どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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番外・後日談

ファーデンにご招待 (2)


 孫天使達による「ご準備いかがですか」攻撃は、無事ヨハンのハートにズドンと直撃。
 さらに、奴に危機感を覚えさせることにも成功したようだ。
 小さな二人でさえとっくに準備万端だっていうのに、模範を示すべき年長者が出発間際にああだこうだとグズグズしているのって、普通に情けないよな?
 孫達に幻滅されたくない一心で、そこからは「もうあれでいいや!」とばかりに、勘と勢いで持って行く物を決め始めたらしい。
 お祖母様から「よくやりましたね、おまえ達」とお褒めの言葉をいただいたようで、サシャもフェリクスも嬉しそうだ。

「父さま、にんむかんりょーいたしました!」
「かんりょー、ました!」
「うむ、よくやったぞ」

 俺も二人を褒めてやり、玄関ホールに運び込まれているソファに座らせ、ふと思いついてサシャの膝にミッテちゃんをちょこんと置いた。
 ミッテちゃんはゴマ粒のように小さな目で兄弟を見上げながら、頭を右へひょこり、左へひょこり。
 サシャとフェリクスもつられて頭をひょこり、ひょこりと……ちょ、やめなさいきみたち。永遠に出発したくなくなっちゃうでしょ。続きはファーデンに到着してからやってくれ。

 何気なく投下したヒヨコを己の手元に回収すべきか悩みかけた頃、ヨハンが情けない苦笑いを浮かべ、母上様と一緒に玄関ホールに現れた。
 ヨハンが遅くなったことを俺達に侘びたのと、お姉様達の到着が告げられたのは、ほぼ同時だ。



 当然ながらレーツェル一家のほうが早い時間に起きて準備しているので、彼らがムスター邸に着いてすぐ出発するのは、エアハルトはともかくお姉様と双子達が疲れてしまう。
 だから玄関ホールに軽食を用意し、休憩してもらってから出発しようという予定になっていたのだ。
 ヨハンがもっとグズグズしていたら、お姉様達との食事タイムに間に合わなかったかもしれないんだよ。自分の住んでる家の中で遅刻するとか、恥ずかしいなんてもんじゃねぇわ。

「サシャ、フェリクス、おはよう!」
「おはようございます、あいたかったですわ!」

 年々ちょっとずつ大きくなる双子が、うちの子供達の姿を認めて満面の笑みを浮かべた。
 二人とも五歳、一月生まれだから六歳の誕生日はまだまだ先だ。 

 双子兄の名はコンラート。エアハルトそっくりの黒髪と金の瞳を持ち、将来は父親並みのイケメンに育ちそうな気配のある綺麗な子だ。
 双子妹の名はフレデリカ。こちらも父親似の黒髪なんだが、瞳はアデリナお姉様に似た水色で、将来とてつもない美女に育ちそうな女の子。
 今はどちらも小っさくて可愛いんだけどね。なんたって五歳だし。

「コンラート兄さま、フレデリカ姉さま、いらっしゃいませ!」
「ませ~!」

 大好きな年上のいとこ達の登場に、サシャとフェリクスは大はしゃぎで駆け寄った。
 挨拶を交わすなり四人くっついて、笑いながらもきゅもきゅわちゃわちゃし始める。
 ちっこい天使ダンゴ……いつまでも眺めていられるな、これ。
 でもすげぇ残念だけど時間は無限じゃないんだ、きみ達。続きはファーデンに到着してからやってくれ。

 子供達は子供達のテーブルに、大人達は大人達のテーブルに分かれて喋りながら、食べ物と飲み物を腹に入れた。
 大人は今後の予定やもろもろ話し合わなきゃいけないことがあるからな。子供も交えて食事をすると、どうしてもそちらに意識が引き寄せられて、話が進まなくなっちまうんだよ。
 皆でゆっくり食事を楽しむのも、すべては向こうに着いてからだ。



   ■  ■  ■ 



 子供達が一緒の馬車に乗りたいと可愛い駄々をこねたこと以外は、特に問題らしい問題も起こらず、順調に道のりが消化された。
 五歳以下の子供四人に対し、大人が一人か二人しか付いていられない状況は、いくらなんでもダメだからね。可哀想だけどこの機会に、この子達には我慢というものを学んでもらうことにした。

「ファーデンに着いたら、兄様と姉様にたくさん遊んでもらいなさい」
「はぁい……」

 リシェルになだめられ、サシャはしょぼんとしつつ、おとなしく我が儘を引っ込めた。
 そんな兄の様子を見て、フェリクスも残念そうな顔で引っ込める。
 二人とも、ものっすごく頭を撫でてぎゅうぎゅう抱きしめて褒めまくってやりたいが、ここは俺も我慢だ。
 甘やかし過ぎて本物の我が儘公子に育ってしまったら、将来困るのはこの子達だからな。ちゃんといい子にしていられたら、その時こそ褒めてやらなければ。

 自他ともに認める親バカとしては、褒め我慢ってつらい。
 リシェルがずっとこっちを見てにこにこ笑っているんだけど、どう考えても完全に見透かされている。

 そんな感じで、待ちに待ったファーデンに到着した。
 俺達は三台の馬車に分かれていて、一台目は俺とリシェルと子供達、二台目はレーツェル一家、三台目は母上様とヨハンが乗っている。
 この土地が昔とどう違っているのか、手前の検問所から説明してあげたいところなんだが、このあと大人同士で話す時間を作ることになるので、その時の楽しみにしておこう。

「お義父とう様はともかく、お義母かあ様はきっと驚いているだろうね。昔はここまで厳重ではなかったもの」
「そうだな。直接足を運んだことはなくとも、僕がここを任された当時の状況は、提出した報告書に細かく書いてあったし」

 話をしている間に、とうとう門が見えてきた。

「ふふ……嬉しいな。わたしもここに来るのは久しぶりだ」

 リシェルがほぅ、と嬉しそうに溜め息をついた。

「前回来られたのはだいぶ前だったものな。僕も早く来たかったよ」
「うん。それにここはランハートと一緒に遠出をした、初めての土地だからね。あの頃のわたしは、きみの視察の時には置いていかれると思っていたから、連れて行ってもらえるとわかってとても嬉しかったんだ」

 リシェル……そんなことを言いながらふわりと微笑まれたら、これでもかと抱きしめてキスをしたくなるじゃないか。
 だがしかし今は家族旅行中。同じ馬車の中、俺達の隣の座席には、パパとママの様子をじーっと見つめる子供達がいる。
 我慢だ、俺。




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 読みに来てくださってありがとうございます!
 (3)話までかな~と言っていましたが、長くなりました(汗)
 どう考えてもあと1話では終わらない……。

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