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家計にやさしい攻略潰し
56. 最近の勇者事情
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本日は1話投稿です。
そろそろランハートくんによるお金稼ぎ&成長が加速していきます……!
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あの日以来、リシェルは悪夢に悩まされることがなくなった。
「こびりついていたものが消えていますね。よいことです」
ミッテちゃんもピヨヨと太鼓判を押してくれた。これであの子の未来を粉々に破壊してきた呪いからは、もう完全に解き放たれたと言えるだろう。
エアハルトとの交流継続に関しては、レーツェル公夫妻が良い顔をしないので難しいと思っていた。俺としてはルチナのエアハルト攻略ルートを消し、なおかつティバルトと仲良くなる可能性を潰せればよかっただけなので、「今後は身の回りに注意してね。それじゃ!」で済ませるつもりだったのだ。
ところが真面目なエアハルトは、お姉様と交わした協力の約束を思った以上に真面目に受け止めていた。
そこで初めて知ったのが、なんとリシェルのバイオリンの先生と、エアハルトのバイオリンの先生が幼馴染みだったという事実。音楽の教師をする者同士、どこかで面識があるのではと当たりをつけて尋ねたらドンピシャだったそうだ。
先生達に手紙を託すことで、俺やお姉様はエアハルトとの文通が可能になった。
音楽の授業は週に一度。必ずと言っていいほど先生は手紙を預かっており、もらったからには返事を書かねばならず、気付けば毎週連絡を取り合っている。
その内容も、最初は真面目な近況報告のみだったのに、俺が「エアハルト兄様、おうちでストレス溜まってない? 愚痴りたいことがあれば聞くよ~」と書いたばかりに、次からは本当に愚痴が含まれるようになった。
「ご両親の影響で、家じゅうの者から腫れ物のような扱いをされているのですって……」
「それは、同情するしかありませんね……」
俺もお姉様も本心からの励ましを書いたりしていると、そのうち何でもないことまで書き合うようになり、半年後にはただの文通友達だった。
「次のパーティー、兄さまも出ますか? お会いできるのを、たのしみにしています……」
声に出しながら一生懸命手紙を書き書きしているリシェル、尊い。
ところが残念ながら、翌年のバウアー男爵邸のパーティーを、俺達は欠席することになった。
俺が風邪を引いたからだ。
症状からして明らかに普通の風邪だったし、咳や鼻水が大変だったぐらいで、大きな声では言えないけれど結構ラクだなと思ってしまった。毒による発熱時は、身体の内側から破壊される苦痛を常に感じていたものだから、あれに比べればちゃんと眠れるし寝返りも打てて、痛みもそこまで感じない。
――が、俺の熱にムスター家の全員が敏感になっており、平熱に下がった後も、大事をとって一週間は休めと母上様に命じられた。
その上、俺の風邪がリシェルに、そしてお姉様にと順番に感染ってしまった。そういえば昔『俺』の同僚が、子供は一人熱を出したら兄弟全員が熱を出すと言っていたっけな。
俺が寝込むだけならどうとも思わないけれど、お姉様やリシェルを寝込ませてしまったのはつらい。
おまけに、リシェルやお姉様が俺の様子を見に来てくださるのはいいけれど、逆はダメなんだ。
もとが俺から感染した風邪であろうと、跡取り息子である俺は、発熱している家族に決して会ってはならない。
やっと母上様からOKが出た時は、一日じゅうリシェルの引っつき虫になってしまった。
「何日も顔すら見られなかったのが、一番きつかったよ……」
「ら、ら、らんはーと……」
「坊ちゃま。リシェル様のお熱がまた上がってしまいますのでお控えください」
リシェル付きのメイドに三回ぐらいひっぺがされた。ちえーっ。
そんな感じで俺達みんなが外出を控えていた頃、エアハルトはひとり寂しくパーティーに参加していた。
子供だけで参加可能なパーティー自体が少なく、親の目を気にせず俺達と会えるのはそこだけ。
一年ぶりの再会を楽しみにしてくれていたのに、いつもと同じくボッチで過ごすことになったようだ。すまん……。
しかし残念がりつつも、ちゃんと俺達の体調を気にかけてくれるのがエアハルト兄様である。「バウアー男爵からの見舞いと被るかもしれないが」と手紙で断りを入れつつ、パーティーで食べておいしかった果物や日持ちする菓子を快癒祝いに送ってくれた。
手紙にはそれ以外にも面白いことが書かれていた。エアハルトがパーティーの賑わいから離れ、いつもの場所で静かに読書をしていると、馴れ馴れしく話しかけてくる金髪に青紫の瞳の少年がいたそうだ。
