どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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番外・後日談

Xmasコラボ企画☆『巻き戻り令息』と不思議な本 (8)


 2025年、たくさん読みに来てくださってありがとうございました!
 Xmasコラボ話、今話がラストでございます。

 ※「巻き戻り令息の脱・悪役計画」を未読の方はご注意くださいませ!

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 俺の思い出のクリスマスパーティーは、親父と妹と家族三人でのパーティーだった。
 ツリーはここにあるやつみたいな特大サイズじゃなく、お手軽な卓上ツリー。あれはあれで可愛いし、飾り付けが簡単にできるのも良かったんだぞ。
 当時いろいろあったもんだから、経済的にちょっと苦しかったのかもしれない。
 でも親父はプレゼントもケーキも、俺達のためにちゃんと用意してくれた。
 スポンジケーキと生クリームと果物を買って、自分達でデコレーションしたケーキは安くつく上に、格別に美味く感じた。
 大人になってからも、我が家のパーティーで活躍するのはミニツリーと、自宅でデコレーションするケーキだった。

「そういえば、脚立きゃたつはなかったよな。てっぺんの星はどうやって飾ったんだ?」
「うむ。私もリシェル殿もあの位置は届かなかったのでな、子猫に置いてもらったのだ」
「高い位置の飾りつけ、ミッテちゃんと子猫ちゃんが大活躍だったんだよ」
「へえ。ミッテちゃんはともかく子猫殿、飾りにじゃれついて遊んでいるだけと思いきや、そうじゃなかったのか」
「みゅっ、失礼な!」
「ランハートってば。失礼だよ?」

 リシェルがあちら側に回ってしまった。こうなると俺の敗北は確定だ。
 ごめんごめん。

「本当はクリスマス仕様の音楽や衣装などもあるのだが、ここにはなくてな。リシェル殿は帰ったらランハート殿に詳しく教えてもらうといい」
「音楽と衣装も特別なのがあるんだね。どんなのだろう」
「クリスマスソングか。残念ながら、ごくわずかなメロディしか覚えていないんだよ」
「そちらもか。実を言うと私もなのだ」

 ピアノとバイオリンがここになかったのは、きっとそれが理由だ。
 もし楽器がここにあったとしても、これぞクリスマスという曲は弾けなかったに違いない。

 それにクリスマス仕様の衣装というと、白いファーのついた赤い服に赤い三角帽子、ウケ狙いのトナカイ衣装だろう。
 あれがなかったのは俺の影響かもしれん。親父がそういう衣装に興味のない人で、当時の我が家では衣装なしが普通だったのだ。
 リシェルに教えてあげるとしても、なんでこの日にこの衣装を着るのかという説明が難しい。縫製ほうせい室で作らせることができないでもないが、いい大人になった自分より、子供達に着てもらったほうが楽しそうだし……

 ……ん? ウケ枠のトナカイ衣装、サシャあたりが着たらめっっっちゃ可愛いだろうな……?
 アニマルの着ぐるみパジャマみたいな感じで、ラブリーなミニトナカイがケーキをもぐもぐ……

 子供にアニマル衣装を着せたがる親の気持ちを、今になって理解してしまった。

 クリスマス、やっぱり広めてやろう。
 しかし年明けは俺達の世界でも祝日だ。短期間で祝い事の日を連続させる理由に、正当性を持たせることが難しい。
 だがやりようはあるはずだ。なんといっても俺は最高権力者のひとり。説得力のある理由がなくば、作り出してやればいいのである。
 今年は間に合わずとも、来年に間に合うように。

「ランハート、何か楽しいことでも思い付いたの?」
「放っておきなさいリシェル、これはいつもの頭の病気ですから」
「……私から衣装の話を出しておいてなんだが、撤回する。ランハート殿は、くれぐれもトナカイの角だけは生やさないほうがいい。くれぐれも」
「トナカイというと、あの飾りにある生き物ですよね? あの角がランハート様の頭部から……ああ、そうですね。おやめになったほうがよろしいかと」
「うみゅ~。やっぱこいつの魂、同族っぽいニオイがすんだよな……」

