとは別物だ。そんなものは個人的な気分の違いと言われればそれまでだが。
悠真の葛藤をよそに、オスカーはどんどん服をはぎ取ってゆく。冬服だから着衣の枚数が多く、ボタンもきっちり頑丈な種類だ。外しにくいそれらに、オスカーが明らかに舌打ちした。
(……なんか、苛立ってる?)
気のせいではなく、急いていた。その理由は互いの下半身が偶然触れ合った瞬間に判明した。
(あぅ。……勃ってる……)
オスカーのそこも臨戦態勢になっていた。外だなんだと、お互いにもう止められる状況ではなかった。
《ラディウス》が気を利かせ、片翼の二枚をふわりと広げてアーチ状の天井を作った。簡易テントのように木漏れ日を遮り、それだけでも随分『外』に対する抵抗感が薄れた。
オスカーは悠真のシャツもズボンもブーツもすべてむしり取り、離れた場所へポンポンと放った。ここを出れば再び零下の世界になる。汚せば洗って完全に乾かすしかなく、一応の準備はあるのでそれは無理なことではなかったが、無駄に手間と時間がかかるのは確実だった。
邪魔な衣類を綺麗に剥いた悠真の背を、オスカーは《ラディウス》の胴に押し付けた。
「ひっ!? あっ、やだっ、ダメっ!」
股間で元気に存在を主張している屹立が、オスカーの口にすっぽりと呑み込まれた。生温かくねっとり包み込まれた衝撃で、既に限界ぎりぎりだったそれは実に呆気なく爆発してしまった。
「え、わ、ごめんオスカー! ……ぁ」
男の喉がゴクリ、と上下した。赤い舌が唇をペロリと舐め、優美な顔立ちと裏腹に、獲物を食らう野生の獣めいている。
(いま……ぼくの、飲ん……)
間を開けず、性急な指が後ろの窄まりに潜り込んできた。連日愛されているそこは、きゅうきゅうと強く締め付けながら、同時により深くへ柔軟に誘おうとしている。ほぐすためではなく、それを確認するためだけに入れていた指はあっさり引き抜かれ、一息つく間もなく、もっと大きなものがあてがわれた。
「ぃあっ! ―――あっ、あっ、あぁっ!」
「くっ、……はあっ……すまんっ……」
「あんっ! あっ! ひっ、あっ、ダメ、ダメ、ぁあ……!」
オスカーは悠真の身体を押さえつけながら己のブーツを脱ぎ、残っていた衣類も脱いで脇に投げた。二人して一糸纏わぬ姿になり、がつがつと腰を振って貪る。
いつもより荒々しく貫かれ、宙を蹴る悠真の足はほとんど地についていない。その両足を膝裏から抱え込まれ、自重のかかる場所が後ろの一点へ集中し、さらにそこへ容赦なく腰が叩きつけられた。
奥にある弱点、触れるだけで腰が砕けるその場所を、剛直がズンズンと何度も突き上げる。
「あぁーっ、あーっ!」
「ユウマ……!」
指では到底届かない深い場所へググ、と先端を押し付け、悲鳴を上げて痙攣する身体を逃がさぬように捕え、胎の奥めがけて思いの丈を流し込んだ。
「ふ、く……っ」
「ひあ、あ、んぁ……!」
初めての頃は熱としか感じられなかったそれが、今の悠真は魔力を含んだ液体だとわかるようになってしまった。
熱くて強い、オスカーの精液だ。
それが胎の中へたっぷりとそそがれている。その事実は、おかしくなりそうなほどの愉悦を四肢の先まで巡らせ、全身の骨という骨を消して軟体生物に変えてしまう。
掻き出すのは許さないとばかりに、より深みへの射精は止まらず、先ほどオスカーの口内で暴発したばかりの悠真の先端が、押し出されるように白濁を噴いていた。
中に出されるのに感じて射精をしてしまうなんて、自分はMっ気があったのだろうか? 時々そんな風に悩んだりもするが、どうせオスカー以外とはしないんだから別にいいか、と結論付けるのも毎度のことだった。
「ぁ、あぅ、ダメ……オスカー、あ……ぼく、とけちゃ、とけちゃうよぉ……」
「とけてしまえ……愛してる……」
「っ……ぼくも……オスカー……!」
長い射精が終わり、すっ飛ばされていた愛撫が始まった。凶器を納めたままの腹部を撫で、首筋から鎖骨を味わい、小さなコインに似た簡易身分証のペンダントトップを避けながら舌を這わせ、ぷくりと尖った胸をねぶる。自分で触れても何も感じない乳首が、オスカーにいじられると下半身を直撃するほどの刺激を覚え、後ろの孔が勝手に応えて収縮し、たちまち剛直が力を取り戻した。
