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家計にやさしい攻略潰し
72. 野望は広がる
しおりを挟むいつも読みに来てくださる方、ヨハンへの感想ありがとうございます(笑)
ふらっと寄られた方も楽しんでいただければ幸いです!
本日の投稿は1話のみです。
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せっかく昨夜は金縛りを忘れて一緒に寝られたのに、職務に忠実な奴らによって『同じおふとんダメ絶対』令が出されてしまった。
しかしあんまりゴネたら、今度はハンモックのバージョンで同じ部屋禁止令が出されるかもしれない。
俺よりもリシェルの身の安全を優先してくれそうな、いい使用人なんだけどさ。
ぬくぬくで気持ち良かったのに……。
ハンモックといえば、あれからファーデンの集落に戻り、代表者を何人か集めて作り方を説明した。
室内に吊るす時は結構スペースが必要なので、集落すべての家で利用できるかわからない。その上で使えそうな家は、試しに作ってもらうことにした。
「注意点としては寝る時の姿勢だ。吊るした方向に沿って縦に寝ると、床に転落しやすくなるし身体も痛くなる。必ず少し斜めに寝ること。それからうつ伏せ寝はダメだ」
リシェルが夜中に寒さを感じていたことから、今の季節でも夜中は冷えるかもしれない。だからハンモックの下側に、布を二重で付けることも提案した。
「下の布が風よけだ。ぴたりと張るのではなく、ゆとりを持たせたほうが温かくなると思う」
布の生産にあまり困らない土地なのが幸いだった。
しかも集まった代表者というのが、このあたりの集落で職人の役目をしている人々で、彼らは見たものを真似てだいたい同じように作ることができるそうだ。
考えてみれば設計図もないのに、この集落の家はどうやって建てたのだろう?
――この人達、図面がなくても建てられちゃうんだって。昔は誰かが結婚する時、家族の人数が多くて別に家を構える必要が出てくると、親兄弟が協力して建ててあげる(物理)ことが当たり前だったんだってさ。
集落の男全員、一級建築士?
建築用の木材を得られなくなり、その技術はひょっとしたら失われているかもしれないけれど。
外界との接触を制限され、何でも自力で用意しなければならない歴史があったせいか、もしくは神官の末裔という設定が仕事でもしているのか。
一家に一人は、必ず何かしらのプロがいる村……。
――これ全部死蔵して風化させるところだった先祖どもの頭、しばき倒したい……!
速やかにまた来ることを約束し、俺達は本邸に戻るべく馬車に乗り込み、ファーデンを発った。
「リシェル、疲れてない?」
「大丈夫だよ。不謹慎かもしれないけれど、とっても楽しかった」
「それならよかった。僕も楽しかったよ」
リシェルが楽しい、それ一番大事。
ところで……。
「カイ。ノア」
俺は従僕の二人を呼んだ。俺達の様子を微笑ましげに見守っていた彼らは、表情にサッと緊張をみなぎらせて居住まいを正した。
リシェルはともかく、俺が彼らの名を呼ぶのって、何気にこれが初めてだったりする。
「二人とも、歳はいくつだ?」
「わたくしは十六歳です」
「わたくしは十八歳です」
そんなに若かったんだ? もっと老け……いや、もっと大人かと思っていたよ。
紫がかった栗色の髪と瞳のカイが十六歳。ガタイが良くて、いかにもパワー型の兄ちゃん。
灰色がかった金髪と明るい茶色の瞳のノアが十八歳。知的な雰囲気のお兄さんだ。
どちらも護衛を兼ねているから、剣は使えないものの体術は得意らしい。
「おまえ達、僕とリシェルの専属になる気はあるか? もしあるなら、お母様にそのようにお願いする」
「……!」
「ただしわかっているだろうけれど、僕は裏切者を許さないよ。誘惑に勝てる自信がなければ、この話はなしだ。どうする?」
母上様やノイマンが俺に付けた者だ。護衛の訓練で叩き込まれてもいるだろうから、覚悟のない奴がここにいるとは思わない。
リシェルの膝で丸くなっているミッテちゃんもこの二人を警戒していないし、スパイじゃないことは明白。
なのにわざわざこんなことを訊くのは、俺がそれだけあの地を重視しているんだと理解して欲しいからだ。
専属とそうでない者は、待遇も違うし給金も違う。
二人は息を呑み、ややして、まずノアが口をひらいた。
