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番外・後日談
Xmasコラボ企画☆『巻き戻り令息』と不思議な本 (7)
遅くなりましたが本日2話目です。
※「巻き戻り令息の脱・悪役計画」を未読の方はご注意くださいませ!
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しかし全員食べ方が上品で丁寧なのに、食う速度がすげぇわ。
俺より少なめに調整しているとはいえ、リシェルまでぺろっと食っちまったし。
アレッシオ殿はリシェルに小食っぽいイメージがあったのか、モリモリ食ってるのを見て目を丸くしていた。
いつもはこんなに速くないんだぞ?
だけど、ひと口ごとにめっちゃ幸せそうにもぐもぐしてくれるのが、もうたまらんぐらい愛しいわ。
ところで、このあとケーキもあるけど大丈夫?
「愚問だな。別腹に決まっていよう」
カッコいいなオルフェオ殿。リシェルはちょっぴり恥ずかしそうに頷いている。
そういえば前世の妹も、食後にそんな宣言をしてたっけね。失礼いたしました。
結構たくさん作ったのにすべての器が空になり、食器はすべてシンクに片付ける。
ここで皿洗いをしたくなる俺だったが、ミッテちゃんに「必要ありません」と突っ込まれて正気に戻った。
窓は白く曇り、雪がかなり降っているのがぼんやりと見える。
俺がケーキを冷蔵庫から取り出している間、アレッシオ殿は全員分の紅茶を淹れてくれていた。
お待ちかねの豪華スイーツの登場に、リシェルとオルフェオ殿と子猫氏とミッテちゃんから、期待の視線がぶすぶす手元に刺さってきた。
凄まじいプレッシャーだ。
つうか猫がクリーム好きなのは理解できるけど、ミッテちゃんケーキ食うの?
「……その苺を食べてみたいのです」
狙っているのは苺だったか。
中央に寄せられてつやつや光る、たくさんの苺。ブルーベリーも散らばっているけど、これは食べたもんな。
「ミッテちゃん、この果実を食べてみたいの? ならわたしのを分けてあげるよ」
「いえ、ランハートからいただきますので、あなたは全部食べてください」
「そうだよリシェル。僕は実のところ、苺にそんなにこだわりないからね」
リシェルは好きそうだと思ったから使っただけだし。
けれどリシェルは首を振った。
「ううん、分けてあげる。いつもミッテちゃんにはお世話になっているから、プレゼントだよ」
「リシェル……!」
俺とミッテちゃんの声がハモった。
ここに天使がいる。
「いいからオマエ、早くそれを切れっての。コイツが焦れてるぞ」
「子猫よ、いらんことを言うとクリーム分けてやらんぞ?」
「にゃに!? 卑怯な!」
俺が手を止めていたせいで、平和だった場所に争いが発生してしまった。
急いでケーキ用の細いナイフを持ち直し、ホールケーキを四等分にカット。
――六人前ぐらいの大きさを分けたもんだから、ひと切れがけっこうデカイ感じになってしまった。
まあでもなんとかなるだろ、別腹が二人いるし。
苺を隙間なく置いていたおかげで、切る際に崩れることなく綺麗な断面になっている。
ただし各自のケーキ皿に移動させる時は、さすがにブルーベリーや小さな欠片がこぼれちゃったけどな。
「真ん中の層も綺麗だ。リシェル、上手じゃないか」
「嬉しいな。美味しそう……」
使った果物は桃のシロップ漬けと苺、あとは上に散らばったブルーベリー。これだけあれば上等なフルーツケーキだ。
ティーカップには、アレッシオ殿の淹れてくれた紅茶。
……ん?
あちらの二人の紅茶、色が濃いな。茶葉は全員同じはずなんだが、俺とリシェルのはもっと明るい紅茶色だ。
ミルクティーにする様子もない。俺とリシェルもストレートティーだけど、色は違う。
……もしや。
「ミッテちゃん、はい」
「ありがとうございますリシェル! ……おお、これも美味ではありませんか!」
リシェルはさっそく苺を一個ミッテちゃんの皿に移し、自分もぱくりと食べてみている。
もぐもぐもぐ、ごくん……幸せそうにほわんと浮かぶその笑顔、好みの味だったのが一目瞭然だ。
俺もすかさず自分の苺を一個ミッテちゃんの皿にコロンと移し、さらに別の苺をケーキごとフォークで掬い上げた。
ケーキはここが一番おいしいと妹が言っていた、角のひとかけら。
苺と一緒に、ずいとリシェルの顔の前に差し出す。
「はい、リシェル。あーん」
絶対! これを! やりたかったんだ!
ミッテちゃんのゴマ粒アイが半眼になっていても構うものか!
