どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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番外・後日談

Xmasコラボ企画☆『巻き戻り令息』と不思議な本 (3)


 読みに来てくださってありがとうございます!

 ※「巻き戻り令息の脱・悪役計画」の主人公達が登場いたします。
  そちらを未読の方はご注意くださいませ!

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 その後、目を開けたらこの場所にいたわけである。
 先にあちらの二人から簡単に経緯を聞いたら、俺達と近い状況だったのがわかった。

「我々のいた国には王立図書館があり、その中に一部の方々を除いて利用不可とされる場所があってな。先日国王陛下から、私達二人は事前申請せずとも自由に見て構わないという権利をたまわったのだ」
「正確には、権利をたまわったのは閣下です。私は閣下に同行している時のみ利用が許されました」

 緋色の髪の青年はオルフェオ殿、焦げ茶の髪の男はアレッシオ殿と名乗った。
 俺達の世界とあまり変わらない身分制度があるようで、前者は侯爵、後者は準男爵。どんな紆余曲折があったのか、アレッシオ殿はオルフェオ殿の執事で側近で伴侶なんだってさ。

「やっぱり伴侶だったか。さっきの会話でピンときたよ」

 何せ俺の中ですっかり成長し、今じゃヌシの風格を漂わせている独占欲さんが、アレッシオ殿の中にお友達の気配を嗅ぎ取っていたもんで。

「そちらもそうなのではないか? だから隠さなくとも良いだろうと思ったのだ」

 オルフェオ殿の口調は冷静そのものだったけれど、アレッシオ殿の優しい視線に気まずそうな顔をして、手の中の子猫をなでなでなで。
 ……もしやこれは照れている?

「そのようですね」

 ピヨ、と頷くミッテちゃん。
 そこで子猫が「みゅ!」と抗議した。

「勝手にペラペラ教えるもんじゃないぞ。ホント天使ってそーゆーとこ、ルール無用でモラルがないんだよにゃ」
「なっ!? あ、悪魔に倫理観など語られたくはありませんよっ!」

 へえ。あちらは悪魔だったのか。
 再び勃発ぼっぱつしたピヨちゃんとにゃんこの戦いに、俺以外の三人が怪訝けげんそうにしている。
 俺はお上品に沈黙を選んだ。この戦い、微妙に正義がにゃんこ側にあるよね。
 そんな悪魔にゃんこの名前はアムレート。ミッテちゃんと同じく心が読めて、俺達の事情も筒抜けだった。

「別に僕らの心を読んで彼らに教えてあげてもいいんだよ? 僕らもミッテちゃんに読んだ内容を教えてもらうから」

 ごくふつーの交換条件だよ~、とにっこり笑顔を添えて伝えたら、アレッシオ殿がスッとオルフェオ殿の前に立った。
 おっと失敬、スマイルが過剰だったようだ。オルフェオ殿の顔がちょっぴり引きつっている。

「……にゃんかコイツ、やっぱ同族っぽい……?」
「世の中には気のせいという現象があるのです……!」

 そんなことがありつつ、俺達の経緯も説明した。
 ついでに俺が別世界からの転生者であることもさらっと話す。もちろんゲームのことは抜きにしてね。
 だってこちらにはヒヨコがいて、あちらには子猫がいるんだもん。何かしら背景持ちだっていうのは察しがつくさ。
 そうしたら案の定だった。俺と違い、オルフェオ殿は転生じゃないみたいだけどね。

「いろいろあって、僕の身分は大公。僕らの国では『王』にあたる。リシェルは僕の妻、大公妃だよ」
「大公妃……」

 彼らは僕とリシェルの顔を見比べている。
 もっと驚くかと思ったけれど、そこまで動揺はしていないようだ。
 二人とも感情のコントロールが抜群なんだな。

「いえ、ランハート。彼らは制御が完璧なのであって、実際はかなり動揺しております。あなたが強権を振るってリシェルを強引に妻にしたのでは、と疑われていますね」

 なんだとう? 俺そんな暴君じゃねえぞ!
 苦情を申し立てようとしたら、先にリシェルが「違うよ」と言ってくれた。

「わたしとランハートは幼い頃から婚約者だったんだ」
「婚約者……?」
「ご婚約、なさっていたのですか」
「うん。わたしが誰にも侮られないようにって、素晴らしい耳飾りと首輪を贈ってくれたんだよ」
「くびわ!?」
「首輪……!?」
「うん。……どうしたの?」

 いやぁははは、リシェル。どうしたもこうしたも。
 ソレは俺達の世界特有のアレであって――なんてこたぁわからんよな、当然だ。
 「おまえ自分の婚約者に首輪させやがったのか!?」みたいな視線が二人分突き刺さってくる。
 違うんですよ!! だけど俺の中でヌシの双璧をなす支配欲さんが「否定はせん」とかぬかしやがる!?

