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家計にやさしい攻略潰し
57. 変わった誕生祝い
しおりを挟むリヒトハイム王国の誕生祝いには、少し変わった風習がある。
十八歳になるまでは、生まれたその日ではなく、翌年の四月頃に祝うのだ。
例えば俺は十一月生まれ、お姉様は一月生まれ、リシェルは九月生まれなんだけれど、当日は軽く「おめでとう」と言葉で祝福するだけで、本格的なお祝いは翌春にまとめて行われる。
この国は年間を通して、『俺』の暮らしていた日本より気温が低めだ。夏は半袖じゃなくとも過ごせるし、そこまで湿度も高くならない。
それゆえに冬は厳しく、たとえば冬に誕生日を迎えておめでとうを言っても、越冬できない子供が昔から多かった。だから春の訪れの歓びと同時に、子供が年齢を重ねた歓びも祝おうという風習ができたそうだ。
ムスター家もその年の四月、俺とお姉様とリシェルの誕生日パーティーが行われた。
身内だけのお祝いだったけれど、この時ばかりは使用人の皆にも、美味しい食事や菓子がふるまわれる。
春の祝いも兼ねているので、その日は誰にとっても喜べる日になり、個人的にこういうのは良いなと思った。俺付きのメイド達も、普段は食べられない甘い菓子に裏でキャアキャア歓声を上げていて、厳しい執事やメイド長も今日ばかりは大目に見てやっていた。
ちなみに家族のテーブルにいるのは、母上様とお姉様とリシェルだ。食堂前の廊下を緑色の髪のオヤジがウロウロしていたが、ずっと無視しているとやがて肩を落とし、自分の部屋に戻って行った。
昔からアデリナお姉様の誕生祝いを準備するのは母上様だけで、母上様がちったぁテメェの子を祝えやと叱っても、わかったわかったと言いながら毎年ドタキャン。かといって、熱でベッドから出られない俺の見舞いに来るわけでもない。
その上で母上様を悪者扱いし、被害者ぶってきたアホが、今さら仲間に入れてもらえなくて寂しいとか言う気かね。
「拗れてますねえ……無理もありませんけど」
水の皿をつついては嘴を上向けて飲みながら、ミッテちゃんが同情とも呆れともつかない感想を漏らした。
俺は眉根が寄る前に、爽やかな果実のジュースで胸の内側をさっぱりさせた。
「――ところで、誕生祝いに友人知人を招いたらいけないのは何故なのですか?」
子供全員が同じような時期に誕生祝いをするわけだから、日付の被る子が出てきて不都合があるんだろうと最初は思っていた。けれど先日の授業で、貴族の暗黙のルールではなく国の法律と知り、改めてどうしてなんだろうと不思議になったんだよな。
みんな一緒に祝ってもいいじゃん?
食後のデザートを食べながら首を傾げた俺に、母上様がくし切りの果物をフォークで刺しつつ教えてくれた。
「先々代の国王陛下の時代に定められたことなのですよ。歴史の教師には、少々教えにくいことでしょうね」
お姉様やリシェルも知らないことだったのか、興味深そうな目を母上様に向けている。
「その頃、四公よりも力のある侯爵家が存在したのです。その家は裕福な下位貴族や豪商と婚姻で結び付くのを重ねるうちに、いつしか財力の面で我々と逆転していました。そして四公だけでなく王族までもせせら嗤うようになり、いずれその立場に取って代わろうという言動を見せ始めたのです」
自分の子供の誕生日パーティーを、王族に迫るほど盛大にして、国内有数の大商人を何人も招き、政治献金パーティーみたいなこともやっていたという。
「国王陛下の勅命で四公騎士団が動き、その者達を捕えました。目に余る不敬だけでなく、彼らの言動は反逆をにおわせていると充分に受け取れたからです。四親等までの全員が処刑され、家は取り潰し、財産は全て没収、それらは四公に分配されました。その後、彼らが子供の祝いにかこつけて資金集めをしていたことから、『誕生祝いに肉親以外の者を呼んではならぬ』と新たに定められたのです。それ以外にも、侯爵以下の身分における宴の予算の上限なども定められていますよ」
へえー、と俺達は頷いた。
母上様って、「こんな祝いの席で言うべきことではない」と変に自重することがないから、聞きたい側としてはとても助かる。疑問がその場ですぐ解消して、後々までモヤることがないんだ。
「イゾルデの話は事実ですよ。当時、実際にそのようなことがあったのです。どの国でも処刑相当の罪になりますし、迎合していた者も同罪になりますね」
そこにミッテちゃんも加わると完璧である。
ムスター家やヴェルク家にちょっかいをかけてきた奴らって、逆恨みした生き残りの子孫だったりしてな。
「ないとは言い切れませんね。もはや当事者で生きている者などいなくとも、人は無関係の者にすら己の復讐を託すことがあります。仮に生き残りの子孫であろうと、その報復に正当性があるとは思えませんが」
意味不明ピヨ、と首を傾げるミッテちゃんは正しい。意味ないよね。
偶然そこにいただけなのに処刑するなんて酷い! って言いたいのかもしれんが、俺やリシェルだって偶然この家に生まれただけだし、五~六歳の小っさい子供がおまえらに何をしたんだという話だ。
だけどそう指摘してやったとしても、「その家に生まれたこと自体が罪だ」とかなんとか言って、聞きやしねぇんだろな。ところでキミたちブーメランって知ってる? 自分に都合の悪いことは知らんぷいだよね。
俺も自分に都合の悪いことは知らんぷいする主義だからお仲間だよ。知らんぷいぷいで、通り道にあるものは踏んづけてっちゃうから、立ち塞がる時は注意してね~。
「それはそうと、アデリナには新たな楽譜を、リシェルには新たなバイオリンをそれぞれ贈りましたが、おまえへの贈り物はあれでよかったのですか?」
「はい! 素敵な贈り物をありがとうございます!」
「ふふ……おまえは無欲な子だこと」
それはもう、俺の欲のなさは母上様譲りですから。
俺はオレンジを口に放り込み、甘さと酸味を味わいながらニンマリと笑んだ。
母上様からの贈り物。
それは、ムスター公爵領内にある一部地域の、言うなれば統治権みたいなものだ。
俺はミッテちゃんによる翻訳で自動的に得た知識と、『俺』の思考能力、それから『ランハート』自身のポテンシャルを合わせて、少なくとも座学に関しては高等教育まで修了した。
だから家を継ぐ者として、そろそろ領地経営を実地で学びたい。そんな名目で、領内にあるごく狭い地域を、誕生日プレゼントとして二箇所もらった。
はい。BLゲーム《愛と祈りの協奏曲》に出てきた、いわくつき物件です。
母上様もノイマンも知らない。そこはムスター公爵領内において、どちらも目を引く産物がなく、寂れた集落が点在するばかりだからだ。
この国には市町村という区分が厳密にはなく、『領都とそれ以外の集落』という区分になるんだけれど、『俺』の感覚で言えばそこにあるのは『村』だ。
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お買い上げくださったのは、その土地に接しているシュピラーレ公爵家だ。
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その土地がまさか、ティバルトの懐を潤し、ルチナに力を与えることになろうとは、誰も知る由がなかった……。
というのを、俺がさっさともらっちゃおうというわけ。
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