ところでヒヨコの胃袋どうなってんだろう? ブルーベリー何個も食っといて、それよりでかい苺を二個も食えるのか?
食えるんだろうな。無理なら最初にそう言っているだろうし。
リシェルはパチリと瞬きして、面映ゆそうな顔をしながら「あーん……」と口を開けてくれた。
俺はいそいそとその口の中にケーキを入れる。
もぐもぐもぐ……
「美味しい……! 甘くてふわふわしてる」
リシェルの笑顔、尊い。
しかもリシェルは同じように、自分のケーキの先端をフォークで取って俺に「あーん」をしてくれた。
「人生で一番美味しいケーキだ」
「わたしも、今まで食べたどんなお菓子よりも美味しい」
クリームの量も甘みもちょうどいい。桃のシロップ漬けは硬めのクリームにシロップが馴染んで水っぽくはならず、苺の甘みとわずかな酸味、ブルーベリーの味わいもいいアクセントになっている。
何よりも愛情。リシェルと一緒に食べる、これ大事。
……なんか俺達が目の前でそんなことをやっているせいで、あちらの二人も食べさせ合いっこをし始めた。
「どうぞ、閣下」「う、うむ」みたいな。
子猫氏が砂吐きそうな顔になっている気がする。
俺のクリーム分けてあげるから、機嫌直してくれ。
リシェルがあんまり可愛いもんだから、ついつい俺の分のケーキをたくさん分けてあげてしまった。
もとから六人分ぐらいのケーキを四等分し、そのひと切れプラスだから……あれ、おかしいな、急に算数ができなくなったぞ。
要するにそれって何人前だろう、なんて突き止めなくてもいいってことかな。
別腹ってすごいな。
「すごく美味しかった……!」
「本当に美味しかったね。帰ったらまた作ろうか。子供達にも食べさせてあげたい」
「きっと大喜びだよ。みんなに止められてしまいそうだけれど、火や刃物を使わない作業だったらわたし達がやってもいいよね?」
「もちろんだとも」
俺達が楽しい計画を立てていると、オルフェオ殿も「それはいいな」と笑いながら頷いた。
「話を聞いていると、お子さんはまだ小さいのかな」
「ご結婚されて間もないご様子ですし、さぞ気がかりでしょう」
「騙されんなオマエら」
暖炉の前に二人掛けのソファーが二脚。
俺とリシェル、オルフェオ殿とアレッシオ殿が並んで腰を下ろし、爆ぜる火を見つめながらお喋りをする。
ほかの電灯はすべて消して、灯りはこの暖炉の火と、イルミネーションの鮮やかな輝きだけ。
先ほどちらっと外を見たら、クリームのような雪があちこちに積もっていた。
俺達がケーキを食べている間、どうしてか食欲が湧かなかったらしい子猫氏は、小皿にちょこんと盛った生クリームをうみゃうみゃ美味しそうに舐めている。
ミッテちゃんはオルフェオ殿の膝の上でまったりしていた。
俺達は二人ずつぴったりと寄り添い、なんとなく静かな声で話した。オルフェオ殿の驚くべき人生、俺達の世界で起こった出来事。
話題は尽きず、いくらでも出てくる。
漠然と「まあ無理だな」程度に思っていた、リシェルとのクリスマスパーティー。
この出来事を、別世界の彼らと共有している不思議。
帰ったらこの『本』の中でのお話を、子供達に聞かせてあげよう。
リシェルとこんなにも楽しい体験ができてよかった。
ここで出会えたのが彼らでよかった。
――オルフェオ殿は多分、甘党というわけじゃない。
先ほどの紅茶。アレッシオ殿はともかく、オルフェオ殿の紅茶も色が濃かった。
渋い紅茶をストレートで飲みながらケーキを食べた。俺達みたいにアレッシオ殿と食べさせ合いっこをして、楽しそうに。
「あーん」をしてもらうといくらでも入るんだよな、わかる。
彼は甘いものが苦手なわけじゃない。でもきっと、特別好きというわけでもないのだ。
菓子は甘さ控えめ、もしくは塩気や酸味のあるものを好む。チーズケーキやレモンケーキ、ほろにがのビターチョコレートケーキみたいなのを、おそらく通常の一切れで満足する。
真の別腹はリシェルなのだ。いつもはガツガツしないし、昔と比べたら甘味の欲求が減っているとはいえ、俺よりずっと甘いものがいける。
彼はリシェルのために、自分も甘いもの好きという態度を見せてくれていたんじゃないかな?
初対面の人間に遠慮し、自分の欲求を押し込めるタイプかもしれないと、そう思って。
快い人々との出会いに感謝し、俺はリシェルと微笑み合った。
――そろそろ、帰ろうか。
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