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番外・後日談
ファーデンにご招待 (1)
前々からずっとやりたいと思い描きつつ、なかなか実現できなかったことがある。
母上様とアデリナお姉様、女性陣をファーデンにご招待することだ。
あの土地は陸の孤島めいた場所にあり、道中に貴婦人を泊められる宿泊施設などもなかった。
まずは環境をどうにかせねばならず、道を整備して宿泊所を増やし、別荘を増設。
それとファーデンの門だけでなく、そこへ至る手前の道の入り口にも、新たに検問所を設けていた。
ムスター領の重要性が増し、騎士団養成所の重要度も上がったからだ。
それらがやっと整ったのは数年前。
俺が子供の頃に初めて任された領地の、さまざまな成果を初めてご覧いただくことができる!
――ようになったのはいいんだが、その時点ではどちらの家も子供が小さすぎて、長旅ができなかったのだ。
俺とエアハルトが国のトップの一角になったことで、スケジュールのすり合わせも難しかった。エアハルトだけポツンと留守番させるのは可哀想だしな。
しかし先日、やっともろもろの調整ができて、皆で一緒に行けるようになったのだ!
俺とリシェルとサシャとフェリクス、侍従のカイとノア。
エアハルトとお姉様と双子、双子達の世話係になった乳母。
母上様とついでにヨハン。
もちろんミッテちゃんも一緒だ。
お姉様達が我が家に到着したら、一緒に出発する予定である。
「向こうに持って行きたい物はメイド達に言ったか?」
「はい、父さま。フェリクスもじゅんびできました!」
サシャは四歳になった。今年の誕生日で五歳になる。
フェリクスは三歳。兄と手を繋ぎ、「できました」と笑顔で答えた。
次男フェリクスはサシャと同様、髪の色も顔立ちもリシェルによく似ている。
瞳の色は違っていて、リシェルと俺の瞳の色を混ぜた青緑色だった。
予想通り兄に懐きまくり、いつも一緒にいる。二人が手を繋いでとてとて、ちょこちょこ廊下を歩く姿は、通りかかった使用人すべてに天使浴のヒーリング効果をもたらしていた。
小さい生き物って、なんかそれだけでパワーあるよな。
そこにミッテちゃんを投入したら完璧だぜ。
「ランハート、わたしの準備もできたよ。先ほどお義母様とお義父様のお部屋に伺ったら、もうすぐ終わるって」
「父様の画材選びだろう」
「当たり」
リシェルは苦笑した。
準備万端な母上様が遅れるはずもなし。なのにまだ玄関に来ていないということは、ヨハンの奴が直前になって向こうに持って行く画材を追加したがり、母上様が何やってんだおまえはと呆れつつ待ってやっているんだろうな。
俺の肩の上でミッテちゃんがピヨと頷き、「当たりですね」と教えてくれた。
「ヨハンの注文していた絵筆や画布などが、たまたま昨夜のうちに届いていたようです。これまで使用したことのない物ばかりだったようで、どうしても持って行きたいようですね」
ったく……遠足当日の朝に親をバタバタさせる子供かよ。サシャとフェリクスでさえ、もういつでも行ける状態なんだぞ。
つうか誰だ、こんな出かけ間際にそんなエサをヨハンの前にぶらつかせた奴は。こうなるのはわかりきってたろ。
「ヨハンに直接それを伝えたのではなく、使用人同士の報告が彼の耳に入ってしまったみたいですよ」
あ、そうなん?
通りすがりの事故か、なら仕方がない。
だがこのパターン、「もう少し」が「もうちょっと」になって「あとこれだけ」になっていくんだよな。
母上様も早よせんかいとプレッシャーかけてくれているはずだが、昔のあいつのやらかしみたいに危機感の必要な案件ではないから、厳しく言いにくいところかもしれない。
芸術家のこだわりって、俺も母上様もよくわからんし。
ん~……
俺はこちらを見上げる子供達の視線に気付き、ゆっくりと二人の前にしゃがんだ。
「サシャ、フェリクス。おまえ達に任務を与える」
「にんむ?」
「にんむ?」
うおっ、同時に小首を傾げてハモっただと!?
見えない衝撃派がどぅん! と胸をぶち抜いていった気がするぜ……ここでバランス崩して尻餅をついたら、末代まで語り継がれる恥だ。
いや末代はどうでもいいが、目の前の我が子二人に無様な姿を見せ、「とうさまダサい」と幻滅されることだけは避けねば。
「うむ。お祖父様のお部屋に行き、こう言うんだ。『お祖父様、ご準備はいかがですか?』と。――言えるか?」
「はい! 『おじいさま、ごじゅんびはいかがですか』」
「おじーたま、ごじゅんびいかがですか」
「よし。では行ってこい」
「かしこまりました!」
「かしこまりました!」
うおおああかわええぇ……!
手を繋いだ二人の背に一応「走るなよ~」と声をかけておいたが、任務を与えられた彼らは見るからに足元が弾み、心持ち早足になっていた。
メイド達が何人も傍に付いているから、転ぶ心配はないだろうが……ちらっと見えた彼女らの表情が必死で何かをこらえていたぞ。プロ意識で集中力を保っているようだ。
あ、リシェルが口元と胸を押さえて悶絶している。
俺も似たような状態になっていそうだな。
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読みに来てくださってありがとうございます!
双子のお子様達との交流が増えるので何話になるか読めないんですが、(3)ぐらいになるかな? と思ってます。
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