どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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家計にやさしい攻略潰し

58. お宝を先にいただいてしまおう

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 ムスター家は公爵家だから、そこらの貴族より権力も財力もあるわけだ。
 が、しかし、四公の中では一番貧乏。何をどう控え目に言っても、四家の中ではもともと一番お金がない。
 なのに亡き嫁イビリ婆さんのヒルダと、ママべったりなヨハンによってガンガン浪費され、ただでさえ少ないお金がさらに減った。
 そこで転落を食い止めたのが、嫁いで来た母上様。
 ヒルダとヨハン親衛隊による妨害が消え、経済状況が上向くかと思いきや、グラフは水平線を描いた。というか、ゆるやかに下向きだった線が、低い位置で真横に伸びたのである。

 下がりに下がった状態とはいえ、下降が止まっただけマシだろう。
 ただし今は安定しているけれど、いつ下向きに戻るかわからない。
 というわけで、母上様から「お好きにしなさい」ともらった土地二箇所。
 一方は『ファーデン』、もう一方は『グランツ』と呼ばれている。

 まず向かうは、南西の端にあるファーデンだ。
 そこに点在する集落のことを、ゲーム内では『ファーデンの村』と呼んでいた。



   ■  ■  ■ 



 今から七年後、悪役令嬢アデリナとその母の『散財』によりムスター家はどんどん傾き、ファーデンと呼ばれる地域一帯がシュピラーレのものになった。
 その直後、跡継ぎ息子として頭角を現していたティバルトは、愛しいルチナを連れ(この時点でまだアデリナ様と婚約中)、新たにシュピラーレ公爵領に加わった地域の視察に向かった。
 素朴なファーデンの村の人々に心づくしの歓待を受けながら、ティバルトはルチナといちゃいちゃラブラブのデートを楽しむ。
 護衛をまいて二人きりになろう! と騎士を置き去りにした二人は(とんでもねぇことすんなや! 後で騎士さん達に謝り倒しやがれ!)運よく危険な目には一切遭うことなく、綺麗な川を発見した。
 見ればその川底に、とても美しく珍しい色合いの石があるではないか。
 その石は向こうにもたくさんあるようだ。

『なんと美しい色なのだ……よし、この石は〝清きルチナの青〟としよう!』

 親の土地で拾った物へ、勝手に命名したティバルト。

『そんな……ティバルトったら』

 照れるけど止めないルチナ。寒いと言っていいですか。
 そしてその石はティバルトとルチナの恋物語の象徴として、上流社会で大人気となり、飛ぶように売れまくり、シュピラーレ家の懐がますます潤ったのだった。



   ■  ■  ■ 



 ツッコミどころのたくさんある展開なのだが、このご都合主義な流れが、ゲームではなく現実にあったわけだ。
 ムスター領が傾く際に領地をどんどん売却し。
 売却した土地の中に、珍しい青の色石を産出する場所があると判明し。
 あまりに美しい色合いだったため、ティバルトが『清きルチナの青』という二つ名をつけてルチナにプレゼントをすると、国内外で価値が爆上がりした。

 婚約者がいるのに、愛人へ堂々と宝飾品をプレゼントする根性も気に入らないし、そのプレゼントの内容も本気で寒い。
 恋人や伴侶のフェーミナには首輪を贈るのが一般的なのだそうで、ティバルトがルチナに贈ったのもそれなんだが、全然似合わないのである。
 黄金の細工に、ティバルトの瞳である青紫色の宝石をあしらい、そしてファーデンで発見された色石をドンと中央にめたデザインだった。
 ほかにも、その色石を使った豪華な耳飾りを用意していたが、やはり似合わない。

 ルチナの顔立ち、表情や全体的な雰囲気、髪や瞳の色に至るまで、まず第一に黄金が似合うタイプではないのだ。
 しかも、青紫だけならいい。青だけなら合うだろう。黄金を使わず、それら色石を単体で使ったアクセサリーならば、まだ似合ったはずだ。
 それを全部一緒にしたせいで、ケバケバしさが倍増。ハッキリ言って、成金の愛人がこういう首輪や耳飾りをしていそうだなという雰囲気になってしまっていた。
 なのにゲーム画面では、そのスチルをババンと大画面で映して、周りの人々が「ルチナ様お似合いです!」「なんてお美しい!」とか褒め称えるわけだよ。
 寒いわ……!

 ルチナくんにそんな恥をかかせるのは忍びないので、そのお宝を俺様が先にいただいてしまおうというわけである。
 否、もともと我が家の領地のものなんだから、いただくというのはおかしいか。

「そう上手く行くのですか? ティバルトの時とは状況がまるで違いますよ」

 さっそくファーデンへ向かうための準備を始めた俺に、ミッテちゃんが少し心配そうにピヨヨと鳴いた。
 実際に状況はまるで違うし、ティバルトのようにうまくいくとは限らない。
 でもな、ミッテちゃん。あの石が爆売れしなくても、別に困りはしないんだよ。要はあれを我が家で確保しておき、タダでティバルトに持って行かれる展開を防げればいいんだから。

「なるほど、それさえできれば目的の大部分は達成できたと言えるのですね」

 そうそう。
 それに、この世界の宝石事情は、少しあちらの世界とは違っている。
 金剛石や黒曜石といった名称は変わらないけれど、それ以外の透き通った宝石は黄水晶、緑水晶、青水晶、緋水晶みたいに『~水晶』と呼ばれている。宝石固有の名称があまりないんだ。
 さらに、不透明な色石は透き通ったものより、ワンランク落ちるとされる。
 ファーデンで発見されたのは、不透明な石だった。

 なのにティバルトの時、あの石に爆発的な人気が出た理由は何なのか。
 それはあの石が、よその土地ではちょっと見ないほど美しい色をしていたこと。
 その上で『発見時の逸話』、それから『二つ名』という条件が揃ったためと俺は踏んでいる。
 人は価値あるものに何らかの物語を求める。あるいは物語の存在するものほど、良くも悪くも高い価値を見いだす。
 歴史を重んじる貴族であれば、なおさらその傾向があった。ただ単に『とても綺麗な青い石です』と言って売っただけでは、そこまで人気が出なかったろう。

 もちろんティバルト自身の人気と、シュピラーレ公爵家におもねる人々の思惑もあって広まった面もあるに違いない。
 けれどさっきも言ったように、まんまとティバルトに持って行かれさえしなければいいのだ。
 あいつの懐が無駄に潤ったって、良いことなんてないからな。――軍備とかさ。

 それに俺は妹と一緒にゲーム画面を見つめながら、こんな会話を交わしたことがある。

『似合わねえ。これ、リシェルなら似合うんじゃね?』
『同意~。ティバルト、プレゼントのセンスが成金趣味っつうか、独善的じゃない? これ、ルチナに合う合わないを全然考えてないんじゃないの。リシェルは合いそうだよねぇ』
『だよなぁ!』

 俺だけならともかく、アクセサリーに詳しい妹が言ったんだから確かだぜ。


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