 周りがザワつき始めた。俺の想像している着ぐるみと、彼らの想像している衣装、なんかズレている気がするんだが?
 首を傾げかけた瞬間、フッと暖炉の灯りが揺らいだ。
 そして、頭の中に問いかけが響く。

 ――この『幸福』をずっと味わっていたいだろう? と。

「おまえ達と会えてよかった。楽しかったぞ」

 不意に、オルフェオ殿がこちらを見て言った。

「私も、とても興味深く快い時間を過ごさせていただきました」

 それから、アレッシオ殿も。
 僕とリシェルに大切な人々がいるように、彼らにもあちらの世界で大切な人々がいる。

「オマエらは堂々といちゃつきすぎ。もっと恥ずかしがって身悶えて頭抱えて撃沈してくれなきゃ、僕つまんないぞ。あとクリーム美味かった」

 子猫氏はクリームの味を思い出したのか、口元をぺろりと舐めている。
 俺達がいちゃつくことに関しては、まあ仕方ないなと思ってくれ。

「僕も、きみらと会えてよかった」
「わたしも。オルフェオ殿、アレッシオ殿、子猫ちゃん、とても楽しかったよ」
「皆様、お元気で」

 問いかけに対する俺達の答えは、決まっている。



   ■  ■  ■ 



 瞬きをすると、そこは図書館の奥の部屋だった。
 俺の手はリシェルの手をしっかり握っていて、肩にはミッテちゃんがもふりと乗っている感触がある。

「……戻ってきた、みたいだね」
「そうだな」
「戻りましたね。時間も経っておりませんよ」

 俺達は子猫氏の言った通り、異空間に取り込まれた瞬間と、ほぼ変わらない時間に戻ってこられたようだ。
 
「ん? なんだか、お腹がすいてきたような?」
「あ、あれ? わたしもだ。あんなにたくさん食べたのに、どうして?」

 『今』は昼休憩の時間だ。昼食を摂る前だったし、活動的な俺とリシェルが軽い空腹感を覚えても、普段ならまったくおかしくないんだが。

「『猫』が言っていたでしょう? あちらのものを現実世界に持ち帰ることはできないのですよ。たとえば見たこともない素晴らしい料理を口にして、『ずっとここにいたい』と望んだら終わり。逆に『帰りたい』と望めば帰ることができますが、夢のような美食は二度と味わえないわけです」
「つまり普通なら、どちらを選択しても絶望が待っている?」
「ええ、普通でしたら。なので、悪質と申し上げているのですよ」

 すげぇ仕事のできる『本』さんだと思ったのに、助かっても絶望が待ってるとか、やっぱ悪魔だったか~。

「あの『本』、消えてしまっているね。どこにいったんだろう」
「これまでも犠牲者が出ていたということだよな。一応、怪しげな本の注意喚起をしておくかな」
「それには及びません。あれは今後『猫』が管理すると言っておりましたから、とうにしているでしょう」

 そうなんだ。子猫氏まで一緒に取り込んでおいて、ただで済むと思うなよってわけね。

「そういうことですので、気にせずお昼を摂るといいですよ」
「せっかくのランハートのお料理が……あんなにたくさん食べたのに、また食べなきゃいけないのか」
「ものは考えようだよリシェル。満腹なのにお昼を食べなきゃいけないとなったら、そちらのほうが大変じゃないか?」
「そ、そうだね。わたし達が大量に残したら、料理人が青ざめてしまいそうだ」
「二人して食欲がない、なんて言ったら侍医を呼ばれてしまうだろう。そう考えると、やはりあの『本』は気が利いている」
「本当だ。気遣いが細やかだね」
「……まあ、お二人がいいならそれでいいでしょう」

 ミッテちゃんが遠い目になっている。
 ミッテちゃんもせっかく食べたブルーベリーとイチゴが腹から消えてしまったわけだから、お昼は豪華にしてあげないとな。

「ランハート。またお料理、作ってくれる?」
「もちろん。リシェルもケーキ作りをしよう。あの子達も一緒に」
「うん!」

 ところで不思議な本が消えてしまったことを、館長にどう説明しよう?
 俺達は笑い合い、心弾むパーティーの余韻を胸に、図書館をあとにした。


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