どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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番外・後日談

ファーデンにご招待 (8)


 俺達だけで勝手に予定をずらすわけにもいかず、なんとか寝坊せずに起きたはいいけれど、案の定リシェルの目元には昨夜の名残がしっかりと残ってしまっていた。

「うう……わたしって……恥ずかしい……」

 結果だけ見れば、ねだったのはリシェルということになるもんな、昨夜のあれ。
 真っ赤になって身をよじるおまえは色っぽくて可愛かったよ、もちろん今も最高に可愛いぞ――なんて余計なトドメは刺さず、俺はただポンポンとリシェルの背中を叩いてやった。

「大丈夫、堂々としていれば案外何とでもなるものだよ」
「半分はランハートのせいだからね!? あんなっ……」
「うん、ごめん。反省しております」

 大丈夫大丈夫、俺達はこんなもんだと皆わかってくれてるから。多分。
 ねたおまえも可愛いよと懲りずに見惚れつつ、リシェルの機嫌を取りながら一緒に子供達を迎えに行った。
 サシャとフェリクスは俺達の元に駆け寄ろうとして、リシェルの顔を見るなりパチリと目を見開く。

「お母さま……おかぜ?」
「おとーたま、けんか?」
「ち、違うよ! これはね、ついランハートと昔のお話をしてしまって……うっかり夜更かしをしてしまったんだ」
「そうだぞ、風邪ではないし喧嘩でもない。父様と母様がたくさんをしただけだ」

 うおっふ! 今の肘鉄はなかなか鋭かったなリシェル!
 しかしこれ以上はこの子達に誤解させてしまうから、一撃で許してくれ。

 そんな微笑ましい朝の挨拶を交わしつつ、俺達は家族揃って食堂に行き、先に着いていた母上様とヨハンにも挨拶をしたわけだが……おやぁ?
 アデリナお姉様の目元が、何やら少々腫れておりませんかね?

「おかぜではありませんよ! お父さまとお母さま、子どものころがなつかしくなって昔話をたくさんしたんですって」
「それでつい夜ふかしをしてしまったのですわ」

 ……へえー、そうなんだ。キグウダナ~。一緒に夜更かしをしたはずなのに、俺とエアハルトはいつもと変わりないってところも奇遇だね~。
 双子達のフォローにアデリナお姉様は赤面し、エアハルトは何やら咳払いをしている。
 さすがにヨハンも察したのか、赤くなって言葉を探していた。いや、無理に喋らなくていいから。
 
「父さま母さまとおなじだね、フェリクス」
「ん、おなじ。おはなし、なかよし」
「そうなのか?」
「そうなんですの?」
「――サシャ、フェリクス、それはいいですから椅子に座りなさい。コンラート、フレデリカ、おまえ達もですよ」

 救世主母上様の一声のおかげで、子供達の無自覚攻撃がそれ以上繰り出されることはなかった。
 それぞれいい子の返事をして席につき、どこからともなく安堵の溜め息が複数聞こえてくる。
 リシェルやお姉様は、母上様に感謝と尊敬の念を込めた視線を送っていた。
 



 その後は主に母上様のおかげで、特にヒヤリとする展開にはならず、俺達は工房で飾りのパーツを物色した。
 金細工や銀細工のパーツが前よりも増えていて、女性達だけでなく男達にとっても気になる物がいくつもあった。

 母上様とアデリナお姉様は好みのデザインを見つけたらしく、二人ともお揃いのネックレスとブレスレットに決めた。
 そして今回は石の角を取らず、元の形をそのまま活かしたアクセサリーにするそうだ。

 角と言っても、そこまで尖ってはいない。
 川の石は通常、下流になるほど削られて丸くなるもので、ファーデンの川では丸い石をよく見かけた。けれど上流に位置するグランツの湖は、水中で研磨される要素がないのに、何故か自然と丸くなっている。
 多少いびつな形はあっても、角の部分が丸いので刺さらない。だから俺達は裸足で入ることができていたわけだ。
 よく考えれば不思議な話なんだが、皆はそういうものだと思い、深く考えることはしない。
 そこでミッテちゃんが肩でピヨリと鳴き、俺の頬をてふてふ叩いた。

「私と同じですよ。私が何年ヒヨコでも、誰も気にしていないでしょう?」

 ああ、そういう影響力があるわけね? なるほど。
 こっそり納得していると、リシェルの声が耳に入った。

「サシャ、それが気になる?」
「お母さま。これ、お母さまのかざりににてるの」
「本当だね。この銀細工、羽根の形みたいだ。サシャのに一枚つけてもらおうか」
「わぁい!」

 サシャの、首輪の飾りのことだ。
 リシェルと同じ細い黒革で、中央の一部分だけが銀の編み込みみたいな飾りになっている。
 まだ小さいから装飾は控えめで、白金ではなく銀を使っているのだ。

 リシェルはコインの中央にヒヨコを掘ったみたいな銀細工と、自分の飾りに似た羽根のパーツを首輪に組み込むよう注文し、予備のお子様用首輪を渡していた。
 いつもつけているやつを外すわけにはいかないからな。

 その日も俺達はあちこちを見て回り、視察三割、遊び七割ぐらいの割合で、みな大満足だった。

 そうして一日が過ぎ、さらに翌日、俺達は帰る準備を始めることになった。
 子供達は同じ馬車で帰りたがり、子供だけで乗っちゃいけませんと納得させるのが大変だったな。

 注文していた細工も、職人達が特急で仕上げてくれたので、帰り支度を終える頃には受け取ることができた。
 サシャの首輪も、中央の編み込み細工に銀のヒヨココインが追加され、コインの下に銀の羽根がひらひら揺れるものに変わっている。

「よく似合うぞ」
「可愛いよ、サシャ」
「にいたま、かぁい!」

 家族みんなから褒められて、にこにこ照れ照れする我が子、むっちゃ可愛いわ。

「ところでランハート。それ、お義父とう様のスケッチ用ノートだよね?」
「そう。馬車の中で見ると酔うかもしれないから、今のうちにな」

 もうすぐ馬車の準備も完了し、俺達は村長一家と挨拶をして乗り込むことになる。それまでの短い時間、ヨハンがどんなものを描いたのか見せてもらうことにしたのだ。
 それはもう大量に描いたそうで、途中の休憩時間にも見ようと思っている。

 やっぱり孫が多い。それから母上様は意外と少ないようでいて、実は母上様専用スケッチブックが別にあることを俺は知っている。

 ぱらり、ぱらりとめくりながら、意外な絵をいくつも見つけた。
 それはファーデンの人々の絵だ。楽しそうな民の表情。笑い合う彼らの表情。
 あたたかみのある幸福を描いた絵。
 民の姿を目の当たりにして感じるところがあり、描かずにはいられなかったのだろうな。

 出発の準備が整ったと呼ぶ声が聞こえ、俺は笑みを唇に乗せつつ、スケッチブックを閉じた。



   ■  ■  ■ 



 数ヶ月後。
 ムスター家とレーツェル家の双方で、ほぼ同時に『三人目』の報が飛び交った。
 それ以降、何故か俺とエアハルトが密かに『似たもの兄弟』と呼ばれるようになったとかならなかったとか。




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 読んでくださってありがとうございます!
 最初「3話までかな~」と言っていたのは誰だったか……全8話となりました(汗)

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