言うまでもなく、シュピラーレ公爵家の息子である。
同じ四公の息子で、初対面で、二歳も年下の子だからと、最初は会話に応じてやっていたらしい。
ところがティバルト坊やの奴、アデリナお姉様との婚約顔合わせすっぽかし事件を自慢げに語りだしたらしく、あまりの無神経さにエアハルトはイライラして席を立ち、それ以降は完全に無視することにしたそうだ。
くっくっく、これは愉快な報せだな。
「あの家の息子、全然変わっていないのですねぇ」
俺が呆れた顔で言うと、一緒に座って手紙を読んでいたお姉様も、呆れ返った目で小さく息をついた。
「シュピラーレの小父様と小母様は、とてもきちんとした方々なのだけれどね。言葉遣いや行儀作法を教育し直したそうなのだけど、肝心のご子息様にやる気がなくて、あまり成果は出ていらっしゃらないみたい」
「そうなのですね。ご苦労様なことです」
つまりそれって、『悪役令嬢アデリナ』への敵意うんぬん以前の話だよな。
エアハルトの手紙によれば、ティバルトはあっという間に同年代の子供達の人気者になったようだ。キラキラした王子のごときティバルトは、その外見と裏表のない性格、少々尊大な態度や言葉遣いすらも好ましく思われているらしい。
腐っても公爵家の息子だから、マナーが壊滅的に悪いわけではなく、むしろ他の貴族の子弟と比較すればきちんとして見える。
けれど、ムスター家の令嬢――アデリナお姉様に恥をかかせて平然としているだけでなく、それを声高に語り、周囲の子供達も一緒に面白がっている光景が、なんとも癇に障ってならなかったそうだ。
テーブルに置いた手紙の前にミッテちゃんがちょこんと座り、文面を追いつつ半眼になっている。
「ティバルトはとにかく自信家なのですよ。巻き戻す前からずっとそうなのです。公爵家の一人息子で、すぐれた容姿と運動能力を持って生まれ、記憶力も悪いわけではなく、ちょっと頑張ればそこそこのレベルに到達します。さらにカリスマ性と言いますか、物語の王子然とした雰囲気を持っていますから、つい頼りたくなる……仲間にして欲しいと感じる人間が多いようです」
人気者の勇者みたいな感じか? ゲームでのティバルトは、確かにそういうキャラではあった。
「それゆえに彼はたやすく騎士団を掌握し、反逆すらも可能としたのです。竹を割ったような性格、正義感、そしてルチナという『天の御使い』の庇護者として、ティバルトは絶大な人気を誇っていました。ですがその本質は、エアハルトが書いている通りです。無神経で、無責任。自分について来いと大声で言いながら、ついて来た者の未来などさして考えておりません」
大勢の人々を扇動し、勇者然としてふるまいながら、自分のもとに集った人々をどんどん死地へ送り込む。
その行いに胸を痛めたことはなく、むしろ人々が自分のために命を投げ出すのは当然とすら思っており、国の未来を憂いたこともなかったそうだ。
あらまあ、随分ステキな王子様ですこと。
「ゲームの通り、ルチナがどの攻略対象のルートに入ろうと、ルチナはティバルトのお気に入りになるのです。見た目が好みなのもあるでしょうけれど、何よりもルチナが『天の御使い』であり、自分がそれを守るための『勇者』になることに高揚するといいますか……愉しんでいた、というのが一番近いでしょう。国を、世界中を破壊する戦すらも、大勢の兵士達に慕われる自分を、何より心地良く感じていたのです」
ミッテちゃんはいろんな人々の見落としが多かったけれど、元凶たるルチナとティバルトに関しては深いところまでチェックをしていたようだ。
それによれば、生来強い英雄願望を持った人間が、身分も外見も能力も、英雄になれる条件の揃った環境下に生まれついてしまった……それがティバルトという人間なのだそうだ。
「一種、フロイデの同類と言えるでしょう。シュピラーレ夫妻が注意したところで、あの者の気質は変わらないのです。時を巻き戻した程度で、変化などするはずがありませんでした」
なるほどね。おまえは特別な人間じゃないと思い知らされることを何より嫌い、人の忠告はもちろん、親の説教も聞き流す奴か。
うなだれるミッテちゃんの背中を撫でながら、俺はドンマイと励ました。
大丈夫大丈夫、最近の勇者って破滅する奴多いから!
母上様とお姉様とリシェルを愛でる日々のため、この俺が必ず奴を無力化し、さくっと葬ってあげるから楽しみにしておきなさい。
「ピヨ……その欲望全開の宣言を頼りにしていると言っていいのかわかりませんが、頼もしいです」
ミッテちゃんがスキル『あきらめの境地』を習得したようだ。重畳、重畳。
そうして月日は流れ、俺は十歳、リシェルは十一歳、アデリナお姉様は十二歳になった。
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