「みゅ。あのなオマエら、アイツらの世界にはフェーミナっていうのがあってだな……」

 子猫氏、俺達の世界の事情にも詳しかったようだ。
 そして語られる第二性の存在に、オルフェオ殿とアレッシオ殿はさすがに目を白黒させている。
 彼らの反応に、リシェルもリシェルで驚いていた。

「フェーミナがいない世界なんてあるの? どうしてなんだろう」
「……うん、どうしてだろうね?」

 俺らの世界側から見たら、そういう反応になるわな。
 子猫氏はうちのヒヨコに半眼を向け、ヒヨコは素知らぬ顔で「ピヨピピピ~」と鼻歌を歌っていた。

「オマエ、前と性格変わってね?」
「あなたこそ、随分とお変わりで」



 どうも俺達はそれぞれの世界で、文字通りを同じタイミングで目にしたらしい。
 オルフェオ殿が読んだタイトルも、『クリスマスパーティーの夜』だったそうだ。
 しかもこのタイトル、俺達がすっかり話せなくなっていたはずの前世の言葉である。

「私はそのタイトルを読めませんでした。閣下のお言葉を復唱することはできますが、意味は理解できません」
「わたしも同じだよ。聞き取れるけれど、耳馴染みのない単語だ」

 いわずもがな、『クリスマス』だ。
 ――俺もオルフェオ殿も、「そういえばちょうどその時期だな」と頭の片隅に置いていたタイミングで、あの本に触れたようだ。
 おまけにこの場所では、頭の中に概念として残っていた言葉が、すらすら口にできるようになっている。

「これはそういう『本』なのですよ」
「みゅ。ぶっちゃけ、僕の同族だ。つまり『悪魔の書』ってやつで、オマエらはみんな取り込まれちまったわけ」

 悪魔の書か。前世の黒歴史ライブラリの中に、そーゆーのが何冊か登場していた気がするな。

「帰宅予定がずれ込むと子供達が心配する。なるべく早く戻りたいんだけど」
「お子さんがいるのか、それは早く帰ってやらないとな。私もアレッシオと観劇の予定がある。公演時間までに帰ることはできそうか?」
「オマエら、ちょっと黙っててくれないかにゃ……?」
「お二人とも静かにしていましょうね? 話が進みませんよ」
「おっと、ごめんごめん」
「これは失礼」

 落ち着きのないアホの子みたいな俺にリシェルが苦笑し、アレッシオ殿も似たような顔でオルフェオ殿を見ている。
 リシェルも子供達が心配だろうし、あっちもデートの約束があるみたいだから、遅れたら困るのはみんな同じ気持ちだもんね。

 で、一羽と一匹がさくさくっと話してくれた内容によると。

 この『本』は、大量の書物の中に出現する。
 書物は高価であり、それを集めることができる者はそれなりの『力』を持つ人間だ。
 そういう人間を捕獲するのが、この『本』の性質らしい。
 同時に別々の世界に現れても、本体は一冊。俺達が今いるここが、そいつの本体だそうな。

 ここは完全な異空間になっており、それぞれの世界に『口』を開けて獲物を待ち構え、取り込んだ人間に元の世界では叶えられない素晴らしい体験を与えてやる。
 そうすると中の人間は、やがて帰ることを望まなくなるのだ。

『このままずっとここにいたい』

 そう願った瞬間、もう終わり。
 悪魔との『契約』が成立し、魂を抜き取られてしまう。

 ――それってつまり高額商品を勝手に送りつけてきて、「使ったよね? 使い心地よかったでしょ? 料金払ってね」と破産レベルの請求してくる悪徳商法じゃね?

「合ってるにゃ」
「合ってますね」

 子猫氏とミッテちゃんから合格点をいただきました。

「悪魔の書にはこの手の悪質なものが多いのですよ。これは契約を成立させないと完全には捕食されないタイプなので、まだ良心的です」
「良心はないけどな。契約なしで捕食するヤツはエネルギー効率が悪いし、厳密には悪魔でもないぞ。ただの雑魚だ」

 子猫氏としては、そういうのと一緒にされたくないようだ。
 とにかくまだ契約は成立しておらず、問答無用で食われることもない。
 しかも我が家のピヨちゃんと子猫氏がいる以上、無事に出られる未来は確定じゃないのかと思うんだが――ミッテちゃん、俺達がここに来る直前、慌ててたんだよな。あれは何だったの?

「それがですね、てっきりあなたとリシェルだけが取り込まれてしまうと思ったのですよ。私まで呑み込まれるとは思ってもみませんでした」
「僕もそんな感じだったぞ。コイツやっちまったよな~。気配を消すのだけは上手いんだケド、頭はそんなによくないな」

 あやや。
 つまりこの『本』さんてば、悪徳高額商品をうっかり警察官のお宅に郵送しちゃった感じなのかね? 合掌。
 
「ここから出る方法は二つある。まず、僕らがコイツを始末しちまう方法。ただしこれは元の世界に戻った時、短くとも半日ぐらい経っちまってる。もうひとつは『高額商品』をしっかり使わせてもらって、支払いを拒否する方法だ。それならタイムラグなしで戻れるぞ」

 みゅふ、と子猫氏は嗤った。

 ほほ~、そのやり方でいいのか。
 いいよな。だって俺ら、拉致らちられてんだし。
 誘拐犯に必要経費を請求されたって、そんなもん払う義務ないでしょ。

 俺はここに来た時と同様、ぐるりと室内を見回した。
 ――あちらには何も飾られていないモミの木の鉢植えと、たくさんの飾りが溢れそうな箱。


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