「恐れながら、坊ちゃまの専属を希望した途端、旦那様への反逆の意思ありと罰せられることはないのでしょうか」
おや、とんでもないことを訊かれたぞ。
だけど、カイも硬い顔で俺の反応を窺っている。家に仕える使用人としては、まずそこのところが気になるようだ。
俺の性格的にそういう罠、身内相手でも平気で仕掛けそうって思われたかな。
「ないよ。今回、おまえ達も一緒に見回って、僕と同じものを見聞きしたろう。今後もあちらへ出向くことになるから、その際は同じ者を連れて行ったほうが勝手がわかっていいじゃないか」
知り過ぎた者を優先的に手元に置いておきたいのも本音だよ。
でも、彼らのことを個人的に好ましく感じているのも本当だ。俺のことを自慢の坊ちゃんとして持ち上げてくれつつも、一から百まで服従するイエスマンではない。
ほとんどの使用人が大喜びで飛びつくであろう甘い話に、即答せずちゃんと考えている慎重なところもいい。
「あの……わたしも、カイとノアがわたし達の専属になってくれたら嬉しいよ」
おずおずとリシェルが加勢してくれた。俺の言葉の含みに気付いている様子はないけれど、俺が「そうしたい」と望んでいるのはわかったからだろう。
彼らはリシェルの目を見て、心を決めたようだ。
「お許しいただけるなら、ランハート様のお傍でお仕えしたいと思います」
「わたくしも、お傍でお仕えすることをお許しいただけますでしょうか」
まずはカイが、次にノアが言った。決定打がリシェルの真摯な瞳だったことに文句は言わないさ、共感しかない。
疑り深い嫌な子供だもんね、俺って。
「許す。帰ったらお母様にお願いしよう」
俺が先日送った手紙の件でお忙しそうなら、ノイマンか執事に話を通せばいい。
リシェルがホッとして喜んでいる。純粋な笑顔が眩しいぜ。カイとノアも、我が婚約者殿の表情に緊張がほぐれたようだ。
そしてカイは俺の、ノアはリシェルの専属にということで話はまとまった。
ちなみにカイの普段の一人称は『俺』、ノアは『私』だそうだ。
「俺達は同じ孤児院の出身なのです。子供の頃に下働きとしてムスター家に雇っていただき、努力を買われ従僕になり、読み書きと簡単な四則演算も教わることができました」
幼馴染みみたいなもんか。いや、兄弟の感覚に近いのかな。
ほんのちょっとだけ腹を割った話をしたせいか、口調がいつもより砕けていて良い傾向だ。
「そうだ……あのね、ランハート。あそこの人達に、お勉強を教えてあげることはできないかな?」
「ああ、それなら僕も計画に入れるつもりだよ。まず彼らの生活の不安を取り除くのが先だけれど、ゆくゆくは子供を中心に、簡単な読み書きと算術を学ばせようと思っているんだ」
「そうなんだ! よかった。あのまんまだとこの先、騙されちゃうことたくさんあるんじゃないかって心配だったんだ」
さすがだリシェル、賢い。その通りだ。
俺は深く頷いた。
「我が家のご先祖様がたは、守るという名目で結局は彼らを閉じ込めていた。彼らは無知ゆえに自己防衛もできず、変なのに利用されるはめになってしまった。だから僕は別の方針で行く。目指すは子供の識字率七割超えだな」
「七割!?」
「七割……!?」
カイとノアが目を剥いた。
教養は金持ちや貴族のみが得られるもので、農村部の平民で読み書きのできる者は数人いればいいという話だから、これでも達成できたら脅威と言われる数値だもんな。
でもやっちゃうもんね。あれは俺がもらった領地、俺様が法律なのだ。ふははは。
母上様だって俺に「好きにおやりなさい」って言ってくれたもん。
その後もリシェルと一緒に楽しい計画を練り、時々カイとノアに突っ込まれ、諦念の漂うヒヨコを撫でつつ、俺達は何事もなく帰り道を消化した。
予想外に濃密だった視察の小旅行を無事終えて、懐かしのムスター本邸の前で馬車を降りれば、玄関前に出迎えの姿がある。
「ん?」
アデリナお姉様と、母上様。その横に、緑頭のオヤジが並んで立っているではないか。
なんでこいつまで?
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読んでくださってありがとうございます!!
更新のお知らせ:
1/26~1/27お休み 1/28から再開いたします。
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