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番外・後日談
ファーデンにご招待 (4)
長の家の宴会場は、さながら古民家レストランだ。
人数が人数なので複数のテーブルを繋げ、俺達用の島と、長の家族用の島に分かれて座った。
子供達は望み通り、一緒に並んで座っている。誰が誰の隣かということで一悶着あったのだが、結局はコンラート、サシャ、フェリクス、フレデリカという順になった。
というのも、四人とも全員の隣に座りたがり、それは不可能だと悟るのに少々時間がかかった模様。
そこで「左右どちらも誰かの隣になる席」を、双子達がお兄さんお姉さんとしてうちの子達に譲ってくれた結果、両脇に座るという流れになったのである。
おまえら、ものっっすごく真剣な顔で、なんつう会議してるんだよ……なんでこの世には動画撮影機能がねぇんだ。
ホームビデオ撮りてぇ……!
「父さま母さま、このおりょうり、おいしいです!」
「おいち!」
「そうだろう」
「素朴だけれど、だからこそ味の良さがはっきりしているよね」
俺達の向かいの席で、子供達が初めて見る料理を口に運ぶなり歓声を上げた。
それを聞いて長の家族も、ほくほく嬉しそうにしている。
リシェルの感想の通り、味付けは至ってシンプルな塩味だけなんだが、その塩がうまい。良質な岩塩の産地だから、平民の食卓であっても普段から塩を使えるという強みがある。
毎日使っているうちに適量がわかってくるし、野菜と鳥肉を鍋に入れて一緒にことこと煮込むだけでも、かなり美味しく仕上がっていた。
つうかこの魚も、川魚に塩をまぶして炭火で焼いただけなのに、マジでめっちゃうまいわ。
女性と子供の塩分が過剰にならないよう、全体的に塩は控えめ。
だけど水質がいいからか、香草を使わずとも変な臭みはなく、薄味でも魚自体の旨味で充分に食える。表面はパリッと、中はほろほろ・とろとろ・しっとりが調和した食感も最高だ。
「これはとても美味ですね。我が家のメニューに加えたいぐらいです」
「本当だね。ランハート、これは我が家では難しいのかな?」
母上様とヨハンが、すっかり魚のとりこになっている。
この中で一番舌が肥えている二人が太鼓判を押すぐらいだから、長の一家はうちの厨房で働けるぞ……と言いたいところなんだが。
「残念ながら難しいんですよ。この魚はファーデンの清流に生息している種類だからこそ、臭みもクセもないのです。鮮度の問題もありますし、我が家の食卓にこれと同じ料理を並べることはできません」
うちで出る魚料理は、香草で臭みを取ったり、しっかり味付けをしているものばかりだからな。このへんの事情はレーツェル家でも同じだ。
「なるほど。この土地ならではの特別なお料理ということですか」
無理という答えに母上様はむしろ満足し、ヨハンもどことなく楽しそうだ。
すると子供達が、何やら長の一家のテーブルに注目している。
あ……川魚の塩焼き、あっちは串焼きのまんまでガブリといってるな。
でもね~、俺達はあれをやっちゃいけないんだよ~。真似しちゃダメだよ~?
「父さま」
「とーたま」
「おじさま」
「おじさま」
子供達が俺に向き直り、ジー……と上目遣いでお伺いを立ててくる。
「ダメ」
俺は笑顔で一刀両断してやった。そんな可愛い視線で見上げてきてもダメなもんはダメです!
ぶっちゃけ、俺とリシェルしかいない時は、串のまんまかぶりついて食べているというのは内緒なのだ。カイとノアがそのたびに頭痛そうにしているのもね。
俺達の給仕をしている二人がジト目になっている気がするけれど、そっちは見ないことにするよ。
リシェルは素知らぬ顔で上品にナイフとフォークをあやつり、骨から身を外していた。
ちなみにこれは子供達にはまだ無理だったので、それぞれの親が外してやることになった。
堅苦しい家で育った貴族代表のエアハルトは、こういう作業を面倒がるかなと思いきや、案外楽しそうだった。
普通は料理人か使用人にやらせるもので、親がわざわざ身をほぐして子供に与えるというのは、どこの家でもやらないものなんだよ。
コンラートやフレデリカにとっても、父親のエアハルトがそうしてくれるのは初めてだったのか、親子揃って新鮮で楽しい体験になったようだ。
ミッテちゃんも粟とパンくずの入ったお皿をつつつんとつついてご機嫌である。ここはパンもうまいからな。
あとで赤い実も食べさせてあげよう。
お腹が満ちると、食後のお茶と干し甘イモを出してくれた。サツマイモみたいな味で、少量の水分でやわらかく煮込んだあと、蜂蜜をかけるという簡単なデザートだ。
子供達はこれも大喜び。
それから元長の爺さんが、孫息子に茶を淹れてもらいながら、懐かしい昔話を聞かせてくれた。
俺達と出会った頃、このファーデンがどんな有様だったのか。
俺とリシェルがどこにどんな手を入れて、そこからどんな風に回復していったのか。
詳細な報告書でそこそこ把握していた母上様だったが、現地の住民の話には興味深げに聞き入っていた。
お姉様とエアハルトも母上様と似通った表情で耳を傾け、特にエアハルトは真面目そうな中にうきうきとした様子を滲ませ、何度も質問を挟んでくる。
ヨハンの表情だけはやや硬めだったものの、それでもちゃんと聞く姿勢は保っていた。
なんだかんだで、こいつもこの地がどうなっているのか気にしていたのだ。
子供達はこういう話って退屈かな? と思いきや、意外とそうでもなかった。
民の話を生で聞く機会がこれまでなかったので、とにかく何もかもが珍しく、びっくりすることだらけだったらしい。
このファーデンは領内でも特殊な環境とはいえ、それでも俺達より普通の民に近いから、勉強になるだろう。
そして彼らの話の中で、子供達が特に食いついたのはハンモックだった。
「父さま」
「とーたま」
「おじさま」
「おじさま……」
上目遣い攻撃かける四、第二弾!
長の一家に礼を言って別荘に移動すると、それぞれの部屋に案内し、最後に人数分のハンモックを運び込ませた。
こんなこともあろうかと、どの個室もたっぷり広さを取り、ちゃんと設置できるようにしてあったからな。
使い方と注意事項を説明し、大人の見ていない場所では絶対ダメと子供達に言い聞かせ、使用後は必ず片付けさせるよう使用人達に厳命した。
母上様とお姉様はドレスがめくれてしまうといけないので、あとで楽しんでもらう。そもそもこれは簡易『寝台』であり、貴婦人は人前で寝転がっているところなど見せてはいけないのだ。
もちろん、寝室にはちゃんとベッドがあるぞ。夜はそちらで寝てもらうようにお願いしてある。
まずは見本としてサシャの部屋に用意すると、子供達はすっかり夢中になり、四人できゃっきゃと楽しみ始めた。
そのうち長旅と満腹と遊び疲れのトリプル攻撃が効いてきたのか、ほぼ四人同時にすやすや寝息を立て始め……
「父様」
俺は小声でヨハンを呼び、書き物をするジェスチャーをしてみせた。
「あ……!」
奴は瞬時に察したようだ。
そうそう。せっかくスケッチ用の道具をぎりぎりまで選んでたんだから、きっちり活用しろよ?
「義父上。私達にも一枚お願いいたします」
「お父様、お願い」
「……っ!」
ヨハンは奴らしからぬ力強さで頷き、猛然と全員分の絵を描き上げたのだった。
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