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狩りと獲物
55. 宝物を守るために -sideリシェル
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本日の投稿は1話のみです。
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目が覚めたら目の前がキラキラして、胸の中がぽかぽかしている。
ムスターの家に来てから、毎日ふわふわ、すてきな夢の中にいるみたいだ。
ランハートも、お母さまも、お姉さまも、みんなとってもやさしい。
このふわふわな気持ちのお返しができないかなって、最近わたしはいつも思っている。だってこんなにたくさんやさしくしてもらっているのに、なんにも返せていないんだもの。
だからランハートに、「悪者退治をする。リシェルも協力して欲しい」って言われたときは、ぜんぜん迷わなかった。
わたしにもできることがあるのら、なんでもやる。
そのとき初めて、ランハートは以前毒で殺されかけたことがあるんだと知った。
ムスターのおうちに来た直後のわたしは、何がなんだかわからなくて頭がいっぱいいっぱいだったから、誰かに聞いていてもおぼえていられなかったかもしれない。
ランハートの言葉で、初めてちゃんとそれを教えてもらって、すごくショックだった。
――ランハートが、しんじゃうなんて。そんなのいやだ。
怖くて怖くて、急に冬が来たみたいに寒くなった。ブルブルふるえるわたしを、ランハートは慌てて抱きしめてくれて……あんまりにも怖くて悲しかったから、いつもみたいに恥ずかしいって思うのも忘れていた。
わたしを助けに来てくれたランハートが、どこにもいなかったかもしれないなんて。
こんなふうにギュツてしてくれる手も、背中や頭をポンポンしてくれる手も、全部まぼろしだったかもしれないなんて。そんなの絶対にいやだ。
「前に僕を殺そうとした輩と、リシェルをつらい目に遭わせた輩が、どうも根っこで同じみたいなんだ。だからそれと繋がっていそうな男を捕まえたくて、リシェルには怖い思いをさせてしまうんだけれど……」
怖い?
今わたしが一番怖いのは、こうやってギュッてしてくれるランハートが、リシェルはいい子ですねってほめてくださるお母さまが、わからないことがあればなんでもお言いなさいなってほほえんでくださるお姉さまが、消えていなくなってしまうことだ。
これよりも怖いことなんて、きっと何もない。
だからわたしは、「やりたい」と頷いた。
■ ■ ■
何人もの年上の女の子たちに囲まれて、おまえはムスター家にふさわしくないのよって怒られたときは、とても怖かった。
ヴェルクの家にいたころ、「おまえはこの家にふさわしくない」ってさんざん怒られていたのを思い出して、何も言えなかった。
だけどその次にやってきた男の人は、もっと怖かった。
その人の目は、ご本で読んだ『底なし沼』みたいで、すごくすごく怖くて……ふるえそうになるのをガマンするのがたいへんだった。
この人について行っちゃダメって、頭の中でガンガン叫ばれている感じがして、カチコチに固まりそうになる。
でもこの人が、ランハートを殺そうとした悪者の仲間かもしれない。そう思ったら、足が動いた。
その人は部屋につくと、ドアを閉じてカギもかけてしまった。ずっと心の臓がどくどくうるさくて、息もおかしくなりそうで、抱っこしたミッテちゃんをぎゅっとしながら、帰りたいってお願いした。
ブルブルしそうになるのをガマンすると、のどがつまって声が出にくくなるみたいだ。いつも以上にうまく話せない。
それでも「帰る」っていう言葉はちゃんと言えたのに、その人はゆるしてくれなかった。ああこの人は、やっぱりランハートの言っていた悪者なんだってハッキリわかった。だからこんなに怖いんだ。
だけど――
「あなたの婚約者も、きっとあなたのことを嫌いになってしまうでしょうねぇ」
わたしの中から、怖いという気持ちが全部消えた。自分でもびっくりするぐらい、一気に。
あとになってわかった。わたしがそのとき感じたのは、『怒り』だった。
怖いよりも、悲しいよりも、ものすごく腹が立った。
嘘つき。ランハートは、わたしのことを嫌いになんてならない……!
