どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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番外・後日談

ファーデンにご招待 (3)


 俺達の馬車が見えてきたあたりから、ファーデンの長の一家が出迎えのために待機してくれていたようだ。
 それからファーデンの守護を担う騎士団員と、騎士団養成所の所長の姿もある。
 彼らだけでなく、集落のあちこちから手の空いている人々が集まり、道の両脇で人だかりを作っていた。のんびりした田舎なのに、よくぞこれほどといった人数である。
 農民や職人だけでなく、騎士団の見習いらしき少年達の姿もあって、どれも俺達に好意的な表情だ。

 俺とリシェルだけであれば、この時点で馬車から降りているんだが、母上様やお姉様を長の家まで歩かせるのは、いくら舗装している道であっても少しばかり遠い。
 何より、目を離したら飛んでいきそうな年頃のお子様が四人もいる。
 いつも聞き分けのいい子達なんだが、初めて訪れた土地で委縮するのか、逆にハッスルするのかがまだ読めていなかった。
 飛び出し防止要員の使用人にも周りを歩いてもらうとなると、護衛騎士も含めてそこそこの大行列になってしまう。
 そういったもろもろを考え、今回は窓から出迎えの挨拶を受け、そのあとはロイヤルファミリー方式で行くことにした。

「サシャ、フェリクス、手を振ってあげてごらん」

 思えばまだ視察にも連れて行ったことがなく、この子達にとって初めて目にする領民の姿だ。
 二人ともよくわからない様子で、馬車の中から手を振ってやると、途端に民がドッと湧いて面食らっていた。

「可愛らしい……!」
「ようこそ、サシャ坊ちゃま、フェリクス坊ちゃま!」
「ごらんよ、綺麗なお子様達だねえ。リシェル様によく似ておいでだ」
「どうぞゆっくりなさっていってください!」

 びっくりしつつも大歓迎されているのはわかったのか、二人は嬉しそうに頬を紅潮させ、今度は先ほどよりも大きく手を振り始めた。
 お姉様の馬車でも、一家が俺達の真似をしたのか、領民達はそちらにも黄色い歓声を上げている。

「アデリナ様~!」
「わぁ、旦那様とってもかっこいい御方ねぇ!」
「お子様達も可愛い……!」

 さすがに母上様達は自重したみたいだな。母上様は遠慮なく振ってくれていいんだけど、今まであまりそういうことをしてこなかったから、今さら自分のやり方を変えるのは気恥ずかしいと感じるのかもしれない。
 それに母上様が手を振ると、ヨハンもそうしないといけない空気になる。
 ここで歓声を浴びても、あいつにとっては複雑な気分にしかならないだろうな。

 ファーデンへの支援が絶えた理由として、俺は『今のムスター家』に対する民衆の悪感情を避けるために、亡きヒルダが邪魔をしたせいでヨハンへの継承が絶えてしまったと広めさせていた。
 知らなかったのだから、助けに来られなかったのは仕方がない。ファーデンの民は前当主のヨハンのことをそう認識し、特に思うところはないようだ。

 今のヨハンがそれを「仕方ないことだった」と考えることはなく、己にそそがれる歓声を耳にして、のほほんと「僕は人気者だなぁ」なんてほざくこともない。そう確信できるようになったからこそ、俺は奴も今回の旅行に連れて来た。
 旅行は旅行でも、子供達にとっては人生初の視察みたいなもので、ヨハンにも同じことが言える。
 彼らにとっては、良い学びの機会になるだろう。

「にいたま。ひと、いっぱい!」
「そうだね、いっぱいいるね」
「みんな、にこにこしてゆ。にいたまと、ふぇりくす、しゅき?」
「そうだね。みんな、ようこそって言ってくれてるよ」

 同じ窓の前でぎゅうぎゅうくっつきながら手を振る兄弟に、外の人々はますます熱狂。
 そう簡単に落ちるような窓ではないけれど、俺とリシェルは二人が転ばないよう片手で支え、目を見合わせて笑った。



 長の家は昔のボロ屋から改築し、以前の素朴さを残しつつ、だいぶ綺麗な建物になっている。
 広い庭の周りにも大勢の村人が集まっていて、俺達の邪魔にならないように移動してくれた。
 馬車が停まると、先に使用人達が降り、続いて俺達も順番に降りる。
 母上様やお姉様の姿を目にした人々が、ひゅっと息を呑んでいるのが見ものだった。シンプルな旅装とはいえ、品よく美しいドレスを身に纏った貴婦人を初めて目にして、彼女達の美しさに圧倒されているのだろう。
 ずらりと並んだ長の一家も、二人の貴婦人の姿に陶然としていた。

「出迎え、痛み入る。おまえ達がみな息災のようで重畳だ」

 俺は内心で鼻高々になりつつ、表面上澄ました顔で出迎えに礼を言い、うちの子とお姉様一家と母上様夫婦のことを紹介し、村人達の頑張りをねぎらった。

「も、もったいないお言葉にございます!」

 長がまずハッと我に返り、次いで一家全員が頭を下げた。こちらも結構な大家族だな。
 引退した元長の爺さんはすっかり髪が白くなり、杖を突きながら孫の青年に支えられていた。
 その姿に懐かしさと切なさを覚えつつ、俺は孫の隣に立つ騎士にちらりと目をやった。彼はファーデンを守る騎士団の一員であり、数年前に元長の孫と結婚をしたのである。
 元長の孫はフェーミナ。今も夫夫ふうふ仲は良さそうで、それだけで親近感が湧くな。

 今回は俺達も大家族で来るので、長の家に宿泊はせず、別荘に泊まるとあらかじめ伝えていた。
 その代わりに昼メシはここでご馳走になり、ついでにファーデンが初めての面々に、ここの昔話を聞かせてあげることになっている。
 やっぱり視察かと言われそうだが、少なくとも母上様とお姉様は確実にそういう話を喜んでくれるし、勤勉なエアハルトもその手の話は大好きだ。
 心配なのが子供達の反応だけで、理解できない話が続くと、飽きて嫌になるかもしれない。

「父さま、ここでおしょくじをするのですか?」
「そうだよ。民が普通に食べていて、おまえ達が今まで食べたことのない料理が出る」

 要は民の家庭料理だ。ただしかなり前から食事情が改善されているので、贅を尽くしたものでなくとも、普通に美味しい料理が出る。
 それに子供達は年齢的に食べられる量や味付けが限定され、大人ほど舌が肥えていない。
 こんなマズイもの食えるか! と失礼な態度を取りかねないのは、もっと年齢の行った貴族の子だ。
 我が家もお姉様の一家も、大人含めてそういう態度を取る奴はいないから、どっちにしろ大丈夫なのである。

「にいたま、おしょくじ?」
「うん、ここでおしょくじをいただくんだって」
「すわるところはいっしょがいいな。父さま、サシャとフェリクスといっしょにすわっていいですか?」
「わたくしもいっしょがいいわ」

 エアハルトが俺に目で尋ねてきたので、大丈夫ですよと頷いてやった。
 アットホームな歓迎会だから、席順なんて全然気にしなくていいよー。
 俺の答えにホッとし、エアハルトは「いいぞ」と答えてあげていた。

「やった!」
「二人とも、わたくしたちといっしょにすわりましょうね!」

 子供達がきゃっきゃと笑い合う光景に、長の一家も皆、ほわほわと相好を崩していた。


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