オスカーの指が悠真の指を一本一本搦めて握り、拘束を強めた。抜かずにゆるゆると腰を回し、愛しい伴侶の口から甘やかな声を引き出す。
「愛している、ユウマ……私のものだ。……決して離さん……」
「うれ、し……すき、オスカー……すき……ぁん……」
途方もない快楽と、途方もない幸福感が同時に押し寄せ、頭がぐずぐずにとろけてしまう。気持ちよすぎて零れる涙を唇で拭われ、さらに胸がパンパンになるほど幸福感が満ちる。
(気持ちいい、気持ちいい……オスカー、好きだ……すごく好き……オスカー……)
嵐が過ぎ去った後、穏やかな交わりはゆっくり、長く続けられた。
何度目かの絶頂で意識を飛ばした悠真がふと瞼を開けると、肩近くまで水に浸かっていた。
ふとももの下にはオスカーの膝。どうやら飛んでいる間に身体を洗ってくれたらしい。少し身じろぐと、尻の中がぬるりとした。……そこは手つかずのようだ。
(……出さなくて、いいのかな)
言わずもがな、胎内へ大量に出されたオスカーの精液だ。
が、すぐに考えても意味がないと悟った。つい忘れかけてしまうけれど、この肉体は普通の人のそれとは違う。それに、今まで数えきれないぐらい中にそそがれているのに、一度も腹を壊したことはなく、むしろ翌朝の体調は良くなっている。
食事と同様、余さずオスカーの精液を吸収して、自分のエネルギーに変換しているんだろうな……と、そこまで想像して頭を水の中に沈めたくなった。
(なんでそんな余計なことまで想像した自分。アホか自分。そうだ、アホだった……)
腕の中でもだもだしていれば、オスカーも目が覚めたと気付く。こめかみに唇を落とし、低い声であやすように尋ねた。
「どうした?」
「……なんでもないデス」
小さく笑う気配がする。照れているだけなのはバレバレだった。
大きな手が水をすくい、悠真の肩にかけた。水に触れている感覚がない。
水温が体温と同じ三十六度前後であれば、この季節では水ではなくお湯だ。本当なら辺り一帯が真っ白になるぐらいの湯気がもうもうと立ち込めているはずなのに、向こう岸まで視界はクリア。
「この場所って、年中常春なの?」
「いや、季節がちぐはぐなだけだ。二~三ヶ月ごとに季節が変わる。ただ、氷の節と思われる時期でもこの泉が凍っているのを見たことはない。今は花の節でタイミングが良かった。……痛みはないか? 加減ができなかった」
「だ、大丈夫だよ。怠さとかも、全然ないし」
「そろそろ戻らねばならん時刻だが、動けそうか?」
「ええと……どこも痛くは、ないんだけど。……足が」
「立てそうにないか」
「ウン……って、なんでそこで嬉しそうな表情するの」
「気のせいだろう。気持ちが良かったか?」
「~~~い、言わせるなってば! オスカーこそどうなんだよ?」
勢いで訊いてみれば、耳をぱくりと甘噛みし。
「最高だった。我を忘れるぐらいに」
撃沈した。
うーうー呻く悠真を笑いながら抱き上げ、オスカーは水中との重力差などものともせずに草地へ上がり、手ごろな岩に座らせた。放り出していた荷の中から、オカリナに似た形状の魔道具を取り出し、魔力を流す。
悠真が心の中でドライヤーもどきと呼んでいる魔道具だ。ドライヤーよりも温風の包み込む範囲が広く、体表の水分を短時間で乾かしてくれる。
難点は、服や革製品に染み込んだ内側の水分はなかなか乾かせない。これは身体を乾かす際に、カサカサしわしわのミイラにならないよう設計されているからだ。
終始ご機嫌のオスカーに服を元通りに着せ付けられ、《ラディウス》に―――姿が見えないと思っていたら一時的に影へ戻していたようだ―――横抱きで乗せられた。
(これ、帰ったら、みんなの顔に副音声が視えるパターンだな……ふふ)
悠真は悟りを開いた表情でオスカーにもたれかかった。
館に戻ってみれば、リアムから手紙が届いていた。
あなたにおすすめの小説
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★