どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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進む人々、停滞する人々

124. 某カップルが来ていたようです

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 読みに来てくださってありがとうございます!
 本日も1話投稿です。

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 育てている作物の種類が増えたおかげか、ここで振る舞われる食事は年々おいしさを増している。
 もともとこのファーデンの地は塩に困らない環境なので、舌が肥えてしまっている俺やリシェルが家庭料理をいただいても、困ったことは一度もなかった。
 塩のありなしで、味は大違いだからね。

 塩分の摂り過ぎ問題は、この世界ではあんまり聞いたことがない。
 栄養過多になる人自体がほとんどおらず、せいぜい貴族や富裕な商家のごく一部が、でっぷり肥満体型になる程度なのだ。
 とにかく肉体労働職の人間が多いので、むしろ塩分は摂ったほうがいいくらいである。

 うまうまと料理をいただき、俺とリシェルが客室に案内されると、そこには二箇所に分離されたお布団セットと、ここを越えるべからずと言わんばかりの仕切りが間に置かれていた。
 どこかで見た気がするね、これ。デジャヴかな?
 仮にもし結婚後もこうやって仕切られていたら、蹴倒して隣の布団に突き進んでやろうと心に決めた。
 まぁさすがに結婚後までそんなことなどないだろうがな。ないよな。

「若様、よろしいでしょうか?」
「ん、どうした?」

 護衛騎士の一人が、なんだか困惑と呆れの混ざった微妙な表情で声をかけてきた。
 俺に向けた顔ではなく、つい先ほど入った変な報告のせいでそんな顔になっているらしい。

 その内容を聞いて、俺は目が点になった。
 ついリシェルと目を合わせたら、彼もきょとんとして瞼をパチパチさせている。
 落ち着きと大人っぽさを増した美貌できょとんとされると、ギャップを感じていっそう可愛いな、なんてことはさておき。

「何を考えているんだろうな、あいつら?」
「あんまり何も考えていないんじゃないかな……?」

 おっとリシェルから辛辣なセリフが出ました。
 でもただの事実だよね、それ。

 ――少し前にティバルトとルチナがシュピラーレ公爵領側からファーデンに入ろうとしていたので、お帰り願ったそうだ。

 当然ながら、そちら側の道はもう何年も封鎖している。
 かといって道がムスター側からの一本しかないと、緊急時に孤立するかもしれない。
 なので馬車一台分が通過できるほどの門を構え、扉にはこちら側からかんぬきをかけて、さらに扉の前には木材で防壁を造っていた。
 その防壁を壊すバカがいるかもしれないので監視塔も建て、ムスター騎士団の者が何人か交代制で見張ってくれていたんだけれど……。

 野生のバカがあらわれた。
 いや、奴らは温室育ちだったか? でも本能多めで動いているよねキミ達。

 対応した者によれば、どうもルチナのほうが積極的に入りたそうにしていたらしい。だろうね。
 「あの向こうには何があるのかな」とか「気になるから見てみたい」と、やけにティバルトくんを焚きつけていたそうで。

「その様子が少々、妙だったようです。ルチナという少年は、あの道が塞がれていることに何故か驚愕したかと思えば、シュピラーレ公爵令息に『興味があるからあの向こうに行ってみたい』と強請ねだり始めたそうです。しかしその顔色は悪く、ただの好奇心には見えなかったとのことでした」

 だろうね~。
 意外にもティバルトまでがルチナの様子のおかしさを見て取り、「どうしたのだ?」と尋ねていたそうだ。
 およそ二年前は煽り耐性の低かった彼にも、年齢に応じた慎重さが備わってきたのだろう。一応はルチナのために、何故そこを封鎖しているのかを確認してきたものの、強引に押し通ろうとはしなかったようだ。

 その代わり、不愉快そうにはしていたらしい。自分の行く先を邪魔されるのは嫌いな奴だからな。
 封鎖については、ムスター領のことなのだからこちらの自由であり、詳細を知りたければシュピラーレ公に問えと答えてやったそうだ。
 あの出来事はシュピラーレ公から多額の賠償金をもらっているし、奴隷商人とその仲間は全員お縄、被害者も生きている者は全員戻ってきて、ムスターはそれで手打ちにした。
 だから関係者には口外を禁じ、一部の商人の間で少し噂が流れた程度である。

 ティバルトはますます嫌そうな顔をしつつも、無闇に食い下がりはしなかったそうな。
 過去ムスターとの間に、シュピラーレの有責で何かがあり、両家で話し合いがついているのだということぐらいは理解できたようだ。やはり二年前にはなかった知恵と思慮深さが、奴の中に備わりつつある。
 だから奴は踏み込もうとするのをやめたのに、ルチナは食い下がった。

『ティバルトが尋ねているんだよ。どうして教えてくれないの?』

 あ~、こっちは見事に成長しとらんなぁ。
 むしろ酷くなってんじゃねえ? ゲームでは強引なティバルトをたしなめるポーズを取っていたのに、すっかりガタガタじゃん。
 もろ、寵姫の立場をほしいままにしている奴の言動だよ。

「必死なようですね……もはや無意味ですのに」

 ミッテちゃんが俺の肩でピヨ……とむなしい溜め息をついたようだ。
 このヒヨコの言葉を理解できたはずがないのに、奇しくもリシェルが同意するかのように首をひねる。

「本当に無意味なことをするよね。空気が全然読めていないというか、読む気がないのかな、あの子」

 ――リシェルに百票。
 というかあやつ、この世には呼吸以外の空気が存在すること自体知らんのかもしれん。

「自分の評価が下がると、ティバルトの評価も下がる。そういうことを理解できていないのもありそうだけれど、そもそも自分の評判がそこまで悪いとすら思っていないのかもな」

 俺が言うと、リシェルだけでなく報告してくれた騎士も、近くで聞いていたカイとノアも、皆が呆れ果てた顔になった。
 ほんと、呆れ以外に浮かべられる表情ないよねこれって。

「……俺のお仕えする主人が若様でよかったと、心から思います」
「私も。若様のご伴侶様がリシェル様でようございました」

 カイもノアも嬉しいことを言ってくれるじゃないの。
 リシェルが嬉しそうだし、特別ボーナスを出したくなっちゃうね。
 いい使用人だから、そんなのいりませんって断られてしまいそうだけど。


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