のどがスッと通るようになって、わたしは大声で叫んだ。
何人もの騎士が入ってきて、悪者をつかまえてくれた。
それから、すぐにランハートもやって来て、わたしを抱きしめてくれた。
「よく頑張ったリシェル! 怖かったろう? でもおまえのおかげで、悪人が捕まえられたんだ。よくやったぞ!」
わたしの中で何かがカチリと外れたような、何かがはがれ落ちていくような感じがした。
何度もほめてもらえて、涙が止まらなくなった。
やっと止まったころには、ランハートの上着をびしょびしょにしちゃった。ごめんなさい……。
「リシェル。甘いお菓子、一緒に食べに行こう? 僕、食べたかったのがあるんだ」
ランハートはそう言ったけれど、わたしを元気づけようとしてくれたんだと思う。頷いたら手をにぎられて、二人でお菓子を食べに行った。
今日は何度も手をつないでいるけれど、わたしはすごくドキドキするのに、ランハートはしないのかな? わたしがへんなのかな。
だけどお庭にはあの女の子たちがいて、ふわふわした気分が沈みそうになった。ランハートはわたしがその子たちにいじめられそうになっていたのを、たぶん知らない。
近くのテーブルに座ってしまったから、その子たちもわたしのことに気付いている。
どうしよう、何か言ってくるかな?
そしたらちょうどそこにお姉さまがやってきて、お友だちを紹介してくれた。黒い髪ときれいな金色の目の、とってもしっかりしていそうなエアハルト兄さまだ。
「リシェル、どうしたの? 可哀相に。何があったのかしら?」
心配してくれるお姉さまにどう言えばいいのか困っていたら、ランハートが説明してくれた。
あれ? わたしがあの子たちに怒られていたのを知っていたの?
さっきつかまえた悪者のことは、ここではハッキリ言えないからなんだろう。ちょっぴり嘘がまじっていたけれど、でもだいたいは本当のこと。
「安心するといい、リシェル殿。身内の者が目撃したということなら、バウアー男爵にも報告が上がるだろう。今後、その令嬢達が男爵の催しに出ることはあるまい」
「わたくしも、そのような方々とはお付き合いしたくありませんわね」
エアハルト兄さまもお姉さまも、少し怒っていた。
――そうか。あの女の子たち、めちゃくちゃなことを言っていたんだな。
ヴェルクの家にいたころ、周りの使用人たちはこっそりわたしをいじめていた。誰も自分たちを注意できないようにして。
あの子たちがやったのは、それと同じ。わたしよりずっと年上で身体も大きくて、いろんなことを知っているはずなのに、何人ものお友だちと一緒に、ほかの人の見ていないところでわたしを取り囲んだ。
そして、「公爵家の一員にでもなったおつもり?」という言葉。あの使用人たちが言っていたのと、そっくりな言葉をぶつけてきた。
向こうのテーブルで、さっきまでニコニコお喋りしていた女の子たちから、笑顔が消えているのが見えた。
そうか。悪いことだってわかっていたから、ここなら人に見られないと思った場所で、こっそりわたしをせめたんだ。……本当に、あの使用人たちと同じ。
あの子たちを見て落ち込んでいた気持ちも、全部わたしの中から消えた。
残ったのは、ランハートとお姉さまとエアハルト兄さまとお菓子を一緒に食べるのが、とっても楽しいっていう気持ちだけだった。
■ ■ ■
その日の夜、夢を見た。
大切な人たちが誰もいなくなってしまった後、あの黒い大きな影があらわれる。
それはいつもわたしにおそいかかり、むしゃむしゃ食べてしまうんだ。
でも、その日はひとつも怖くなかった。
なんとなくわかったんだ。その影は、弱虫がとっても好きなんだって。
『火事だ――――――っっ!!』
叫んでやると、黒い影はビックリして、慌ててその場から逃げ出そうとした。
でもその前に、ご本の中の魔王さまが闇の中からあらわれた。
『ふははは、おろか者め! このわたしから逃げられると本気で思っていたのか!』
緑色の髪の魔王さまは、逃げようとした影を走って追いかけ、ぴょんと飛んでケリを放った。
闇の魔法じゃないの?
魔王さまの靴底が黒い影のお股にドカッ! と沈み、黒い影は『ぐおぉう!?』って悲鳴を上げてうずくまった。
うわぁ、痛そう。
ピクピクする影にお腹を抱えて笑い、わたしは自分のクスクス笑いで目が覚めた。
ベッドの近くにいる当番のメイドに見られて、ちょっと恥ずかしかった。
その日から、その夢は一度も見なくなった。
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更新のお知らせ:
1/13はお休み、1/14からまた投稿しますm(_ _)m
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