58 / 266
家計にやさしい攻略潰し
58. お宝を先にいただいてしまおう
しおりを挟むムスター家は公爵家だから、そこらの貴族より権力も財力もあるわけだ。
が、しかし、四公の中では一番貧乏。何をどう控え目に言っても、四家の中ではもともと一番お金がない。
なのに亡き嫁イビリ婆さんのヒルダと、ママべったりなヨハンによってガンガン浪費され、ただでさえ少ないお金がさらに減った。
そこで転落を食い止めたのが、嫁いで来た母上様。
ヒルダとヨハン親衛隊による妨害が消え、経済状況が上向くかと思いきや、グラフは水平線を描いた。というか、ゆるやかに下向きだった線が、低い位置で真横に伸びたのである。
下がりに下がった状態とはいえ、下降が止まっただけマシだろう。
ただし今は安定しているけれど、いつ下向きに戻るかわからない。
というわけで、母上様から「お好きにしなさい」ともらった土地二箇所。
一方は『ファーデン』、もう一方は『グランツ』と呼ばれている。
まず向かうは、南西の端にあるファーデンだ。
そこに点在する集落のことを、ゲーム内では『ファーデンの村』と呼んでいた。
■ ■ ■
今から七年後、悪役令嬢アデリナとその母の『散財』によりムスター家はどんどん傾き、ファーデンと呼ばれる地域一帯がシュピラーレのものになった。
その直後、跡継ぎ息子として頭角を現していたティバルトは、愛しいルチナを連れ(この時点でまだアデリナ様と婚約中)、新たにシュピラーレ公爵領に加わった地域の視察に向かった。
素朴なファーデンの村の人々に心づくしの歓待を受けながら、ティバルトはルチナといちゃいちゃラブラブのデートを楽しむ。
護衛をまいて二人きりになろう! と騎士を置き去りにした二人は(とんでもねぇことすんなや! 後で騎士さん達に謝り倒しやがれ!)運よく危険な目には一切遭うことなく、綺麗な川を発見した。
見ればその川底に、とても美しく珍しい色合いの石があるではないか。
その石は向こうにもたくさんあるようだ。
『なんと美しい色なのだ……よし、この石は〝清きルチナの青〟としよう!』
親の土地で拾った物へ、勝手に命名したティバルト。
『そんな……ティバルトったら』
照れるけど止めないルチナ。寒いと言っていいですか。
そしてその石はティバルトとルチナの恋物語の象徴として、上流社会で大人気となり、飛ぶように売れまくり、シュピラーレ家の懐がますます潤ったのだった。
■ ■ ■
ツッコミどころのたくさんある展開なのだが、このご都合主義な流れが、ゲームではなく現実にあったわけだ。
ムスター領が傾く際に領地をどんどん売却し。
売却した土地の中に、珍しい青の色石を産出する場所があると判明し。
あまりに美しい色合いだったため、ティバルトが『清きルチナの青』という二つ名をつけてルチナにプレゼントをすると、国内外で価値が爆上がりした。
婚約者がいるのに、愛人へ堂々と宝飾品をプレゼントする根性も気に入らないし、そのプレゼントの内容も本気で寒い。
恋人や伴侶のフェーミナには首輪を贈るのが一般的なのだそうで、ティバルトがルチナに贈ったのもそれなんだが、全然似合わないのである。
黄金の細工に、ティバルトの瞳である青紫色の宝石をあしらい、そしてファーデンで発見された色石をドンと中央に嵌めたデザインだった。
ほかにも、その色石を使った豪華な耳飾りを用意していたが、やはり似合わない。
ルチナの顔立ち、表情や全体的な雰囲気、髪や瞳の色に至るまで、まず第一に黄金が似合うタイプではないのだ。
しかも、青紫だけならいい。青だけなら合うだろう。黄金を使わず、それら色石を単体で使ったアクセサリーならば、まだ似合ったはずだ。
それを全部一緒にしたせいで、ケバケバしさが倍増。ハッキリ言って、成金の愛人がこういう首輪や耳飾りをしていそうだなという雰囲気になってしまっていた。
なのにゲーム画面では、そのスチルをババンと大画面で映して、周りの人々が「ルチナ様お似合いです!」「なんてお美しい!」とか褒め称えるわけだよ。
寒いわ……!
ルチナくんにそんな恥をかかせるのは忍びないので、そのお宝を俺様が先にいただいてしまおうというわけである。
否、もともと我が家の領地のものなんだから、いただくというのはおかしいか。
「そう上手く行くのですか? ティバルトの時とは状況がまるで違いますよ」
さっそくファーデンへ向かうための準備を始めた俺に、ミッテちゃんが少し心配そうにピヨヨと鳴いた。
実際に状況はまるで違うし、ティバルトのようにうまくいくとは限らない。
でもな、ミッテちゃん。あの石が爆売れしなくても、別に困りはしないんだよ。要はあれを我が家で確保しておき、タダでティバルトに持って行かれる展開を防げればいいんだから。
「なるほど、それさえできれば目的の大部分は達成できたと言えるのですね」
そうそう。
それに、この世界の宝石事情は、少しあちらの世界とは違っている。
金剛石や黒曜石といった名称は変わらないけれど、それ以外の透き通った宝石は黄水晶、緑水晶、青水晶、緋水晶みたいに『~水晶』と呼ばれている。宝石固有の名称があまりないんだ。
さらに、不透明な色石は透き通ったものより、ワンランク落ちるとされる。
ファーデンで発見されたのは、不透明な石だった。
なのにティバルトの時、あの石に爆発的な人気が出た理由は何なのか。
それはあの石が、よその土地ではちょっと見ないほど美しい色をしていたこと。
その上で『発見時の逸話』、それから『二つ名』という条件が揃ったためと俺は踏んでいる。
人は価値あるものに何らかの物語を求める。あるいは物語の存在するものほど、良くも悪くも高い価値を見いだす。
歴史を重んじる貴族であれば、なおさらその傾向があった。ただ単に『とても綺麗な青い石です』と言って売っただけでは、そこまで人気が出なかったろう。
もちろんティバルト自身の人気と、シュピラーレ公爵家におもねる人々の思惑もあって広まった面もあるに違いない。
けれどさっきも言ったように、まんまとティバルトに持って行かれさえしなければいいのだ。
あいつの懐が無駄に潤ったって、良いことなんてないからな。――軍備とかさ。
それに俺は妹と一緒にゲーム画面を見つめながら、こんな会話を交わしたことがある。
『似合わねえ。これ、リシェルなら似合うんじゃね?』
『同意~。ティバルト、プレゼントのセンスが成金趣味っつうか、独善的じゃない? これ、ルチナに合う合わないを全然考えてないんじゃないの。リシェルは合いそうだよねぇ』
『だよなぁ!』
俺だけならともかく、アクセサリーに詳しい妹が言ったんだから確かだぜ。
4,779
あなたにおすすめの小説
レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収
ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。
彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。
だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。
自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。
「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」
契約解除。返還されたレベルは9999。
一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。
対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。
静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。
「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」
これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。
(本作品はAIを活用して構成・執筆しています)
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる